表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
身代わり宮の明玉  作者: 桃巴


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

22/64

身代わり宮の明玉 二十二

 明玉は後宮の戦場に目を奪われることなく膳を堪能している。


「……明玉代妃」


 花鈴が背後から呼んだ。


「はい?」


 明玉は振り返る。


「せめて華は見てください」


 呆れ顔の花鈴に明玉は愛想笑いを返し、華に視線を向ける。


 会場の隅に披露されている螺鈿細工の屏風と置き物を見て頷く。

 特にこれといった感想はない。


「ああいうのが十並ぶのね」


 后と九人の正妃、合わせて十の華が披露されるからだ。

 そう思っている間にも、次の華が披露されている。


「舞か」


 華衣の舞を一瞥する。

 明玉は興味をそそられず、再び膳に向かった。

 この場では、花鈴も明玉に小言は言えない。

 明玉は鶏出汁を堪能する。


「暖まるわ」


 広間は扉が開け放たれており冷気が入ってきている。

 開け放たれているのは仕方がない。

 広間の外にまで席があり、下位の朝廷の者、商団商人らは外の席である。


「明玉代妃、あまり汁物を召されると大変ですよ。花摘みにいけませんから」


 華会の間、厠へは行けないのだ。


「大丈夫よ。慣れているから」


 寒風吹きすさぶ裏山で、獲物を待つため半日程度待つこともあった明玉には、華会など屁でもない。

 寒風に慣れている明玉にとって、冷気など涼やかで心地よい程度のことだ。


「あなた達は大丈夫?」


 明玉は反対に花鈴らを気遣った。


「はい、大丈夫です。あの防具のおかげか、冷えを感じません」


 真綿たっぷりの下穿きの下穿きを身につけているからだ。


「そう、良かったわ」


 明玉は蒸し鶏を頬張る。


「美味しいわ」


 華会でも明玉は明玉であった。




 華会は后の華を残すばかりとなった。

 とはいえ、華の披露は華会の序盤でしかない。

 中盤に朝廷の者との挨拶。商団商人の后妃への営業。

 そして、最後に御上汀良王の華への賛辞となる。


 華への賛辞……華の序列が決まるのだ。

 その序列の頂はもちろん后であることは確か。


「私の華は、『牡丹』にございます」


 綺羅々后が言った。


 后の華といえば『牡丹』と相場が決まっている。

 牡丹こそ后の華の代名詞だ。他の正妃らが牡丹を披露しようものなら、后の位は私こそが相応しいと喧嘩を売るようなものである。


 牡丹が運ばれてくる。


「これは見事な」


 感嘆の声があちこちから聞こえてくる。


「牡丹百種です。御上、お好きな牡丹をお選びくださいませ」


 色とりどり、様々な種類の牡丹が百花。牡丹の共演は壮観だ。牡丹は、別名富貴花、百花王とも称される。

 まさに后の華。別名のように百花を揃えたのだ。牡丹だけで。


 綺羅々后の熱い視線が御上汀良王に向けられる。

 ある意味狡猾な言葉だった。今までの華のようにただ頷くだけに留めおけない。頷いたら、牡丹を選ばねばならなくなる。

 かといい、后の言葉を無視することもできない。開宮したばかりの後宮を統べる后を汀良王は軽んじている、などと思われよう。


 綺羅々后は、あえて汀良王が反応せねばならぬ言葉がけをしたのだろう。

 これは、后の捨て身な策でありながら、真っ当な流れともいえる。沙伊国の后として、初宴の儀華会で華の頂点を知らしめる。


 慣例では御上が后を称えて後宮が華々しく開く宴とするのだから。


「……これって、『そちこそが我の華』とかなんとか言われて、御上に選ばれるのを待っている感じ?」


 明玉はむせ返りそうな華の匂いに鼻を押さえるように口元を隠して花鈴に問うた。


「明玉代妃っ」


