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身代わり宮の明玉  作者: 桃巴


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18/64

身代わり宮の明玉 十八

「猿芝居をしていたように思います」





 いざ、開演。


 ヨヨ


 チラッ


 ヨヨ、ヨヨ


 チラッ、チラッ


 明玉は、周囲を覗いながら、泣き真似をしている。


 明玉を初見の嬪屋敷の女官は、なんとも困ったような表情をしながら、身代わり宮へ案内した。


「あの、失礼します。私、そこの嬪屋敷を担当している女官ですが」


 騒がしい身代わり宮の門前で、嬪屋敷の女官が遠慮しながら、声をかけている。

 明玉は、その女官の陰に隠れながら、物陰に隠れる彩輝宮の女官に気づいた。


『やっぱりな』


 明玉の所在が分からなくなり、慌てふためく身代わり宮を見物して、后にその様を報告するのだ。


「忙しいの、急用じゃないなら、あとにし……明玉代妃!?」


 ヨヨ

 明玉は渾身のヨヨをかます。


「こ、の、方に、案内して、ヨヨ、もらって、ヨヨ」


 袖口を目頭にあてながたら、なんともそれらしく、明玉は芝居した。


 チラッ


 彩輝宮の女官が明玉の早い戻り、残念そうに眺めている。


「ご親切に、ありがとうございます!! お付き女官を連れて参りますわ」


 カポカポ履物を鳴らしながら身代わり宮へ入っていき、花鈴を伴って戻ってきた。


「明玉代妃!! よう、ご無事で」


 明玉は、これ見よがしに花鈴に身を寄せた。

 顔は袖口で隠したままで。


「ヨヨ、見られない顔ですの、ヨヨ」


 ことさら、彩輝宮の女官に分かるように演技する。

 彩輝宮の女官が『いい気味』と陰口を言ったのが、口角の動きで明玉には分かった。


『シメシメ、ちょろいな』


 二ッヒッヒと笑っている顔は、袖で隠している。


「さあさあ、中へ。おみ足も痛ぉございましょうに」


 明玉を守るように女官らが囲み、門内へと促された。


 身代わり宮の門扉が閉まる。休宮中なので、閉門しているのだ。


 バタン


 明玉は閉門の音を確認すると、バッと顔を上げる。

 集まった女官や官女らが、素顔の明玉に驚く。


「そ、その、お顔は……」

「スッキリ、サッパリ、拭ってくれたのよ、后のお付き女官雨慈が」


 皆が信じられないとばかりに、口元に手を当てた。


「そのような屈辱を受け、輿も用意してもらえず、案内人もいない状態で、よく……よく……お戻りになられました。明玉代妃、辛ろうございましたね」

「へ? ぜーんぜん」

「やせ我慢はせずとも良いのです。ここは、もう身代わり宮ですから、お気楽に」


「あ、そう? じゃあ気兼ねなく。迷子のフリも楽じゃないわね」


 明玉は肩を自身の拳でトントンと叩いた。


「あ、そうそう。私、休宮中は化粧禁止だって、后に命令されたわ。でもね、化粧に息苦しさを感じていたから、『なにそれご褒美じゃないの』って思っちゃって」


 明玉は手扇で顔を扇ぐ。


「それで、后が『今日中に辿り着けるといいわね』って送り出したから、それらしく迷子になってみたわ。久しぶりの自由時間で思わず足を伸ばしたら、廃れた宮殿に辿り着いたの。実家を思い出して、思わずそこで一眠りしちゃって」


