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6. 初めての召喚魔法

 一ヶ月経っても友達ができないと嘆きながら、私は午後の授業を受けていた。


 科目は、召喚魔法。


 これまで座学で学んだことを、ようやく実践にうつす。みんなで魔獣を召喚してみようという日だ。


「ドキドキするね」

「ねー。どんな魔獣が出るかな」

「可愛い子がいいなあ」

「いやいや、召喚するなら強いやつだろ!」


 クラスメイトたちは興奮冷めやらぬ様子。

 私も同じ気持ちではあるものの、その輪には入っていけない自分がもどかしい。


 召喚魔法の実践。

 魔法を使って魔獣を呼び出す授業。


 この学園には、生徒一人一人の能力値に見合った魔獣を召喚できる特別な装置がある。召喚と言っても、召喚元は学園内にある魔獣飼育場。野良の魔獣を捕獲して生徒たちが授業で使えるようにしつけ、召喚先でも暴れられないように特殊な首輪が付けられているそうだ。

 生徒はその特別な装置を使って召喚魔法を発動し、魔獣を呼び出す。呼び出した後は、生徒と魔獣で話し合い、可能なら主従契約を結ぶ。どちらか一方でも気に入らない場合は契約は結ばれない。

 契約を交わした魔獣は、今後いつでも呼び出せるようになる。より強い魔獣と契約を交わせた場合、卒業後の進路が有利になるとあって、生徒たちはこぞって契約を結びたがるが、実際に結べるのは一握りらしい。


 魔獣は気難しい子が多いと聞くし、いきなり知らない人間に呼び出されてその人と主従契約なんて、なかなか結ばないに決まっている。


 先生は「魔獣と話し合って」と言っていたが、魔獣との主従契約は魔獣側の直感なのだと家庭教師に聞いたことがある。魔獣が人間と目を合わせ、気に入られれば契約を結べる。しかも魔獣に気に入られるのは強い者のみらしい。


 つまり私は論外だろう。


 契約を結ぶことは最初から諦めているが、それでも魔獣を呼ぶことができるのは楽しみだ。




「皆さん準備はいいですかー?」


 ガヤガヤと浮き足立っている生徒たちに、号令を発したのは魔法学を教えてくれているリリー先生。ふわふわした見た目でおっとりした話し方の先生だ。


「それではお待ちかね、魔獣を召喚してもらいましょうか」


 リリー先生がじゃーん、と登場させたのは変哲のない水晶体。


「先生。それが装置ですか?」

「はい。この水晶こそ、座学でお伝えした特別な装置。この水晶に向けて召喚魔法を発動させれば、皆さんに見合った魔獣が現れるというわけです。さて、どなたから行きますか?」

「あ、俺一番行きたいです!」

「はいじゃあ君、こっちに来てー」


 詳しい説明は座学の時点でしてくれていたので、早々に実践が始まった。先生が立候補を募れば、威勢のいいクラスメイトが一人手を挙げ、一番手を担った。


 その人が水晶に手をかざして召喚呪文を詠唱すると、水晶は光り出して上方にワームホールが出現した。


 わあっとみんなが歓声をあげ、ドキドキわくわくしながらワームホールを見つめていると、魔獣がシュンッと現れた。


 あれは……ネズミ?



「は?」


 普通のネズミよりは若干大きいが、ネズミはネズミ。正直、魔獣の中では弱い部類だと思う。召喚者に見合った強さの魔獣が出るというのに、出てきたのがネズミでは拍子抜けだろう。


 あいつネズミかよ、なんてひそひそ話が横から聞こえてきて、それはきっと当人の耳にも聞こえているはずで。


「先生! これ壊れて、」

「ませんよ」


 その男子生徒は咄嗟に水晶に問題があると言い出していたが、リリー先生は笑顔で否定した。


「君はたしか接近戦タイプでしょう? 召喚魔法は君の分野ではないから、召喚できたのも弱い魔獣だった。それだけの話です。水晶のせいにしてはいけません」


 あの子が君に見合った魔獣なのだと受け入れなさい、と先生はネズミを指差しながら、男子生徒の肩をポンッと叩いた。


「あとは個別であの子と話して、主従契約をどうするか決めなさい。……さて、次は誰が行きますか?」


 リリー先生は男子生徒に主従契約の話をしつつ、早々に次の生徒を呼び出した。


「次は私……!」

「その次は俺が!」

「あ、ずるい俺も!」


「あーはいはい。じゃあみんな水晶の前に列を作ってー。全員に召喚してもらうから焦らずにね」


 先ほど召喚されたネズミよりは強い魔獣が出ますようにと願いながら、生徒たちは水晶の前に整列して自分の番を待つ。


 順々に召喚していけば、すぐに私の番が回ってきた。


 も、もう私の番なの……?


 緊張で早くなる心臓を抑えつつ、深呼吸をして呪文を唱える。



【我のしもべとなるもの。ここに姿を現せ。コール】



 他のクラスメイト同様にワームホールが出現し、シュンッと私の力に見合った魔獣が……ん?


 んん?



『んあ? 何だここ?』



 目の前には黒猫が一匹。

 しかし残念ながら抱っこはできない。


 黒猫と言ってもそこら辺にいるサイズじゃない。もっとこう……なんというか……特大サイズ。体長はゆうに五メートルを超えていると思う。


 これが私に見合った、魔獣?



「え、ヤバくない?」

「あれって、強さ的にはどうなの?」


 クラスメイトのひそひそ話が聞こえる。

 私も同じ意見である。


『おい』


 普通サイズの黒猫ならなんてことはない、予想通り弱い魔獣だったねー、で終わったのに。目の前に出てきたのが特大サイズ過ぎて強いのか弱いのか皆目見当がつかない。


『おーい』


 しかもさっきから幻聴が聞こえて、


『おいってば!』

「は、はいぃい!」


 幻聴じゃなかった!

 このネコさんに呼ばれてた!!


『お、ちゃんと聞こえてるか』

「すすすみません。その、魔獣に会うのが初めてで……」


 私は魔獣に対して平謝りした。

 この子が学園で飼育している魔獣だから良いものの、もしこれが野良の魔獣だったら私はきっと丸飲みされてただろうな。ぱくっと。あれでもネコは人間を食べたりはしないかな?

 ……なんて馬鹿な想像が膨らむくらいに、この子は大きくて怖い。だから怒らせない方が良いと、私の本能が悟っている。



『俺を呼んだのはお前だよな?』

「はい……。勝手に呼んで申し訳ありません……」

『名前は?』

「えっと……ミスティア・グローヴェンです」

『グローヴェン?』


 ネコさんは私の名前を聞いて怪訝そう。

 グローヴェンなんて無名な家門のやつに召喚されて不服とかそんなところでしょうか。



「グローヴェンさん」

「あ、はい先生」

「あなたすごいわね」

「へ?」


 リリー先生が近づいてきて、まじまじとネコさんを見上げている。


「この魔獣、学園で飼ってる中で最高クラスよ」


 最高クラス……?

 このネコさんが……?


 でもだって、私の能力に見合った魔獣のはずで。それなのに最高クラスが出てくるものなの?


「先生、この水晶壊れて、」

「ませんよ」


 再び、先生は笑顔で否定した。


 私はちらりとネコさんを見る。

 ネコさんはもう状況を把握したのか、呑気に毛繕いを始めていた。


「じゃあグローヴェンさん。あっちでその子と話してらっしゃい」


 そう言って先生は無情にも、私をネコさんの前に差し出したのだった。

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