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第4話

 それから1ヶ月くらいが経って、ほとんど傷が癒えてくると、今度は眠れなくなった。昼間寝ているため、夜になると目が冴えて仕方がなかった。


 ある夜、眠れなかった私は上着を羽織ると部屋を出て、こっそり近くの中庭へおりた。中庭へ続く通路は静まりかえっており、王宮の中とはいえ不気味に感じてしまう。


 中庭を突っ切って、奥にある東屋(あずまや)へと向かう。東屋の中にあるベンチに腰かけると空を仰ぎ見た。


 空には、ぽっかりと青白い月が光っていた。

 冷たく(たたず)む月。


 月を見ると、誰かを思い出しそうになる。そんな風に物思いに(ふけ)っていたら、誰かが近づいたのにも気がつかなかった。


「誰だ?」


 気づけば、騎士の格好をした若者が剣を抜いていた。


 私は慌てて立ち上がると、最敬礼をする。


「騎士様。夜中に申し訳ありません。私は、ドルク公爵令嬢、アメリアと申します。寝つけずに、夜中にもかかわらず散策をしておりました」


「アメリア嬢か‥‥‥びっくりした」


 見回りだろうか? 騎士は、私の事を知っていたらしく、剣を収めてくれた。


「あの‥‥‥」


「重症で、いまだに治療中と聞いていたからな。驚いたよ。だいぶ‥‥‥良くなったのだな?」


 そう言って、暗がりの中から出てきた騎士様は金髪に青い目をしていた。端整な顔立ちにもかかわらず、無表情だったため、今ひとつ、なんと言っていいか分からなかった。


 何かに似ていると思ったら、先ほどまで見ていた月だと思った。(おごそ)かで美しい───だけど、孤独な感じがする。そんな失礼なことを考えていた。


「記憶が‥‥‥無いのだったな。気にしなくていい。ここへは、何をしに来たんだ?」


「寝つけなくて散歩に‥‥‥月を見ていました。騎士様は見回りですか?」


「そのようなものだ。だが、途中で疲れてしまってね。そこの東屋で、少し休もうかと思っていたんだ」


 一等兵だろうか? 騎士の制服の左胸部分には階級を示すエンブレムに星が1つ付いていた。


「まあ。ではサボリですわね。私は、もう行きますので、お気になさらず───黙っておきますわ」


 私はクスクスと笑うと、その場を立ち去ろうとしたが、彼に腕を(つか)まれてしまう。


「あの‥‥‥」


「待ってくれ。その‥‥‥一緒に月を見ないか? 私も最近、眠れなくてね。少し、話し相手になってくれると嬉しい」


 急な申し出に、私は首をかしげる。少しなら───構わないかしら。


 一緒に東屋のベンチに腰かけると、空を見上げた。月はいつの間にか雲に隠れてしまい、空の彼方には、星たちがキラキラと輝いてる。


 隣を見ると、私の顔をマジマジと見つめる騎士様がいた。


「きゃっ!!」


「??」


「‥‥‥」


「ああ、すまない。顔に傷は残らなかったのかな。と思ってな」


「ご心配いただき、ありがとうございます。騎士様は、その‥‥‥私の上司か何かだったのでしょうか?」


「うーん‥‥‥まあ上司と言えば、上司だな。あんな無茶をさせるために、前線に行かせるつもりでは無かったのだ。申し訳ないことをした。許してくれ」


 騎士様は私に向き直り、頭をさげた。


「許すも何も、覚えてないので何とも申し上げられません」


「そうか‥‥‥」


「でも、気になさらないでください。私も大人ですから、自分の行動には自分で責任を持ちます」


 そう言うと、騎士様は何故か泣きそうな顔をしていた。


「アーリャ国のために戦ってくれたこと、感謝している。君がいなければ、王は殺され、民は全て奴隷になっていただろう」


「そんなこと‥‥‥魔法を使えるものならば、当然ではありませんか」


 実際、魔法士は余り多くない。魔法を使える者は、100人に1人くらいいるが、そのうち魔法士として戦える基準を満たすものは、ごく(わず)かである。


「魔法の事は覚えているのだな?」


「ええ。基本的な事は覚えているので、生活面では困らないのですが、それ以外の事は何も思い出せないんです」


「それで、いいのかもしれないな」


 騎士様は小さく(つぶや)いたが、何を言っているかまでは聞こえなかった。


「‥‥‥騎士様?」


「私は、君が生きていて良かったと思っている。私にとって、君は唯一の人だ。意味は‥‥‥分かるね?」


『唯一の人』‥‥‥それは、この国独自の言い回しで『世界中でただ1人、君だけを愛している』という意味であった。主に、恋人間でよく使われる俗語である。


 私は内心あせった。まさか自分が、今ここで告白されるとは思わなかったのだ。


「話をするだけで構わない。またここで、会ってくれないか?」


 真剣な瞳から目をそらすことも、断る事も出来なかった。


「‥‥‥はい。お話だけならば」


 気づけば、返事をしていた。王との結婚は、難しいだろう。傷だらけの私に、嫁の貰い手はなかなか見つからないに違いない。ならば、自分はどうやって生きて行けばいいのか。


 ずっと、考えていた。流されてみるのもいいのかもしれない。


 その日から夜中の密会ならぬ、デートが始まったのだった。




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