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第8話 内気な僕、ただふたりを見守る


 今、僕の目の前でファンとカスミが雌雄を決しようとしている。


 視線だけで射殺そうとするかのようにカスミを激しくにらみつけるファン


 一方のカスミは普段と変わらぬ表情で泰然としている。


 ファンの後ろではチャトリーヌが祈るように手を合わせている。


「フゥゥーーッッ!」


 両手を水平に構えたファンが大きく息を吐き出す。



――数分後。


「ハァァーーッッ!」


 今度は片足立ちとなったファンれっぱくの気合を入れる。



――――さらに数分が経過。


「ホッホォォーーッッ!!」


 口を丸め高い声で叫びながらファンが体の前でゆっくりと両腕をクロスさせて行く。

 


 

「キィエェェーイ!!」


 ファンがさらに次の構えに移行しようとしたその瞬間、


 一息で距離をつめたカスミが軽い前蹴りを放つ。


 腕の上から小型爆弾のような蹴りの直撃を受けたファンが、両腕を交差させたままの状態で後方へとフッ飛んで行く。


 ――――ふとんでもそんなにフッ飛ばないだろう……それほどのすさまじい勢いで。



 壁に激突しそのまま床へと崩れ落ちたファンが苦悶の表情で激しくのたうち回っている。


 おそらく両腕にはヒビでも入っているのだろう。


 激痛のためかファンの目に涙がにじんでいる。



 カスミはそんなファンには目もくれず、茫然と立ちつくすチャトリーヌへと近づいて行く。


 僕は息をつめ、ふたりの接近を見つめる。


 ついに真正面から対峙するカスミとチャトリーヌ。


 そしてチャトリーヌに向かってカスミが口を開こうとしたまさにその瞬間。


「死ねぇーッッ!!」


 床に突っ伏したままのファンが最後の力を振り絞り、ふところから取り出した拳銃をカスミへと向ける。


 しかし銃口を向けられたカスミの表情は一切の変化を見せない。


「あ、危ないっ!」


 拳銃を目の前にした僕はとっさにそう叫ぶことしかできない。



 無力な僕をよそに、引き金を引こうとファンの指にいよいよ力がこめられようとした――


――――刹那、


「警察だ!全員その場で大人しくしろ!」


 中年男のドスの効いた低い声がとどろく。



「いよいよ年貢の納め時だな、ファンヘイロン


 自身に満ち溢れた刑事らしき男の声に、ファンはその指の動きを止める。


 多少冷静さを取り戻したのであろうか、その醜く歪んだ血まみれの顔にはどこか諦めのようなものが感じられた。


 それはまさに双頭竜ダブルドラゴンという組織が終焉を迎えた瞬間でもあった。



 ☆☆☆☆☆☆

 


 ファンヘイロンがふたりの刑事に両脇を抱えられるようにして引きずられて行く。


 その顔には苦痛、憤怒、悔恨さまざまな感情がブレンドされているようであった。



「ま、待ってっ!」


 重苦しい空気が支配する中、愛する男へと必死に駆け寄ろうとするチャトリーヌ。


 しかし焦りのためか足をもつれさせたチャトリーヌは前のめりに床へと激しく倒れ込む。


 四つん這いとなってしまったチャトリーヌはそれでも懸命にファンへとその手を伸ばす。



「約束したじゃないっ!今年も海へ行くって!いっぱいお尻にボラギ〇ールを塗るって……あなた約束したじゃないっ!!」


 チャトリーヌの声が空しくこだまする。


 どこかうつろな目つきのまま大人しく連行されて行くファン


「ああああーーっ!!ああああああーーーっっ!!!!」


 床に這いつくばったまま慟哭するチャトリーヌ。


 涙でメークがはがれ落ちたその顔はもうグシャグシャだ。


 カスミがそんなチャトリーヌに近づき、そっとその肩に手を乗せる。


「ちゃーくん……」


 カスミは沈痛な面持ちだ。


 ようやく上体を起こしたチャトリーヌがすがるような視線をカスミへと向ける。


 カスミはそんなチャトリーヌの瞳をじっと見つめ静かにうなづく。


「あぁーん!ああっ、ああっ、あぁぁーーんっっっ!!!」


 飛びついたカスミの胸の中でまるで子供のような大声で泣きじゃくるチャトリーヌ。


 その光景をただ静かに眺めることしかできない僕はさながら無力なミュージカルの観客のようであった。




『あの時、カウントダウンはもう始まっていたのかもしれない』


――――僕はそんな気持ちを抑えきれないでいた。



 それは僕たち3人の関係において。


 僕と茶太郎の関係において。


 そして、なによりも僕とカスミの関係において。




 君の運命の人は僕じゃないのだろう。


 ツラいけどそれは否めない……グッバイ


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