表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/24

8. 楽しい昼休み

 今までのお昼休みの最大人数は二人。

 もちろん相手は、あのグレン。


 それがなんと。

 今日からは二人と二体。

 お昼休みを一緒に過ごす仲間が増えた。魔獣だけど。



 今日は、セツナたちを召喚する兼ね合いもあり、学園の屋上で食べることにした。

 屋上に到着するや否や、グレンは手際良くシートを広げ、その上にお手製のお弁当を並べていった。


「え、これグレンが作ったの?」

「はい。今日はお祝いですので」

「お祝い?」

「ティアが魔獣と主従契約を結べたことのお祝いです」

「それはグレンもなのに。私の好物ばっかり……。グレンは料理もできるんだね」


 王宮にいた頃の食事はシェフが作ってくれていたから、グレンの隠れた才能を見つけた気分だ。


 そんなこんなでお昼の準備ができたら、二人でセツナとルカを召喚する。


「コール」


『うぉ!?』


 突然召喚されたルカは変な声を出した。

 セツナはさすが鳥と言いますか、召喚された瞬間広い空目掛けて優雅に飛んでいった。


『なんだここ?』

「こ、ここは屋上です。今はお昼休みなんですが、お話ができたらなと思って呼びました……」

『ああ、昨日言ってたあれか。まあ聞きたがってるのはあの鳥だろうよ』


 自分が呼ばれた理由を聞いて、ルカはすぐ納得してくれた。


 あの鳥と言ってルカが見たのはセツナだ。

 たしかに、私に聞きたいことがあると言っていたのはセツナだ。ルカはあくまで、セツナとおそらく同じことが気になったというだけ。どうしても聞きたいわけじゃないらしい。


『てかここ、狭くないか?』


 それはルカが大きいから。

 とは口が裂けても言えない。

 言った瞬間怒られそうだ。


『んー。小さい方がいいか?』


 ルカは考える様子を見せて、私にそんなことを聞いてきた。


 小さい方?

 小さい魔獣のほうが良かったかって話?


 私はルカに不満はないけれど。

 そう、返事をしようとしたときだった。



 しゅるるる。




「え!」


 目の前にいた大きな黒猫は、みるみる内に小さくなった。一瞬にして、膝に抱っこできるくらいの標準サイズに早変わりだ。


「る、ルカ!?」


 突然小さくなってしまったルカに、私は戸惑いを隠せない。


「普通のネコさんだ……!」

『小さくなっても魔獣としての力は変わんねえから安心しろ。森に行く際なんかは、敵に気づかれないようにこういうサイズの方がいいだろ?』


 自由に大きさを変えられることをドヤ顔で話すルカ。

 王都は結界で守られているけど、結界の外にある森には悪い魔獣なんかもたくさんいると聞いたことがある。多分私が危険な森に行くことはないので、ルカの大きさ変更が役に立つことはないかもしれないなと思ってしまったが、せっかくルカが持っている能力だ。それはここでは伏せておこう。



「セツナ、降りてこい」


 ルカのサイズ変更に驚いていると、後ろではグレンが空を飛び回っているセツナを呼んでいた。セツナは呼ばれてすぐ降りてきた。


『すまない。空を見るとつい自由に飛んでしまって』

「そうか」


 セツナが顔を差し出せば、グレンは流れるようにその顔を撫でていてとても仲が良さそうだ。昨日契約を結んだばかりにはとても見えない。



「いいなあ……」

『お前も触りたいのか?』


 グレン達の姿を羨ましげに見ていると、ルカからそんな提案をされる。


「え!」

『いいぞ別に。減るもんじゃねえし』


 ルカ、意外と寛容。

 口は悪いけど。


「じゃ、じゃあえっと、だ、抱っことかしても……?」

『ん』


 抱っこもしていいかと聞いてみたら、ルカは小さくした体で私の方に一、二歩近付いてくれた。つまり抱っこして良いという意思表示。


 私は恐る恐る手を伸ばし、ルカを抱き上げる。


 ふわぁ。

 やわらかな肌触りがたまらない。


「良い毛並みですね」

『なんだそりゃ』


 感想を間違えたみたい。

 思ったことを言ってみたらルカに鼻で笑われた。



「ティア。そろそろ座ってください。話はお昼を食べながらにしましょう」

「あ、うん!」


 名前を呼ばれ、私はルカを抱いたまま慌ててグレンの元に行った。


「……ティア? 何を抱いているんですか?」

「あ、この子ルカなの! 大きさを自由に変えられるんだって」

「いえ。そういうことではなく」

「?」


 グレンはなんだか変な表情をしている。

 一応、どうかしたの?と声をかけてみたが、グレンはすぐに笑顔に戻り、なんでもありません、と言ってくれた。


 私はそのままシートの上に腰を下ろし、お弁当を見て何から食べようかと思案する。

 悩む私に、グレンはいい感じにお皿に取り分けてくれた。


「どうぞ。他にも食べたいものがあれば取りますので言ってください」

「うん」


 グレンからお皿を受け取り、きちんといただきますをしてからおかずを口に運ぶ。


「美味しい!」


 一口目からその言葉が出た。

 お世辞ではなく、本当に美味しい。

 王宮で食べていた料理とほとんど遜色ない出来だ。


 グレンが嬉しそうにこちらを見ていて、私はもぐもぐと他の料理も食べていく。


 いくらか食べたところで、セツナが本題を切り出してくれた。


『グローヴェンのお嬢さん。主様は知っているみたいだからここで聞いてもいいか?』

「あ、はい! なんでもどうぞ!」


 私は箸をお皿の上に置き、正面から質問に答える態勢を整える。


『そなた、フォトンの姓ではないか?』

「え……?」


 フォトンの姓?

