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身代わり宮の明玉  作者: 桃巴


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身代わり宮の明玉 二の二十

 夢うつつ。


 明玉はふわっふわっの意識の中で夜空に浮かぶ月に手を伸ばした。


『金子をおくれ、お月さん』


 明玉の願いに応じたのか、月がゆっくり降りてくる。


『わあお、大きな金子』


 明玉は嬉々として両手を広げる。

 月が降りてくる……落ちてくる……迫ってくる!


 ゴッツン


 盛大に照ら月(汀良王)の頭突きをクラった……。


「イッタッ」


 明玉は頭を押さえた。

 チカチカの視界とクラクラの頭。

 目を瞬かせて、周囲を確認する。


「ありゃ?」


 汀良王が明玉の胸ぐらを掴んでいる。

 その横に険しい顔の侍従徳膳。

 背後に、后と佳良公。

 さらに、ニヤけた顔の雨慈。

 身を潜めるように縮こまった紗蓉代妃とお付き女官が見える。


「起きたか?」


 汀良王が問うた。

 明玉は小首を傾げる。

 まだ、夢うつつ……いや、現状を理解していない。


 ただ、佳良公の手にあるそれが目に留まる。

 キラリと輝く銀の腕輪が。

 明玉の視線は、目前の汀良王より佳良公に釘付けだった。


「……おい」


 汀良王が明玉に低い声をかける。

 明玉は汀良王に視線を戻した。

 冷たい怒気が流れ出ている。


 明玉は一気に覚醒し、一気に状況を理解し、そして……観念した。


 汀良王が明玉の胸ぐらを放した。


「訊くことに、正直に答えろ」


 明玉はいよいよ追いつめられる。

 瞳が潤んでいる。

 汀良王の冷気が増す。背後の后は楽しげで、佳良公が憮然と明玉を見つめている。


「……まずは、この霊廟の様はお前の仕業か?」

「ピッカピカピカリーン?」

「ああ、そうだ」


 明玉はコクンと頷く。


「あ、あの、明玉代妃は、石州本廟の掃除経験もあり、同じように磨き上げられました」


 花鈴が少しでも明玉のためになろうかと、発言する。


「勝手に話すでない。代妃のお付き如きが」

「も、申し訳ありません」


 后が花鈴を制した。

 花鈴も凛音も、もうこれで明玉を庇うような、弁明するような発言はできなくなった。

 その様子を、雨慈がニヤニヤ見ている。


「腰飾りは?」


 明玉にとって、いきなりの腰飾り発言だった。脈略なく出た言葉に不思議な顔つきで、裳を少しずらして『碧龍の腰飾り』を見せる。

 御上の御印をこれ見よがしに飾れず、だからといって部屋にも置いておけず、いつも隠して持ち歩いている。


「大事な物はいつも持ち歩いております」


 汀良王がそれを確認すると、若干冷気が収まったような気がした。


「他は?」

「他?」

「いやあねぇ、狸寝入りにすっとぼけとは、小賢しいわぁ」


 后が言った。


「隠し事があるでしょおぉ?」


 明玉はギクリとする。

 それは、誰の目から見てもギクリの反応だった。


 汀良王の鋭い視線が明玉を射貫く。

 明玉は問われる前に吐いてしまおうと決意した。

 きっと、明玉の隠し事は、ここにいる者全てにすでに知られていることなのだろう。


 監査官の佳良公があれを持っているのは、そういうことだ。それを、汀良王にも后にも報告したのだろう。


 今、自分は詰められている。

 幽閉明けを待って詰められているのだ。

 隠し事……『金子の元』は白日の元にさらされるのだ。どうせ、明玉が口にしなくとも。


 ……明玉は完全に、まあ、色々と勘違いを発動していた。


「出来心だったんですぅぅぅ」


 明玉の独壇場が始まる。


 明玉は、佳良公の足下に這いずって土下座を披露する。


