第二十話 パワーアップへの道 春華の場合
「パワーアップ、私はどうすれば良いんだろ?」
自室で悩む春華、座禅を組んでも解決はしない。
「頭を冷やせば、何か思いつくかな?」
思い浮かぶのは父と母の事、春華は実家に帰省する事にした。
ナーガズネストで休暇の手続きを済ませると外へ出た。
「グレンナーガ、私を家まで連れて行って!」
彼女の言葉に赤き龍神は応え、彼女を乗せて飛び立った。
台北市某所の立派な料理店の前に春華は立っていた。
ドアを開けて入ると、老夫婦二人が彼女へと抱き着いた。
「帰って来たか、家出娘♪」
「お帰り、春華♪」
老いた両親、守の祖父母でもある春華の両親は彼女を迎え入れた。
「ただいま、お父さんお母さん!」
元気娘の春華の頬に涙が流れた。
「お前にも守にも龍神様の御子の使命を背負わせて」
父の言葉に春華は笑う。
「大丈夫よ、この時代も楽しいし守もベア子ちゃんも皆好きだから♪」
「あんたって娘は、本当に変わらないね♪」
娘の言葉に母も泣く。
「赤家の娘だもの♪」
家族との対面で春華の心のしこりが取れた。
家族の心が再び結ばれた時、店のドアが開く。
「すまん、グレンナーガに頼まれて来た孫悟空だ」
雲水の風体をした精悍な体付きの黒髪の美丈夫が名乗る。
春華達一家全員が、孫悟空に向かい包拳礼を取った。
「た、大聖にお目にかかれるなんて何という幸運」
「是非一筆お願いいたします♪」
「ちょ、お父さん! お母さん! 恥ずかしすぎる!」
春華が父母を窘める。
「はっはっは♪ 構わねえよ、良いもん見せてもらったしな♪」
悟空、如意棒を筆へと変化させて店の壁に斉天大聖来也としたためた。
これには赤家全員が平伏して礼を行った。
「止めてくれよこっぱずかしい、娘っ子よ俺が鍛えてやるから来な♪」
照れながら悟空が用件を伝える。
「はい、喜んで参ります師父♪」
春華、目が恋する乙女になり悟空へと近づく。
「こら! 俺に惚れず、後できちんと旦那を探せ!」
「が~~~ん! 私、大失恋ですか師父~~っ!」
「まったく、とにかく行くぞ!」
店を出て空を飛んで行く悟空、春華はグレンナーガに乗り悟空を追って空へ。
その光景を春華の父母は笑顔で見送った。
ついた先は岩山だった、悟空が山と積まれた桃を前に春華に告げる。
「ここは時間の流れは関係ねえ、ここでお前に仙桃を食わせて鍛える!」
「はい、師父っ♪」
返事をした春華の口に早速、仙桃がロングシュートで放り込まれる。
「人間の生理現象は気にするな、行くぞっ!」
春華が仙桃を飲み込んだ事を確認した悟空が瞬時に距離を詰めて殴りかかる。
殺気を感じた春華がすんでの所で回避、避けただけで寿命が縮んだ気がした。
「ほれ、寿命が減ったなもう一個食え」
今度は普通に仙桃を渡す。
「この桃を食べて伸びたはずの寿命が、一気に縮みました」
「おう、それでお前の本来の寿命に戻るから帳尻が会うだろ♪」
荒っぽい説明だが、春華は納得した。
カンフー映画で見た体幹を鍛える空気椅子な修行。
呼吸をする事で気をエネルギーに変換する修行。
悟空との素手での組手、仙桃で寿命やスペックを伸ばされても
きつい修行であった。
「よし、そろそろこいつをやろう」
しばらく経った時、悟空が両端に金属の輪が嵌められた鉄棒を春華に差し出した。
「あ、ありがとうございますこれが伝説の金箍棒ですね♪」
神話の武器をゲット、春華は自分お修業が報われたと感じた。
「同じ材料の別物だ、まずは第一段階終了の贈り物だ」
釘を刺す悟空。
「それでも嬉しいです、もしや次は師父の棒術を授けていただけると?」
「おう、ここからが本番だ生身で教えた後はグレンナーガに乗って修行だ」
悟空の言葉に頷く春華。
「良いか、まずは構えからだ真似してみろ?」
棒術に関しては素手の時よりもはるかに丁寧に一から丁寧に指導する悟空。
春華が悟空を真似て、棒を操り構え、突き、叩き、振り回しを行う。
「師父、見て下さい棒が伸びたり縮んだりと私の意思で変形します!」
「そりゃ、如意宝珠付いているからな伸縮だけでなく質量も自在よ♪」
こうして、春華は悟空の拳法と棒術を一通り修める事ができた。
そして、ついに修行の最後の段階に来た。
「よし、生身での稽古は終わりだグレンナーガに乗りな」
「はい、グレンナーガ来て!」
春華がグレンナーガを呼び出して乗り込む。
「よし、行くぞ!」
悟空が巨大な姿に変化する。
「お前にやった棒はグレンナーガも使える、これまでのおさらいでかかって来い!」
「はい、師父っ!」
グレンナーガの中で春華が棒を持つとグレンナーガの手にも棒が握られる。
さてここからは巨大戦、赤き巨人グレンナーガと斉天大聖孫悟空の立ち回り。
互いの棒が打ち合えば、ここは狭いと双方が空を飛び宇宙へと出る。
宇宙空間なら邪魔は無しと、棒での打ち合いは激しさを増す。
「行くぜ、身外身の法っ!」
悟空が無数に分身すれば、グレンナーガも負けじと炎で分身を作り合戦となる。
「へ、流石は俺が昔稽古つけただけはあるなグレンナーガ!」
「か弱い娘にも容赦がないあなたの指導は嫌いでした!」
春華ではなく、グレンナーガ自身が悟空に叫ぶ。
グレンナーガ、その声は美少女であった。
「龍に可愛いも娘もあるかよ!」
「その物言い、乙女の怒りを受けなさい!」
悟空の物言いに二人の乙女がキレた。
「グレンナーガ、私も一緒に師父に説教しよう!」
「ええ春華、行きましょう!」
グレンナーガと春華の怒りに棒が燃え上がるだけではなく、炎の如き
追加装甲となってグレンナーガの身を包む。
「そっか、如意棒は形も変えられるんだ!」
「そうです春華、私達には拳が似合います!」
追加装甲を纏ったグレンナーガの拳が赤熱化する。
「へ、面白れえっ!」
グレンナーガと悟空は格闘戦に移行する、双方が拳を打ち合い蹴りを放ち合いと
バチバチにぶつかり合う。
幾度となく殴り合い組み合いをしついにグレンナーガが悟空を組み敷いた。
「乙女の怒りを受けなさい! 紅蓮神掌っ!」
太陽の如く燃え盛る巨大な掌がグレンナーガの手から放たれた。
「やったね、グレンナーガ♪」
春華が勝ったと喜ぶ。
「二万と五百年早え!」
背後から悟空が叫ぶ。
「ええっ! もう一丁行くよグレンナーガ!」
春華が叫び振るわれたグレンナーガの拳は悟空に受け止められた。
「ふん! だが合格だ、お前らの乙女心は腐海の奴らにかましてやれ♪」
悟空が笑顔で修行の終わりを告げた。
「むき~~~っ! 師父、ズルいです!」
猿のように叫ぶ春華。
「たわけ、師匠を舐めるな♪ 小娘共はとっとと家に帰れ♪」
悟空がグレンナーガを投げ飛ばし、春華はナーガズネストに帰還した。




