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少年の思い出  作者: さっぽろな
1/2

前編

「おーい!ランドセル置いたらいつもの公園に集合な!」


「わかった!」


学校が終わると同時に俺たちサッカー少年は手袋もマフラーも身につけることなく、教室を勢いよく飛び出した。曲がり角を四回ほど曲がったが誰にもぶつからなくて良かった。


担任の鈴木の「坂田!廊下は走るんじゃねぇ!」という注意の怒声が校内にこだましたが、それを無視してとにかく急いで家へと向かった。大好きなサッカーをするために。こんなところで一分一秒でも時間を無駄にする訳にはいかないのだ。


下駄箱ですれちがった友達にバイバイとだけ告げ全速力で家に帰った。辺りには木枯しが吹き荒れていて走る俺の体を冷やした。手袋くらいは着けておけばよかったかな。




俺はとにかくサッカーが大好きな小学生のコウ。自分で言うのもあれだが天才だと言っても過言じゃないと思う。サッカーをやるために生まれてきたと言ってもいいくらいサッカーが好きだし、上手だと思っている。


まず俺はまわりのどんな奴らよりサッカーがうまい。正確なパスは出せるし、最低でも同年代キーパーには止められないような強力なシュートを打つ自信もある。先生には誉められ友達には称賛され……とサッカーにおいては欠点のなさそうな俺だがそんな俺にも欠点がある。


それは……算数が苦手なことと、絶望的にリフティングが下手くそなことだ。算数が出来ないことはまだいい。きにしてない。だがリフティングが出来ないことは大いに問題だ。友達が十回出来たーだの俺は二十回できるぜ!だの張り合っているのを二回しか出来ない俺は黙ってみることしかできないのだ。


今はサッカー上手というレッテル、肩書きのお陰でリフティング

が上手いというイメージが皆の中にありそれが疑われることはないがいつボロがでてイメトレがくずれてしまうかわからない。本当にリフティングも上達させないと……。


うーん、でもまあ今日はいいか。今日は友達と皆でいつもの公園でサッカーの試合をする予定なのだ。試合は俺の得意分野だ、絶対活躍してやるぞ。


それから帰宅後、三十秒もたたないうちにサッカーボールを持って公園へと駆け出した。お母さんの手洗いうがいしなさい、という声を無視して。今日はどんなシュートを決めて歓声を浴びようか考えているうちにあっというまに公園へと辿り着いた。公園には既に友達が十人くらい来ていて皆それぞれで走ったりボールを蹴ったりとウォーミングアップを始めていた。公園に入り俺もウォーミングアップを始めようとすると俺の到着に気付いた親友の安永建、通称ケンが話しかけてきた。


「おー坂田、来たのか。」


ケンは頭は良くないが面白い奴でクラスのムードメーカーとしての地位を確立している。サッカーが特別上手なわけではないがたまにキラリと光るプレイを見せる、俺の親友でありながらライバルでもある存在だ。


「来たぞ!さ、今日も活躍するから期待してろよ!」


「ふん、俺の方がお前より活躍してやるもんね!」


「何だと!」


しばらく二人でじゃれあったあと二人でパス回しやボールの取り合いをして体を暖めた。その後俺とケンがキャプテン同士のチームで五人vs五人の十人でサッカーの試合をやった。その試合で俺は三点、ケンは一点決めた。ふふん。


その試合の後、ケンには「やっぱりお前はサッカーだけは狂気的に上手いな。」と言われた。



明くる日の土曜日、珍しく皆親と出掛ける用事があるとの事で誰一人としてサッカーの相手になってくれる人がいなかった。まあそんな日もあるかと思いしょうがなく俺は一人でリフティングの練習でもしようと公園へ向かっていた時だった。


いつもの公園に奇妙な雰囲気のお兄さんがリフティングをしていることに気付いたのだ。このお兄さんは大人にも子供にも見えない。恐らく高校生だろう。


そのお兄さんは黒と白の混ざった髪を振り乱しながらも軽い足取りで、右、左とボールを足でコントロールしたり背中を使ってボールを自由に操っていたりと……。とにかく上手で俺の憧れになった。俺は公園の柵を飛び越えお兄さんの近くへと駆け寄りじっとお兄さんのリフティングを眺めていた。


するとお兄さんに「誰だ?お前。見せ物じゃないぞ。」としっしっと手を振られてしまった。


「ご、ごめんなさい!俺、サッカー大好きなんだけど、リフティングが苦手で……。それで、あの、お兄さんのリフティング凄いなって思って。良かったら教えてくれたらなって。」


小学生の拙い日本語でなんとか自分の意思を伝える。お兄さんは目を細めこちらを値踏みするように見た。


「ふーん。お前サッカー好きなのか。」


「う、うん!大好き!」先程の緊張はどこへやらサッカーが好きかと尋ねられると時を置かずして瞬間的に肯定出来た。


そんな僕をみてお兄さんはフッと笑って「そうか。ま、ならいいや。ただ、俺が出来るのはリフティングだけだ。他は多分お前より下手だぞ。それでもいいならよろしくな。」と言った。


