第二話 マーレナーガ 波高し
五十メートルの巨大な青い龍型ロボット、マーレナーガを
俺はコックピット内の不思議空間でボートでオールを漕いで
操り紫色の一つ目巨人を倒すべく急いだ。
「守、私の龍形態ではあなたが漕ぐことで移動速度は加速します」
マーレナーガが解説してくれる、急ぎたい時は漕げという事だ。
ある程度の速度になったので漕ぐのを止める。
すると、虚空から、青いでんでん太鼓が現れたので掴む。
「龍形態での戦闘ではその太鼓を振るか叩くのです、太鼓は陸で私を
呼ぶのにも使えますし生身で戦う際の武器にもなります」
彼女の言葉に頷き、俺は黒雲に雷雨と嵐が描かれた太鼓の表面を
片手でポンと叩く。
「雷雲招来! 我が神威の雷を受けて見よ!」
コックピット内のボートの龍頭が吠えたっ!
スクリーンには一つ目巨人が雷に打たれて苦しむ姿が映される。
「よっし、気合い入れて漕ぐぜっ!」
俺は敵に突撃をかます勢いでオールを漕いだ。
マーレナーガは雄叫びを上げ、突き進む。
「オーシャニック、スティンガーッ!」
青き巨龍は体を回転させて全身に海流のドリルを纏った状態で
敵に突撃し紫の巨人のどてっ腹を突き破り天へと昇ったっ!
「やったぜっ!」
「まだです守っ、避けますっ!」
こちらの攻撃が決まったと思いきや、紫巨人は海水を吸収して再生したっ!
「まじかっ? もう一発行くか?」
ド派手な必殺技を決めたのに敵に復活されるとは思わなかった。
「ならば次は変形です、人型に変形しあなたと私の思いと力を一つにし
て繰り出す必殺の技で奴を消滅させますっ!」
マーレナーガが叫ぶ、どうすれば変形するのかと思った俺に
「太鼓を打ち鳴らしなさいっ!」
と更に彼女が叫んだので、俺は自棄になってでんでん太鼓を必死に振って
打ち鳴らしたっ!
俺が太鼓を鳴らすとコックピットの空間内に甲高い摺鉦の金属音が鳴り響いた。
マーレナーガが海水を巻き上げて渦潮のバリヤーを作りながら変形を始める。
上半身と下半身が分離し下半身が更に割れて腰鎧の付いた両足になる。
上半身も頭部と分離すると分離して肩鎧の付いた腕へと変形する。
そして、新たな胴体となった頭部から新たに兜を被った頭部が生えて
手足と合体する。
龍頭の胴にスケイルメイルを纏い、海の波を模した刀身の大刀を手に
した中華風の青き武者が誕生した。
変形をしたのは機体の外側だけでなくコックピットの空間も変化した。
謎の液体の水位が下がると、それまで俺が乗っていたドラゴンボートが
分離し船首の龍頭が胴鎧で船体上半分が肩鎧、船尾の龍尾が廻しのように
腰回りを守り船体下半分が腰鎧になりと俺の体を覆う鎧へと変化する。
そして俺は、浮き上がって来た円形の舞台の上に柄の伸びたでんでん太鼓
を手にして立っていた。
「紺碧海龍マーレナーガ、参るっ!」
マーレナーガ自身が敵に向けて大声で叫び大刀を立てて脇に構える構えを取った。
紫巨人も口を開き紫色の汚泥を垂らしながら雄叫びを上げ、応戦の意思を示す。
「荒波大刀の一閃、受けて見よっ!」
機体の中で俺がでんでん太鼓を上段に構えればマーレナーガも得物を構える。
「鎧を通じて私と守は動きが繋がってますから、技や動きは私が教えます!」
マーレナーガが叫び俺の体を操り出し文字通り手取り足取りの教導が始まる。
俺がコックピット内での体の動きに合わせてマーレナーガも動く。
敵が口から紫色の液体を吐き出せば、大刀の刃に海水を集めて巨大な軍配
の形に変化させて仰ぐように振るって敵の攻撃を相殺し余波で敵を転ばせる。
倒れた敵に追い打ちに動くと相手は体を液体化させてこちらに組み付く。
纏わり付かれ締められつつジュワリとこちらの機体から煙が上がる。
「やべえ、溶かされるっ!」
「させません、雷よ我が身に落ちよっ!」
マーレナーガが自身に雷を落とす事で、敵はこちらから離れて行った。
「よし、反撃だっ!」
俺の叫びにマーレナーガが動く。
大刀を海面に突き立て津波を起こし、紫巨人を浮き上がらせるっ!
浮かせた所で大刀を振り回し敵を乗せた津波を捻らせ水上竜巻を起こし
空へと巻き上げたっ!
雷雲を突き抜け、成層圏を越え中間圏の高さまで舞い上がった紫巨人は
急速な気温低下により全身を凍らせ空中で巨大な氷塊となった。
凍結し落下して来る紫巨人を黒雲の下の海上でマーレナーガが待ち受ける。
大刀の刃に神威の雷を落とし、紫電の刃を構えたマーレナーガ。
水上竜巻に乗り上昇し氷塊となった紫巨人を大刀で突き上げ抜いて
木っ端微塵に粉砕した。
「神威昇竜破っ!」
砕け散った氷の破片が光り輝き消えて行く中、海上に降り立って残心
を取るマーレナーガが技の名を言った。
俺はと言うと、コックピット内で外の様子を見つつ体を動かされて
戦っていたので疲労困憊でダウンし倒れた。
かくして、俺とマーレナーガの初陣は勝利で締めくくられた。
俺達の勝利を祝うかの如く空は晴れた。
「……か! 勝ったっ!」
俺はダウンしつつも勝利を確認する。
「ええ、勝ちました♪ されど討ったのは一匹、まだ終わりではありません」
俺に同意しつつ窘めるマーレナーガ。
天気晴朗なれど波高しとは著名な軍人の言葉だが、俺達の戦いは
ここからが始まり何だと思った。
「……守、仲間を集めるのです」
龍の形態に戻り、俺を住む近くの人気のない海岸へ送り届けた
マーレナーガが俺に語り掛ける。
「仲間? どういうことだよ?」
「私のような龍神とその加護を受けし戦士がいるはずです、その気配は
感じますし彼らと私達は出会うでしょう」
マーレナーガが答える。
「出会うって、そいつらも動いているって事?」
「ええ、大地の龍神である金剛地龍ゴルドナーガの気配を感じました」
「感じたって言っても、俺はどうすりゃいいんだよ?」
「流れに逆らわず自然体で暮らしなさい、悪い事はないはずです」
「……わかった、龍神様を信じるよ助けてもらったしそいつらとも
どうにか上手くやって見せる」
俺が約束すると、マーレナーガは姿を消した。
俺の手には彼女を呼ぶでんでん太鼓があった。
此処でいったんマーレナーガ編は終わり、次回はゴルドナーガ編になり
主人公が交代し守がサブ主人公になります。