香川
「あのさ、うどん、食べたくない?」
「こんな暑いのによく食欲出るね。コンビニで買えばいいじゃん」
「違うって。本場のシコシコした冷やしうどん」
「やだー。長瀬くんこんな時にえっち」
「本場のシコシコに謝れよ」
「本場のシコシコが悪いよ」
「このまま電車とか乗ってさ、本場でシコシコしようぜ」
「一体なんの本場なの」
「うどんだよ」
「長瀬くんってキモかったんだね。長瀬くんいつも人に囲まれてたし、話したことなかったから知らなかった」
「そういう芸風だったんだよ。あー、童貞捨ててくればよかったかな」
「私で捨てちゃう?」
「うわー、悩ましいかも。津野って細そうなのに胸でかいし」
「あはは。無理しなくていいよ。長瀬くん『女』って苦手でしょ」
「えー……。なんでそう思うの」
「声色……っていうのかな。表情はうまくやってるのか知らないけど。私の場合は結構細かいとこに頼ってるの」
「百聞は一見に如かずだぞ」
「違うの?」
「はー。…バレたことなかったのにな。下ネタ自然に織り交ぜるとバレないんだよな」
「お疲れ様でした」
「くそー。俺普通に彼女いたことあるんだぜ」
「彼女かわいそう」
「なんも知らんくせによく言うわ。まあめちゃくちゃ可哀想なことに3日で振られた」
「かわいそうなの長瀬くんの方なんだ」
「思ってたのと違うってさ。あなたって、かっこいいの顔だけなんだねって」
「顔だけてw」
「誰がひよってる低身長だよ」
「身長低いの?」
「160ないです」
「男は170cmからだよねー」
「女怖すぎ。泣いちゃう」
「ごめんて。泣かないで。うどん食べに行く?」
「マジ?お金持ってる?」
「これだからヤンキーは」
「津野って陽キャとヤンキーの区別ついてないよな?」
「違うの?」
「全然違う。陽キャ、アラソイ、コノマナイ。モリ、マモル。」
「どこの山の巨人なの」
「ウドン、コノム」
「あいにく、3000円くらいしかないよ」
「それ本当に高校生の財布か?俺の財布には200円しかないぞ」
「コンビニのうどんも怪しいね」
「津野、知ってるか?本場のうどんって安いんだぞ」
「本場の値段が安すぎて、○亀製麺が高すぎって売れないらしいもんね」
「マジ?あれも大概安いのにな。楽しみになってきた」
「本気で行くの?ていうか交通費は?」
「津野クン。キセル乗車って知ってるか?」
「ヤンキー。」
「これはヤンキーかもな」
「でもまあ、いっか。行きだけだもんね。無人駅で降りちゃおう」
「意外と乗り気じゃん。津野もヤンキーの素質あるよ」
「最後に完全に不要な素質見つけちゃったな」
「ほらそろそろ駅、着くぞ。切符代奢ってやるよ」
「え、最初から駅向かってたの?待って、入場券だけじゃ流石に怪しいって。」
「う、確かに…。あの、津野さん、すみませんがお金貸してください」
「あは、急にしおれすぎでしょ。」
「あ、津野、階段あるぞ。…手、握ってやろうか」
「え…ありがとう…。長瀬くん、無理しなくていいよ」
「別に無理してないって。…妹の手はよく握ってたし」
「女の子のこと妹扱いする男って、浮気するらしいよ」
「…じゃ、血筋だな。家系的に俺は純血の浮気性だよ」
「…やっぱり手、握ってもらってもいい?純血さん。杖捨てちゃったから」
「おう。お兄ちゃんにつかまってな。」
「それ、結構恥ずかしくない?」
「俺のピュアな小学生時代の再現だよ。踏みにじるなよ」
「シスコン野郎」
「ぶっ殺すぞ」
「平日の昼間からヤンキーがいるよ」
「平日の昼間にもヤンキーはいるよ」
「殺してよ」
「っ……」
「ふっ…あはは!。ひよってるね」
「誰がひよってる低身長だよ」
「苦しみすぎでしょ」
「嫌なの思い出しちゃったぜ…なあ津野、着いたらさ」
「うん」
「一番最初に見つけたうどん屋でうどん食べような」
「無人駅付近だから、そうそう見つからないかもよ」
「着いたらもう夕方だから、腹減ってるぞ」
「あはは。おかしいね。お腹ってバカだね」
「な。もう要らねーのにな。」
「胃も捨ててくればよかったなー。」
「ていうか、杖捨ててきたの悪手だろ。」
「いいの。できるだけ身軽で来たかったの。」
「どっかで足踏み外して死んじゃうかも?」
「本望です」
「本望だな」
「まあそうならないように長瀬くんが働くもんね」
「人を杖だと思うなよ」
「違うの?」
「違わないかも」
「じゃあさ、長瀬くん」
「はい」
「道わかんないから、ずっと手持っててね」
「おう」
「ずっとだよ?」
「うどん食べてる時も?」
「うーん…じゃあうどん食べてる時以外は」
「ずっとだよ」
「おう」