「本当!?ありがとう!お兄さん。宜しくお願いします。」この日から公園に誰もいない時、そして二人のタイミングが重なった時限定で俺と名前も知らないサッカー上手なお兄さんとの特訓が始まった。




それから日を跨ぎ、お兄さんと三回会った時ぐらいのことだ。今日も変わらずお兄さんの特訓を受けていた。しかし……


「うーん……お前全然上手くならねえなあ。」


お兄さんは自分の練習をしながら僕の練習をみてくれていた。


「そうですねー……うーん、悔しいなあ。」


お兄さんに駄目だしされた適当に足を出すクセはきちんと辞めることが出来たのだがそれだけではうまくなれていなかった。


「お兄さん、どうしたら上手くなれる?」


お兄さんはボールを足で抑えて僕の顔を見ながら答えた。


「ああ?そんなの練習するしかねえよ。何回も何回も失敗して練習してやっと上達するんだよ。リフティングに関しては俺だってそうだったよ。」


「そうですよね……もっと頑張ります」


項垂れていた俺にお兄さんは声をかける。 


「まあそんな落ち込むなって。お前は昔の俺より全部上手いよ。すぐ悪いクセも直せるしそれに俺が言ってなかったボールのあげかただってすぐ見つけてもう身に付けてる。お前にはリフティングの才能もサッカーの才能もあるはずだ。」

お兄さんは少し苦しそうな顔をしていった。


「お兄さん!ありがとうございます!もっと頑張ります!」

お世辞でもお兄さんに誉められるのは素直に嬉しい。苦しそうなお兄さんの顔はどこか引っ掛かるが。


それにしても失敗も多く荒い面ばかりの俺の中からいいところを見つけたり、悪い所を修正したりとお兄さんにはものを教える才能があるのかもしれない。そんなお兄さんをこれから師匠と呼ぶことにしよう。---後日改めて師匠ーとお兄さんを呼んでみると少し困った顔をしていたが恐らく喜んでいた……と思う。


そう決意してお兄さんがシュート練習をしているのを横目にリフティングの練習をしているとミスをしてしまいボールが保育園年中くらいの幼児たちがいるところへと転がっていってしまった。


師匠にケガさせないうちにとってこいとどやされたので足早にボールを拾いに行くと幼児たちがコーチのような人に指示されて1vs1をしてるところだった。


俺がボールを探す前に二人の幼児がボールを見つけてくれていて1vs1を中断して俺の前に持ってきてくれた。 

「どうぞ!」


「ごめんね、ありがとう。」

誰にも怪我がなくて良かったと思いながらそういえば師匠のサッカーの腕前はいかほどだろうかという疑問が沸いてきた。リフティングは天才的に上手い師匠だが師匠がリフティング以外のことをしているところをほとんど見たことがない。本当に申し訳ないがさっき師匠のシュートを見ていたところケンの本気のシュートの威力とほとんど変わらなかった。


リフティングがあれほど上手い師匠だがパスやシュートは実際のところどうなんだろうか。下手な訳がないと思うが、気になる。


小学生の俺の好奇心の火は一度ついたら止めることは出来ず、さっそく行動に移した。


「師匠。俺とボールの取り合いしませんか。」


「藪から棒に、どうしたんだよ。」


「いやさっき幼児達が1vs1の練習をしてたのを見て思い付いたんですけど師匠とリフティング以外でサッカーの関わりがないなって。だから俺がもっとサッカーが上達するように、やりませんか!」


そういって俺が目をキラキラ輝かせながら師匠の顔を見ると困ったような苦しそうな顔をしていた。

先程まで師匠が蹴っていたボールが虚しくポン、ポンと辺りに響きその音が鳴り止むと師匠は口を開いた。


「俺は……お前よりドリブルもシュートも、サッカーの全てにおいてお前より下手だ。悔しいけどな。だから俺がお前に教えられることはリフティングだけなんだよ。」


「そ、そんなこと。」


「事実だよ。ごめんな。」


「……」


「お前みたいに希望と才能で溢れた奴はきっともっと凄い奴に指導して貰えよ。その方がお前の将来のためだぜ。」


この後、重苦しい雰囲気が続きこの日の特訓はこれで終わりとなり自ずと解散ということになった。


お兄さんは「じゃあな。」とだけ言い残して公園を去った。


俺はリフティングを師匠に教わている身だ。それ以外の事を要求したら困ってしまうのも当然だ。あんまり師匠を困らせないのうにしないとな。俺の目的はお兄さんのサッカーを見ることじゃなくてリフティングを得意にするためだ。俺は自分の頬を一発強くはった。本来の目的を思いだしサッカーをより上達させるために。


俺はとにかくお兄さんにリフティングを教えて貰おうと再決心して家へ帰った。

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