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身代わり宮の明玉  作者: 桃巴


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身代わり宮の明玉 二十一

 身代わり宮の庭に揃った代妃を見回す。


「……しでかしが多いわね」


 最高の身支度をした代妃が多いのだ。


「后の意図は理解しても、御上の目に留まりたいとの決死の思いがあるのでしょう」


 花鈴が小声で告げる。

 着飾ってしまった代妃の担当となった女官で、顔色の悪い者がいる。


「総じて、後宮……でしょうか」


 凛音が呟いた。


「あら、猿妃。あなた、最後の輿なのに気が早いわね」


 代妃の一人が明玉を猿と言って嘲笑った。

 明玉は花鈴に目配せする。


「身代わり宮、入宮一番の湖月代妃にございます」


 花鈴が小声で明玉に知らせた。

 明玉の見舞いを断った代妃で、正妃の座を狙っている。

 明玉は軽く膝を折って挨拶する。


「明玉でございます」

「今日は登らないの?」


 湖月代妃がクスクス笑いながら柿の木を見上げた。


「猿でも華を愛でられるのかしら? 間違えましたわ。猿でも華に化けられるのかしら?」


 湖月代妃の言葉に、着飾った代妃らが明玉を嘲笑した。


「湖月代妃、輿へどうぞ」


 案内の内官が声をかける。


「ごめん遊ばせ」


 明玉はただただ見送るだけだ。


「花鈴……私、やっとここが後宮だと実感したわ。『ごめん遊ばせ』なんて言葉を耳にできるなんて」


 明玉のすっとこどっこい発言に、凛音が口元を押さえる。


「明玉代妃……」


 花鈴が脱力した。


「失礼します」


 内官がコソコソと花鈴に声をかけた。


「なんでしょう?」


 花鈴が身を屈めて問う。


「御上より明玉代妃に言伝てが」


 なるほど、コソコソとなるわけだ。

 凛音と二人の官女が、花鈴と内官を隠すように集まる。

 明玉は、それら背後の動きを気にしながらも、代妃らを見送る。


「干し柿を持参せよとのことです」


 内官が小声で言った。





 汀良王はすこぶる機嫌が悪い。


「先代の改革を修正するのが、ここまで厄介だとは」


 先代の改革信奉者を納得させる修正、改革によって被害を被った者も納得する修正、双方を取り持ち現実可能な案にするのに時間がかかっている。


「専売廃止に自由市場でしたか」


 徳膳が口にする。

 既得権益に大きく踏み込んだ改革は、正しさゆえに市場を混乱させた。


「それだけじゃないのが問題だった」

「軍部改編と外朝改革、租税まで手を出して、あらゆる方面で軋轢が生まれました」


 徳膳の言うように、先代は一気に改革を推し進めたのだ。


「全ての改革案は間違いではなかった。だが、早急過ぎた。根回しなく大鉈を振ったわけだ」

「ええ、汀良君が止めなければ、沙伊は崩壊しておりました」


 徳膳が汀良王を名で呼んだ。

 汀良王はフッと笑う。


「懐かしい呼び名だな」

「失礼しました、私としたことが」


 徳膳が口元を押さえて頭を下げる。


「構わんさ、そちとの仲だ」


 汀良王と徳膳はいわゆる竹馬の友、幼なじみである。

 王の子、男児の公子君には必ずや同年代のお付きの従僕が三人はつく。

 汀良王も同じくお付きは三人いたが、今は徳膳しかお側にいない。


 残りの二人は先代に感化され引き抜かれたからだ。


 徳膳が汀良王と笑み合った。


「専売廃止や自由市場の軌道修正に、後宮を利用するとは、御上もよく考えましたね」

「まあな。各商団の既得権益の一つを自由市場にする代わりに、後宮の御用達を授ける。自由市場を望む新興商人にはその市場を開放するが、専売開放はしない」


 汀良王は双方に損益均等となるように取りはからったのだ。


「とはいえ、燻りは続きましょう。専売の一つを損失した元々の商団、自由市場で商いを始めていた新興商人は限られた市場となったこと、どちらも心にしこりを持っておりますから」