 え、え、え??


「あの、いったい何を……」

『不躾ですまない。そなたからは王族の気を感じるのだ。だから、グローヴェンという名は偽りで、本当は王族の、フォトンという姓ではないのかというのが聞きたかった』


 王族の、気……?

 そんなものが私から?


 なんなら、王族らしさなんて何一つない引きこもり王女ですけど、それでも王族の気があるの?


 気なんてものは初めて聞いた。

 魔獣だけに見える特別な何かだろうか。


 あ、もしかして。

 だからルカも、私が自己紹介でグローヴェンを名乗ったときに不思議に思ったのかな。


 グレンをチラリと見るが、グレンから話すつもりはないようだ。私の意思を尊重してくれるのだろう。


 ……セツナとルカには、話してもいいかな。


 自分たちと主従契約を結んだ魔獣だ。

 ここから話が広まることはないだろうし。



「あ、あの……一応秘密にして欲しいんですが、私実は……王女なんです」


『ほう』

「セツナさんの言う通り、グローヴェンは借りた名前で、本名はミスティア・フォトンです」

『なぜ偽名を?』

「それは、話せば長くなるんですが……」

『てか、この国の王女は引きこもりだって聞いたことがあるが、外に出てこれたってことか?』

「あ……」


 ルカがいともあっさり答えを言い当ててしまった。王女の引きこもりが魔獣の耳にも入るくらい有名だったとは……。


 でもルカが言ってくれたおかげで、あとはセツナが推察してくれて話は進んだ。


『なるほど。学園は引きこもりだった王女のリハビリ場所ということかな』

「……そ、そんなところです。引きこもり脱却のために入学したものの、未だに友達が一人もできなくて全然成長できてはないんですが……」

『その男は友達じゃねえのか?』

「あ、グレンは……私の、従者です。なので友達ではなくって」

『従者ねえ……』

「なんだいルカ。何か言いたいことがあるのかな?」

『いや、なんでもねえよ』


 グレンが従者だとも教えると、ルカが訝しげにグレンを見たが、グレンに質問されてルカはすぐに視線を逸らしていた。


 この二人、いつの間にか仲良くなってる?

 なんとなく会話の距離感が私とルカのそれより近い気がする。


『おいミスティア』

「あ、はい!」

『友達作りたいならまずはこいつと離れた方が賢明だぜ』

「へ」


 突然呼ばれて何かと思えば、グレンと離れた方が良い?


 それは……私が一番分かってるけども。



「おい。変なことを言うな」

『変なもんか。こいつが一人なの、ぜってぇお前のせいだろうが』


 グレンがルカに抗議しているが、ルカは意見を変えない。ついさっき仲良しのように思えた二人が、途端に険悪なムードになる。これは私が仲裁に入らなければいけない。


「あ、あの。私に友達ができないのは私のせいなので、グレンのせいではないです。……でも、グレンと離れた方が良いというのも分かっています。それはえっと、近いうちに……ちゃんと離れようと、」

「は?」


 離れようと思っている。

 そう言い終わる前に、腹の底から出したような低い声が聞こえてきた。


「グレン……?」


 いつも穏やかなグレンのそんな低い声は初めて聞いた気がする。


「……ティアは、僕が嫌いなんですか?」


 私の言葉にショックを受けたのか、グレンは俯いてしまった。しゅん、と飼い主に怒られた子犬のように見えてくる。


 でも嫌いだなんてとんでもない。

 それは全力で否定した。


「ううん! そうじゃなくて、」

「嫌いじゃないなら、離れなくて良いんじゃないですか?」

「え? いや、」

「ティア。僕は貴女の側にいると誓いました。その誓いを破らせないでほしいな」

「あ、え?」


 ……あれ?

 今そんな話だったっけ?


 私はただ、グレンを自由にするために自立を……。


「ティア」


 いつもの笑顔なのに、なぜか圧を感じる。


「僕から離れるなんて言わないですよね?」


 あなたから離れて自立したいの、とは言えない雰囲気を察知して、私は仕方なく、こくこくとただ首を縦に振った。

 すると、グレンから感じた圧は一瞬で消えて肩も軽くなる。


「よかった」


 いつものグレンに戻ったみたいで、私はほっと胸を撫で下ろす。一方ルカは、私の膝の上でケッと吐き捨てていたが、そんな感じでこの日のお昼は楽しく(?)過ごすことができたのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