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引きこもり王女とヤンデレ従者 ~一般生徒に扮して学園生活を始めてみたものの、なぜか友達が一人もできないのですが~  作者: 香月深亜


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10. 退屈な授業の合間に ※グレン視点

 正直言って、学園の授業は退屈だった。


 授業で教わることは俺にとって既知の情報でしかないし、魔法や武術なんかも年下のクラスメイトでは相手にならない。


 良い点を挙げるとするならば、真剣な眼差しで授業を受けている王女様を眺められることくらいか。ああ、あとさすがに授業中は変な虫が王女様に寄ってくることもないので、気を張らずにただ眺めていられるのも良い点かな。



 俺がそうやって力を抜きながら学園生活を過ごして一ヶ月ほどが経った頃。この日は召喚魔法の実践授業が行われた。


 こればかりは俺も本気を出さなければいけない。


 召喚した魔獣との合意があれば主従契約も結べるので、ここで強い魔獣を召喚して手懐けておくことは後々役に立つと思ったからだ。クラスメイトも皆同様の思いなのか、そわそわと浮き足立っているのが伝わってくる。


 ……しかしまあ、人生はそう甘くはない。


 期待に胸を膨らませていたクラスメイトたちが喚び出させた魔獣はどれも弱いものばかりで、彼らは次々と撃沈していく。


 そんな中、突然王女様がかなり強い魔獣を喚び出してしまった。

 ぱっと見は黒猫が大きくなっただけにも見えるだろうが、アレは強い。アレの体内にある魔力量が莫大だし、身のこなしも軽そうだ。

 まさか王女様にあれほど強力な魔獣を喚ぶ能力が隠れていたとは予想外である。



 俺にアレ以上の魔獣が喚べるだろうか?



 そんな不安が頭をよぎりながら、俺はフッと小さく息を吸い、自らの手に魔力を集中させ、召喚魔法を実践した。


 すると目の前に現れたのは、鳥の魔獣。

 真っ白な美しい魔獣で、王女様が詠んだ魔獣と同等の強さと思われる。


 ひとまずは良かった。

 猫と鳥のどちらが強いかは計りかねるが、鳥も十分な強さを持っていたので、俺は安堵できた。


「うわお。ロブロイくんはその子を引き当てたのね」


 召喚魔法担当のリリー先生が話しかけてきた。


「この魔獣、強いですよね?」

「ええもちろん。さっきグローヴェンさんが召喚した子と同じでその子も最高クラスよ。まっさか一回の授業で二体も最高クラスが出てくるなんて、先生もびっくり!」

「そうですか」


 リリー先生からのお墨付きがあればより安心だ。俺はこの魔獣と、主従契約を結びたい。

 数歩前で羽を下ろしていた鳥に近づき、話しかけた。


「初めまして。俺の名前はグレン・ロブロイ。君は、」

『私に名前を付けてくれるか?』


 それはどういう意味だろうか。

 いや、意味は分かるんだが、そんなあっさりと認めてくれるのだろうか。


 名付けは、主従契約の証。


 主従契約を結ぶ際、主となる者は従となる者に名前を付けられる。この鳥の魔獣は、俺にその権利をくれると言っているのか。


『それとも私は気に入らないか?』


 なかなか返事をしないグレンに対し、魔獣が質問を重ねてきた。


「いいやまさか。君のような強い魔獣ならこちらからお願いしたいくらいだ」

『それならば良かった。では、名を』

「そうだな……。セツナはどうだ?」

『ああ、良い名前をありがとう』


 セツナはグッと顔を前に差し出してきたので、俺は反射的にその顔に手を添えた。

 そしてそのまま、俺たちは主従契約を結んだ。



────自分の召喚が落ち着いたところで王女様の元に向かうと、王女様はあの黒猫と主従契約を結んでいた。


 ……結べちゃったのか。


 王女様には悪いが、俺は王女様には契約を結ばないでほしいと願っていた。

 王女様の側には俺がいる。側にいるのは俺一人で十分だ。



「主従契約を結んだんですね」

「うん。この子はルカ」


 王女様から名前も付けてもらったのか。……憎らしいな。


 俺は無意識に、ルカを睨んでいた。

 だがそんな顔は王女様には見せられない。

 魔獣相手に嫉妬したかっこ悪い姿を、王女様には見せたくない。


 ルカから指摘されたとき、王女様には咄嗟にいつもの笑顔を見せて誤魔化して場を凌いだ。



 …………なのに。


 その後もルカは何かと俺を苛つかせてきた。


 翌日のお昼休みでは、あろうことか王女様に抱っこされているし。


 王女様に抱っこされるために小さくなったのか?

 主従契約を結んだ従者のくせに、主に抱っこされるなんて一体何を考えているんだ。


 それに続けて、今度は王女様に俺と離れた方が良いなんて言い出した。しかも王女様もその提案に頷こうとするし。

 これにはついつい殺意が芽生えてしまった。

 相手が、王女様が契約した魔獣じゃなければ裏で殴っていたかもしれない。



 王女様は純粋で世間を知らない。

 だから人から言われたことを信じやすいんだ。

 もし彼女に変なことを吹き込んで、俺との仲を裂こうとする奴がいたら、闇属性の魔法をお見舞いしよう。俺の得意分野だから死なない程度に加減はしてやるが……まあ今後二度と王女様には近づけないようになるだろうな。



 ……邪魔だなあ、あの猫。



 退屈な授業を受けながら、俺はそんなことを考えていたのだった。

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