 花鈴が明玉の耳元で諌める。

 明玉は首を竦めて、汀良王の反応を眺める。


 汀良王が侍従徳膳に何やらコソッと告げた。

 徳膳が后の下までやってくる。


「花弁一枚を后に選んでもらいたいと」


 徳膳が汀良王の言葉を告げる。

 綺羅々后は笑みを浮かべたまま『仰せのままに』と軽く膝を折った。

 内心は悔しい思いが渦巻いていよう。


 御上汀良王は、どの華も選んでいないからだ。

 牡丹さえ、自身でなく披露した后に選ばせたのだから。それも、花弁一枚だけを。


 后が真っ赤な牡丹の花弁を摘んだ。若干、手が震えているのは、后としての立ち位置が揺らいだからだ。御上汀良王は、后の華さえ手にせぬと。


 徳膳が花弁を汀良王に持っていく。


「酒を」


 汀良王が言った。

 平たい盃が用意され、そこに酒が注がれる。


「華の酒にございます」


 徳膳が広間に告げて、牡丹の花弁を盃に浮かべた。

 汀良王は盃に口をつける。それから、その盃を徳膳に渡した。

 徳膳が綺羅々后の下に再度向かった。


「どうぞ」


 膝をついた徳膳が盃を綺羅々后に掲げる。

 綺羅々后は、震える手で盃を受け取る。


 御上から自身の華を浮かべた酒を賜ったからだ。


 声かけはない。華としても選ばれていない。后としての体面は保てない。そんな状況だった。

 それを、汀良王は酒を授けることで、后の体面を守ったわけだ。


「沙伊の華々しい未来を祈って」


 綺羅々后はそう言って、盃に口をつけた。

 同じ盃で酒を交わす。義兄弟の契りのような行いに、周囲の判断はどのようにも受け取れることだろう。


 信頼の証とも、華には見れぬが忠臣と知らしめたとも……もしくは、契りの盃を交わしたのだから僕として仕えよ。色々と解釈が可能なのだ。

 花弁一枚だけの関係と勘ぐることもできる。反対に華以上の存在だとも言えるわけだ。


 綺羅々后は、自分に有利な解釈を広めるだろう。

 

 汀良王は、綺羅々后の口元から盃が離れた瞬間に、徳膳に目配せした。


「一の膳を下げ、二の膳を」


 徳膳が指示を出した。


 華会序盤の一の膳はあっさりしたものが出される。華の披露がメインだからだ。

 二の膳は様々な点心と、酒が配膳される。食事の中休み、間食と酒である。

 挨拶などの交流でも、簡単に口にできる一口料理が出されるのだ。


 華会は中盤に入ったことになる。


「華々しい后妃にご挨拶を」


 徳膳が朝廷の重鎮らに告げた。

 朝廷の者による后妃への挨拶合戦が始まる。


 明玉はそんなこともお構いなしで、二の膳に目を輝かせた。


「朝廷の方々がご挨拶に来られますので、お召し上がりにはお気をつけください」


 明玉はササッと点心を口に入れた。


「グッフォ」


 熱いに決まっている点心に、明玉はむせた。


「明玉代妃、こちらを」


 凛音が水を明玉に差し出した。

 明玉は受け取った水でゴクリと点心を飲み込んだ。


「ハフゥ、助かったわ」


 明玉はこの失態を見られてはいないかと、周囲に視線を動かした。

 皆、挨拶を交わすことに集中している。こちらを見る者はいない。

 そこで、明玉は気づいた。


「……」


 明玉の所だけ誰もいないことに。

 明玉以外の代妃にも挨拶をする朝廷の者はいる。生家が苦しい台所事情であっても、名家のご令嬢であることに違いはない。

 官吏を輩出している家もあり、それなりに挨拶される人脈はあるのだろう。


 明玉の沈家も名家であるが、落ちぶれ名家。先々代以前から官吏も出していない家。朝廷に知り合いなど全くいないのだ。


「うん、これは予想通りね」


 明玉は楽しげに点心に箸を伸ばすのだった。

次回更新3/15

5,10,15,20,25,30日毎更新予定

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