21. 婚約の報告 ※グレン視点
「お父様たちに会えるの!?」
「うん。魔法を使えば一瞬で行けるよ」
両親に会えると分かり喜びの声をあげたのは、俺の可愛い婚約者、ティア。二人を瞬間移動させる魔法はそこそこ疲れるが、ティアの愛らしい笑顔が見られるならいくらでも頑張れる。
ティアはこの国の王女だ。
お父様と言うのはいわゆるこの国の国王陛下。彼女との婚約のお許しはプロポーズするよりも前にもらっていたけれど、今回は改めて、ティアと一緒に婚約の報告をしようというわけだ。
ただ、今は全寮制のフォトン国立魔法学園に通っているから、本来であれば簡単には会いに行けない。会いに行けるのは長期休暇のときだけと決まっているのだ。
しかしティアは王女なのだから、そんな決まりはあってないようなもの。事情を全て知っている理事長に話せば外出の許可はすんなり下りた。とは言え正面から馬車を使って出れば他の生徒たちからティアだけなぜ?と疑問の目を向けられてしまう。だから、誰にも見られないよう空き教室から魔法を使って王宮の応接間に移動しようと考えたのだ。
「次に会えるのはもっと先だと思ってたのに」
「婚約の報告は早く行かないとね」
にっこりとそう言うと、ティアは少し照れ臭そうに、えへへ、と笑った。まだ『婚約』という単語を聞くと照れるみたいだ。
……可愛いすぎか。
贔屓目なしに、ティアは可愛い。
一挙手一投足が可愛すぎる。
ほんと、どうして引きこもっておいてくれなかったのかと悔やまれるが、まあ話を聞いてみたら俺のためだったと言うのだから、何も言うまい。むしろそのおかげで、早いうちに婚約までこぎつけられたと思えば……まあ良しか。あとは俺が、ティアに悪い虫を近づけないようにすれば良いだけだしな。
「じゃあティア。手を貸してくれる?」
「はい」
手のひらを差し出せば、ティアは何の疑いもなく、ぽん、とその綺麗で真っ白な手を俺の手のひらの上に乗せてくれた。
俺はその手を軽く握って、魔法を発動させた。
────次の瞬間には、目的地に到着した。
「おお、王女よ!」
「お父様!」
着いてすぐ、娘との再会を待っていた国王陛下が声をかけてきた。陛下の隣には、慎ましく王妃殿下も立っている。
ティアは真っ先に二人の元へ駆け寄って行き、挨拶をした。
「お父様、お母様。ただいま戻りました」
「堅苦しい挨拶は無用だ」
「そうよ。そんなことよりその愛らしい顔を見せてちょうだい」
「ふふ、お母様ったら」
三人はとても幸せそうだった。
家族のいない俺には無縁のものだったけれど、これからは俺もミスティアと……将来生まれる俺たちの子供と、あんな風に仲の良い家族になれたら良いなと願ってしまう。
「そうだわ。私たち話があって来たんです」
「あ、ああ……そうだったな。じゃあ座って話そうか。アニス、お茶を持って来てくれ」
「はい、ただいま」
再会の喜びもそこそこに、ティアが本題に入った。俺が離れたところに一人で立っていたから気を遣わせてしまったようだ。
陛下に促されて皆ソファに座ったところで、俺から婚約の話をした。
「改めまして、王女様と婚約したく、そのご報告に伺いました。ただ、とりあえずは婚約だけで、結婚は我々が卒業後にするつもりです」
「卒業後? 今後も学園に通い続けるつもりなのか」
「はいお父様。その件については私がグレンにお願いしました。結婚は卒業後でも遅くはないでしょう?」
「な、ならば婚約も卒業してからにするのはどうだ!?」
するわけないだろう。
この先三年間、男どもが大勢いる学園に通わせるのに、婚約もせずにいられるほど広い心は持ってない。それにティアだって良い歳なのだ。表向きは引きこもり王女だからそこまで多くはないが、国内外から結婚の申し込みも来始めていると聞く。下手に婚約を先延ばしにして誰かにティアを取られでもしたらやり切れない。
まあ、愛する娘の結婚を先延ばしにしたい陛下の気持ちは分からないでもないが……。
「陛下。王女様は学園で正体を隠しているため、護衛するのもなかなか大変なのです。その点、婚約さえすれば常に一緒にいる大義名分を得られますので助かります」
「う、うむう……」
「あなたってば。この期に及んで大人気ないこと言わないでくださいな」
陛下はむむっと険しい顔をしたが、すぐに王妃様が取りなしてくれた。
「この結婚はグレンが得た功績なのですから。我々はただ、二人が問題なく結婚できるよう手助けをしてあげれば良いのです」
「ありがとうございます。王妃様」
……功績。
そう、これは俺が努力の末に手に入れた最高に嬉しい功績なのだ。
***
あれは、数ヶ月前。
学園に入学するよりも前のある夜、陛下と王妃様のお二人と話をしたときのことだ。
俺が十八歳になったため、改めて今後の展望を聞かれた。どこか別のところで働きたくはないか、結婚はどう考えているのかと。陛下方は後見人として、俺の行く末を案じてくれていたらしい。しかしながら、俺の中には王女様と過ごす未来……できれば彼女と結婚する未来しか見えてなかったから、違う職業も、知らない女性との結婚も全く眼中にない。今後の展望を聞かれたところで、「王女様のお側にいたい」という答えしか出なかった。
王妃様は例の裏ミッションを反故にしても良いとも言ってくれたが、それこそあり得ない。「王女様が民の前に立てるようにする」という裏ミッションは、俺にとって王女様の側にいられる口実なのだ。そう簡単に手放すものか。
「そう……。あなたには迷惑をかけるわね」
「とんでもございません王妃様」
スッと頭を下げ、王妃様に敬意を表する。
そして俺は、陛下と王妃様に、ともすれば不敬とも取られかねないお願いをしたのだ。
「その代わりと言ってはなんですが……一つ、お願いを聞いていただけますか?」
もう1話、グレン視点続きます。
全24話なので、残すところあと3話!
最後までお付き合いいただけると嬉しいです(^^)




