第6話 内気な僕、情報収集する
今日はエイプリルフールではありません!
……(念のため)
カスミから頼まれたからという訳ではないが、僕は翌日から早速行動を開始した。
こういった場合まずは自分の出来ることから始めるのが鉄則であり、焦りは禁物なのだ。
僕が最初にしたことは学校内で茶太郎の目撃情報を集めることだった。
茶太郎はその派手な見た目から学校ではかなり目立った存在といえる。
その整った顔立ちとちょいワルな雰囲気で女生徒からの人気も高い。
僕はとにかく茶太郎のクラスメイトや同じ中学の先輩・後輩などひとりでも多くの生徒たちに情報提供を求めた。
数日間に渡る調査の結果、実に様々な情報が僕の元へともたらされた。
僕は集まった情報を分析し、いらない情報は切り捨て関連性のあると思われる情報を組み合わせて行く。
パズルのピースは組み合わされ、やがてひとつの形を成して行く。
そして最終的に浮かび上がったのは繁華街の外れに位置している、とある施設の名前だった。
その名は、
――留学生支援団体〈やすらぎの窓〉。
僕の手元にあるチラシには代表名とその活動内容が細かく記されている。
代表の名は李建一。
・留学生のアルバイト・就業先のあっせん
・留学生と日本人学生との交流支援事業
・ボランティア希望の日本人学生の募集
などなどそこには実に多岐に渡る項目が並んでいる。
チラシの下側には事務所の入っている会館の場所を記した地図と連絡先もしっかりと掲載されている。
その会館には事務所の他、宿泊施設や多目的ホールなども完備されているらしい。
尚、多目的ホールは通常ティールームとして開放されているので、興味のある方はぜひ一度お立ち寄りくださいとのコメントも書かれている。
まあ、一言でいうと極めてウサン臭い団体であることは間違いと言えるだろう。
ただ少なくともこの団体に茶太郎が関わっていることに疑いの余地はない。
僕はチラシを全て見終わると、制服の内ポケットから手早くスマホを取り出す。
単純な操作で開かれたスマホのアドレス帳には僕のお目当ての人物の名前が表示される。
僕はフッと短く息をはき出してから画面上のその名前をゆっくりとタップした。
☆☆☆☆☆☆
空調の行き届いた快適な空間。
軽やかに店内を流れるジャジーなBGM。
落ち着いた調度品の数々と内緒話にはピッタリの間接照明が取り入れられた店内。
オフィス街から一本外れた裏通りにある隠れ家的な喫茶店で、僕とカスミはひとりの男と向かい合って座っている。
「やぁ、シン君。ずいぶん久しぶりだね」
口ひげをたくわえた30代前半くらいの男が軽い調子で話を切り出す。
「はい、おひさしぶりです。加東さん」
僕は男に向かって軽く頭を下げる。
男の名前は加東純一。
僕の母方の祖父が営む古武術道場の門下生であり、僕とは兄弟弟子の関係にあたる人物である。
ちなみに僕は道場でも数少ない黒帯保持者、彼は緑帯のいわゆる練習生である。
繁華街の裏手にあるカクテルバーのバーテンをしており、いわゆる情報屋としても有名な男だ。
「まぁ前置きはこのくらいにして本題に入るとしようか」
加東は軽く咳払いをしてから意を決した様子で話し始める。
「シン君、それにしてもキミの友達もまたずいぶんとヤバいヤツらに関わっちまったもんだねぇ」
すっかりと冷えてしまった紅茶を前にして僕は加東の話に黙って耳を傾ける。
「〈やすらぎの窓〉代表、李建一。その正体は黄飛龍、ここ数年で飛躍的にその勢力を拡大してきた新興のチャイニーズマフィア双頭竜のボスで中国拳法の使い手だ」
厳しい表情でそう断言すると加東はさらに説明を続けて行く。
「〈やすらぎの窓〉ってのはもちろんヤツらの隠れ蓑さ。アコギな商売に必要なシロウト集めのためのね。売春・麻薬・留学生の給料のピンハネ・詐欺に恐喝……ようはなんでもなんでもござれの極悪集団ってやつさ。」
話すうちに段々と興奮してきた様子の加東だがここで少し言いよどむ様子を見せる。
店内のBGMが途切れ、静かな空調の音だけが聞こえている。
僕はじっと加東を見つめ、視線の動きで話の続きを促す。
やがて加東が諦めたようにゆっくりと息をつく。
「あとはまぁ、そのボスの黄のことなんだがな……なんでもその筋では美少年好きとしても名を馳せているらしい……」
僕の隣りで苦渋の表情を浮かべるカスミ、テーブルの上で重ねられたその手は不安のせいか小刻みに震えていた。
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