 明玉はそこであくびをしながら、体を伸ばした。

 少しばかり涙目になり、明玉は指で目元を拭った。


 ここまでの間、明玉以外の者は誰一人として反応できずに固まっていた。


 普通の妃なら、化粧を落とされ、輿も用意されず、案内人もいない状態で、放り出されれば、悲しみや悔しさ、心細さで打ちひしがれるはずだ。


 それこそ、后が口にしたように、身代わり宮に戻ることもままならない状況である。

 なにせ、後宮に入ってたった十日ばかりの妃なのだから。


「あ、あの? 明玉代妃」


 花鈴がやっと明玉に声をかける。


「おみ足は……」


 痛くないのかとの気遣いだ。不動の刑に続き、後宮内を歩き回った状態の明玉を、花鈴だけでなく集まった者らも心配していた。


 そこでやっと皆が動き出す。

 椅子やら、お湯やら、薬やらを用意し始める。


「おみあし? 足ね! 大丈夫、二本健在よ」

「はい?」

「后の逆鱗に触れて、ぶった斬られるかもとか、足の指ニ、三本は切り落とされる覚悟はあったけれど、后ってば案外お優しいのね」


 いや、全然優しくなどない、そう皆は思っているが、あっけらかんとしている明玉に言えはしなかった。


 そこに、椅子が持ってこられる。


「さ、さ、明玉代妃。お座りを」


 明玉は半ば強引に座らされた。


「おみ足失礼致します」


 官女が明玉の高履きと足袋を脱がせる。

 温かいお湯が運ばれてきて、そこに足を入れられた。


「うふぁぁ」


 明玉は気持ち良さに感嘆の声が漏れた。


「明玉代妃、私が彩輝宮にいない間にどのようなことがあったのでしょうか?」


 花鈴が痛ましげな顔つきで訊いた。

 明玉は小首を傾げて、思い出してから口を開く。


 御上の扇子の件(花鈴在中)

 膝つき待機の件

 お茶の件

 華会の件

 后の扇子の件(花鈴在中)

 白梅正妃陥落の件(花鈴在中)

 化粧の件


 と、明玉は話していく。

 皆が絶句した。

 明玉の秀逸な対応に驚きながらも、された仕打ちに心痛な面持ちだ。言葉も出ない。

 当人の明玉はケロッとしているが。


「……本当に、よくご無事でした」


 花鈴が声を震わせて言った。


「後宮にて迷子になり、命を落とす者も年に数人はいるのです」


 それこそ、後宮にあがったばかりの官女などは、行き先に辿り着けず、彷徨い続ける。助けを乞うても、下位の者など鼻であしらわれ応じてもくれない。


 下働き新顔の官女を使いに出させる虐め、それがまかり通るわけだ。


 明玉は高履きだったことで、嬪屋敷の女官は対応したのだ。


「裏山に比べれば、後宮内は分かりやすいけれど」


 明玉は不思議そうに首を傾げた。

 すでに、明玉は後宮の見取り図を脳内で六割方描けている。

 明玉が普通ではないのだ。


「お膝の確認を」


 花鈴が明玉の足をほぐす官女に指示した。

 下穿き、足首の裾紐が解かれる。


「あっ、ちょっと待って」


 明玉の静止はどうやら遅かった。

 膝まで捲られた下穿きと……見慣れぬ何かが現れる。


「へ、へへへ」


 明玉は笑って誤魔化した。


「……」


 花鈴他皆が、明玉の膝を凝視する。

 明玉は横を向いて、素知らぬ顔で口笛の真似事をした。


「ご説明を」

「へへへ」

「ご説明を」

「あ、お腹空いちゃった」

「ご説明を」

「……」


 今度は明玉が無言になる。


「ご・せ・つ・め・い・を」

「ひっ」


 花鈴の圧に明玉は口を割った。


「秘密兵器、違うわ、秘密防具」


 明玉の膝から足首にかけて、分厚い布があてられている。膝に至っては、さらに補強された布に覆われていた。

 いや、上半身にも防具を仕込んでいる。

 明玉が少しばかりふくよかに見えたのは、そのせいだ。


「……ご説明を」


 花鈴がそれを凝視しながら言った。


「要するに、後宮十刑の対処品。陰宮で懲罰はできないから、虐めで考えられるのは不動の刑と形動の刑、三絶の刑あたりでしょ。だから、膝つきになっても辛くないようにしておいたのよ」


 不動の刑にしろ形動の刑にしろ、膝が一番辛くなるわけで、明玉は裏山活動で使っていた秘密防具を身につけていた。


 裏山では枝やら棘やらの中で活動するわけで、明玉は膝や脛などを補強した下穿きを使っていた。着替えの際に、コッソリ下穿きのさらに下に仕込んでおいたのだ。


 もっと詳しくいえば、綿まで仕込んで改良した物を。


「明玉代妃!!」

「ヒィごめんなさい!!」


 明玉はズルをしたのを責められると思い、すぐさま謝罪する。


「どうか、これの作り方をご教授くださいませ!!」

次回更新2/25

5,10,15,20,25,30日毎更新予定

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