第三話 お嬢様と龍の列車
「まあ♪ 守君、無事で良かったですわ♪」
腐海獣の起こした海難事故で行方が分からなくなっていた守君。
ネットニュースで彼が見つかった記事を見つけて一安心しました。
海が好きな守君、私の幼馴染で運命の人。
家庭の事情で小学四年生の頃に離れてしまいましたがこの
ベアトリス・アイゼンバーグ、あなたのいる日本に帰りますわっ!
車窓に映る私の顔は金髪碧眼に白い肌、守君が熊さんの耳と呼んで
可愛いと言ってくれた側頭部の左右のお団子頭。
誰もが認める美少女、私が守君のお姫様♪
日本に放ったエージェント達からの報告によると守君に他の女の子の影は無し。
「お嬢、懸想に耽るのは良いがそろそろ戦の支度を頼む」
車内から私に語り掛ける渋めの男性の声。
「わかりましたわ、ゴルちゃん」
「その呼び名は止めてくれんか?」
「嫌ですの、私のマスコットならもっと愛らしくなさいな」
「いや、我輩はマスコットではない!」
「投げ飛ばしますわよ?」
「……くっ! 覚えておれよ熊娘がっ!」
マスコットのゴルちゃん、列車にもロボットにもなる便利なドラゴン
さんですのに可愛げがないのが残念ですわ。
席を立ち、お気に入りの黄色のエプロンドレスをなびかせて私は運転室へと
向かいます。
ドアを開けてシートに座り二本のレバーを握ります。
「現場まで全速前進しつつ変形ですわっ!」
「応っ!」
私がそれぞれのレバーの引き金を引き押し出しますと、目の前に
デジタルスクリーンが浮かび上がり外の景色を映し出してくれます。
四つ這いに伏して線路を生み出しながら大地を疾走する金色の龍。
家のゴルちゃんこと金剛地龍ゴルドナーガ、尻尾も足の爪も角も牙も
ドリルになっているのがチャームポイントですの。
「ゴルちゃん、二時の方角の山が動きましたわ!」
それは文字通り山が激しく揺れ動き、大地を砕いて出現ました。
現れたのは、不気味な土気色をした二足歩行の巨大な猪の腐海獣でしたの。
私達が向かう先にあるのは街。
これと言って特色があるわけではない中継地点の街。
ですが、人々が暮らしを営む尊い場所に変わりはありませんわ。
異次元の怪物に蹂躙させて良い道理などありませんわっ!
私が闘志を燃やした時、腐海獣も足を蹴って街へと駆け出しました。
唸り声を上げて林を削りながら駆け出す腐海獣。
このまま進撃を許せば街が崩壊してしまいます、そうはさせません。
「させませんわ、進路変更っ! あの腐海獣の横っ腹を貫きますっ!」
私がレバーを操作して進路を変更、速度と角度を計算し確実に突撃を
ぶちかますタイミングを計ります。
物理的存在なら体が大きいほど、転んだ時の自重によるダメージは大きいはず。
けれど、猪の腐海獣がこちらの接近に気づき向きを変えました。
「向きを変えたぞ、お嬢?」
「それならそれで街を守れて好都合ですわ、一丁揉んでやりますわよ♪」
私が得意なお相撲のように相手と見合ってぶちかましてやりますわ!
正直、おぞましい猪の怪物と見つめ合いたくはありませんけれども
ここで退けぬのが乙女の辛い所ですわ。
私はレバーを全開に押し込んでから操縦席の中心にある赤いボタンを
叩き押しました、これがゴルちゃんの変形のスイッチですの。
モニターにはゴルちゃんが地に伏せていた状態から立ち上がり
私がいる頭部と、上半身、下半身が分離、変形、合体を行い私が乗る
龍の頭を胴体に人型に変形したゴルドナーガが完成しました。
こちらの変形に驚いたのか猪の腐海獣は一瞬動きを止めます。
「隙ありですわ♪ 超振動諸手突っ!」
レバーなどが収納されて広くなった運転室で私は私服から白くてフリルの付いた
愛らしい魔法少女の姿に変わり、技の名を叫びながら両腕を突き出します。
それと連動してゴルちゃんも動きます、私達が人機一体となって繰り出した
一撃は見事にヒットし腐海獣を突き飛ばしました。
そのまま倒れて消滅してくれれば良かったのですが、戦いは甘くなく
相手は起き上がり物凄く大きな音を立てて息を吸うと鼻息と同時に
おぞましい紫色の巨大な鼻水の球を撃ち出して来ましたっ!
こちらがショックで動きを止めた所に体当たりをしてくる腐海獣。
その衝撃で倒されてしまった私達に追い打ちをかけようとのしかかる
腐海獣、おぞましすぎますわっ!
急ぎ手足を突き上げて止め、巴投げで相手を投げ飛ばす私達。
「人生最大の危機でしたわ、マグマブレイザーッ!」
他にも多数武器や技はありますが、一刻も早く敵にとどめを刺したかった
私は必殺の飛び道具を選びました。
大地から燃え滾るマグマを超高速で汲み上げてゴルちゃんが金から真っ赤に
赤熱化します。
これで相手を滅ぼすのに十分な量のマグマがチャージされました。
胸の龍の口を開けて極太のマグマを腐海獣へと放射しますわっ!
腐海獣は避ける間もなく灼熱のマグマを浴び体を熱で溶かされ消滅しました。
後に残るは静けさを取り戻した周囲と大地に空いた大穴。
「……また母なる大地に穴を開けてしまいましたわ」
戦いが終わったので大地にゴルちゃんの手を当てて地面を揺らし開けた穴を
閉じて地盤をしっかり固めます。
「ご苦労様、お嬢」
ゴルちゃんが労ってくれますが、全然嬉しく無いですわ~~っ!