そして、その扉は開かれる ⑦
ドアに取り付けられたベルの音に見送られて外に出た玲子はまぶしそうに目を細めながらいつもと変わらぬ通りを眺める。
だが、すぐに気づく。
何かが違うことを。
目の前に広がる光景は同じもの。
では、何が違うのか?
「車が来ない。というより、そもそも人がいない」
そう。
先ほどまで軽い渋滞気味に通行していた自動車の列がない。
もちろん、交通規制その他諸々の事情により、車の往来がなくなることは考えられる。
だから、そちらのほうはギリギリよしとしよう。
だが、歩道を歩く人がまったくいなくなるというのはどういうことだ。
しかも、それはいなくなるというよりもこの場所には人間というものが存在していた痕跡ない。
というか、存在していた雰囲気さえ感じさせない。
どちらかといえば、自分は別の世界に来たという思いさえ感じさせるもの。
「落ち着け。私」
どこかの「恥ずかしいセリフ」のひとつに入りそうなことを口にした玲子は、どのようなことになればこのような状況に陥るかを必死に考える。
「考えられるのは、この辺一帯に退去命令が出たこと」
だが、そうなると、その地域で営業していたあの喫茶店に連絡が来ないということはない。
たとえ、あのマスターが偏屈でその命令を無視しても、常連客まであそこまでのんびりしているはずがない。
では、とりあえずそれは保留ということで、この状況になる条件は他には何かあるのか?
玲子は必死に考える。
そして、辿り着く。
それに。
「もしかして……」
「これは異世界。いや。パラレルワールド?」
「ふん。何がパラレルワールドだ。ここはそんなものではない」
「誰も彼もなぜいつも同じ結論に辿り着くのかさっぱりわからん。本当に進歩のない奴らだ」