「流石監査官佳良公! 凄腕、凄目、いやいや、観察眼! この明玉に疑念を抱き調べ上げられたのですね。はい、はい、認めます、認めましょう。ええ、ええ、わかっております。その銀の腕輪が証拠。代妃という身代わりの身分を利用しておりました。だって、華会だって、身代わりの代わりで女官が取り仕切っていましたし、本廟参りだって代わりをして腰飾りに髪飾りといただけましたから、代わりの代わりは認められると思ったのです!! 懲罰の身代わりの身代わり、もちろん、タダでなど受けられませんわ。だって、物事には相応の対価が必要ですもの。私、善意の身代わりは致しませんから! となると、これ、これ、この親指と人差し指を輪っかにした物が必要なのですわ。ですが、代妃には……はあぁ、この輪っかちゃん、つまりは給金は少ないのですよ。なので、私は輪っかちゃんでないとも良いと、仏心を出したのです。まあねえ、こういうの『質品』と言うのでしょう。身代わりを回避したい代妃の方々から、ええ、ええ、預かりましたとも。身代わりの身代わりの対価を! 預けた対価を手に戻したいなら、輪っかちゃんを出せば良いって。はあー、まさか、監査官に目をつけられるとは……この明玉、不覚でしたわ」


 ……シーンと静まる霊廟。

 明玉はお構いなしに続ける。


「『金子の元』、回収されちゃってるのでしょう。ああぁぁ、うわあぁん、グスン、ただ飯食いにただ働きかあぁぁ、もう、ガックシですよ。まさか、御上や后まで引き連れて糾弾するなんて、佳良公の抜け目のなさに脱帽でございますね。帽子被っていませんが」


 あ、これ、完全に明玉が勘違いしているやつだ、と皆は気づいていた。

 だが、このなんともいえない場をどう収めるべきか。

 皆が汀良王がどう切り出すのかと窺っている。


「おい」


 汀良王が明玉を呼ぶ。

 明玉は瞬時に反応し、佳良公の足下から汀良王の下へとズザザザと動く。


「あの銀の腕輪は、お前の物か?」

「いいえ。いえ、はい? 輪っかちゃんを貰えなきゃ、私のブツになって、グヘヘ売り捌けますね。つまり、あれは『質品?』『預かり品?』……もっとちゃんと言えば、『仮押さえ品』ですかね」

「お前はあれを身に着けたことは?」

「いいえ、とんでもない!! あれは『金子の元』グヘヘ、金子に化ける品々。身に着けてしまえば、価値が下がります。身に着け代金を差し引かねばならなくなりますから」


 おわかりいただけたであろうか?

 策士策に溺れる。


「で? 身に着けてもいないあれを、なぜ代妃明玉の物だと」


 汀良王の視線が策士へと向く。


「佳良公が手にしている銀の腕輪が、代妃明玉の物で見覚えがある、……とその口は明確に言ったな?」


 ヒュッと雨慈が息を吸う音が霊廟に響いた。


「あっ、いえ、か、勘違いを、他の代妃の方と勘違いをしていたようにございます。うろ覚えを口した、私めの失態にございます」


 雨慈が青褪めながら答えた。


「うろ覚えか……なるほど。で、これは誰が落とした物だろうな?」


 汀良王が佳良公の手から銀の腕輪を取り、それを雨慈に見せつける。


「ああ、そういえば、不確かだが佳良公が落としたのだ、……とその口は言ったな?」

「はい、はぃ」

「不確かと言い、うろ覚えだとも口にする。なんとも危ういお付きだな、后よ」

「……私の監督不行届にございます、私のお付きが出すぎた真似をしたようで」


 后が低い声で応じた。


 明玉は、何やら不穏な会話をキョトンとした顔で聞いている。


「これが、ここにある経緯は……『公』の腰飾り同様に不明であるが、我はこれが佳良公の落とした物ではないと明確に証言できる。見ていたからな」


 明玉以外の者が『え?』というような表情になった。

 徳膳と共に前方にいた汀良王がなぜ背後の佳良公のことを見ることができるのかと。


「鏡のように磨き上げられたこの床のおかげだ」


 皆の視線が鏡仕上げの板張りの床に移った……映っていた……鏡のように。

5,10,15,20,25,30日毎更新

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