「地道に双方を歩み寄らせるさ。後宮御用達は元々の既得権益を持つ商団に、後宮の后妃の私的御用聞きは新興商人に。華会で融和に持っていこう。……だが」


 汀良王の顔が曇る。


「問題なのは華でしょうか?」


 徳膳が汀良王の杞憂を察する。

 ここで言う華とは、后妃のことだ。


「煩わしい。……あれには言伝てたか?」

「はい、仰せのとおりに。公の場で献上させる意図は?」


 汀良王は顎を擦りながら口を開く。


「ちょっとした余興にでもしようと思ってだ。先の后妃の集まりを利用して、あれの方便に合わせておこうとな」

「密命の干し柿でしたか」


 徳膳が笑う。


「后妃の華への褒美に、内々に代妃に干し柿を作らせていた。とまあ、そんな話にしておけば、あれの方便も立つだろう」


 あれとはもちろん明玉である。


「後宮も融和してもらいたいものだ」

「無理でしょう」


 徳膳の即答に汀良王は苦笑する。


「後宮があれのような華ばかりだったら、どんなに気が楽だったか」

「それは後宮とは言えません」


 これまた徳膳の反応に汀良王は笑い出す。


「確かにな」

「あれのような華ばかりの後宮では、密偵が何人いても足りません」


 終いには汀良王は大笑いとなる。


「久々に笑った」

「何よりです」


「御上、華会の準備が整いました」


 案内の内官が部屋の外から声かけをした。

 汀良王から笑みが消える。

 表情を引き締め、徳膳と頷き合う。


「……行くか」

「はい」


 波乱の華会が、幕を開けようとしていた。




 後宮初宴の儀、華会。


 末席に座った明玉は、豪華な膳に目を輝かせる。

 后妃、代妃らが御上に秋波を送っている中、明玉だけが異質だった。


 背後に控える花鈴と凛音、官女二人は残念な主に頭を抱えたい気持ちだ。


「では、白梅正妃から華を披露していただきましょう」


 徳膳が促した。


 白梅正妃はお付き女官に目配せした。

 最初の華が披露される。


 その華に、汀良王は頷き、后は微笑した。


「螺鈿細工の梅にございます」


 螺鈿を使って、見事な梅の華を屏風に咲かせた。

 漆黒の屏風に映える螺鈿の梅。


 華が動く。


「ほぉ、これはこれは」


 朝廷の席から、感嘆が漏れた。

 白梅正妃は、汀良王と后に披露した後に、朝廷の者や妃らに屏風を正面に見せたのだ。


 白梅正妃が誇らしげに笑みを浮かべた。


「どうぞ、お見知りおきを」


 白梅正妃が朝廷や商団らに挨拶をして、振り返る。


 汀良王の声かけを待っているようだ。

 だが、汀良王は軽く頷くだけ。


「白梅正妃、見事な華でしたわ」


 代わりに綺羅々后が声をかけた。

 白梅正妃は嬉しげに頭を下げる。内心は悔しいだろうが、それを顔には出せない。


「次の華を」


 徳膳が言った。


 白梅正妃の華披露は終わりとなり、麗羅正妃が立ち上がった。


 白梅正妃とすれちがう際、麗羅正妃が『申し訳ありません』と小声で告げる。白梅正妃は一瞬眉をしかめた。

 麗羅正妃の華が姿を表す。

 白梅正妃は目を見開く。


「螺鈿細工の蝋梅にございます」


 白梅正妃が呆然とする中で、麗羅正妃が告げた。

 まさかの螺鈿細工かぶりだ。

 それも、梅と蝋梅。

 一方は平面に屏風。もう一方は、立体の置き物。


 華を動かすことなく、華会の者全てに披露している。


「枯れず咲き誇る永遠の華にございます」


 麗羅正妃が螺鈿細工の蝋梅に触れる。


「どうぞ、愛でてくださいませ」


 麗羅正妃は御上を向いて発した。

 華は、朝廷や商団にも見えている。あえて、振り向くことをしないことで、白梅正妃と差をつけたのだ。


 この勝負、確実にに麗羅正妃に軍配が上がった。


 皆が汀良王を窺う。

 なんと声かけをするのかと。


 汀良王は今回もただ頷いただけ。


「麗羅正妃、とても素晴らしかったわ」


 綺羅々后が麗羅正妃に告げた。

 汀良王の声かけがないことに、安心した表情だった。

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