第十六話 リュウグウオー対バハムート前編
ナーガズネストと高校生の二重生活の中、俺は私立波際学園にて
無事に二年生に進級した。
「守君? 私、何か妙な視線を感じるのですが?」
俺の隣の席になったベア子が巨体を縮ませて不安げな顔で俺を見る。
ピンクのシャツに赤のチェックのスカートと可愛らしい制服に身を包んで
はいるが盛り上がり鍛えられた筋肉は隠せていなかった。
「フリーポーズすれば良いと思うよ」
俺はベア子にそうアドバイスすると、ベア子が微笑んでサイドチェストを
披露した。
「キレてるよ~っ!」
「肩にダンプ乗せてんのかい!」
「体に仁王が宿ってるっ♪」
「写真撮らせて~♪」
女子達がベア子の周りに群がり、たちまちクラスで撮影会が始まった。
意外にもベア子は可愛らしさと筋肉質のギャップが良いと女子に人気だった。
ベア子がポージングをしてそれを女子達が撮影していると教室の戸が開く。
赤いジャージ姿の担任の先生が入って来た。
「はい、ホームルーム始めるから撮影会中断!」
俺達の担任の先生は、長い黒髪に切れ長な瞳の美人。
細マッチョな女性の体育教師。
この学校のOGで女子サッカー部の顧問だ。
先生の声に女子達は自分の席に戻る。
「今度の土曜日は球技大会です、サッカーを楽しんで下さい」
笑顔で告げる先生、女子の一人が
「うちの女子チームはベア子ちゃんがキーパーね」
と言い出す。
「そうだ、うちには鉄壁の守護神がいた!」
「身体測定も規格外なベア子ちゃんがいれば負けないよ!」
何故か女子達がやる気を出す。
「でも、隣のクラスはヤバいストライカーがいるよね?」
「大丈夫だよ、ベア子ちゃんの壁は抜けないって♪」
先生は女子達があーだこうだ言うのを笑顔で見つめている。
ちなみに隣のクラスのヤバいストライカーとは春姉だ。
「守君、私はどうすれば?」
俺を見つめるベア子。
「大丈夫、応援するから♪」
俺がベア子に微笑むと、ベア子が頬を染めた。
「わ、私フルパワーで行きますわ♪」
興奮したベア子が立ち上がりポーズを取る。
「クラスにヘラクレス降臨した~♪」
その雄姿に女子達は沸き上がった。
男子達は女子の勢いに圧倒されていた。
「へ~♪ ベア子ちゃんがキーパーか♪」
昼休み、俺とベア子と春姉は揃って校庭で食事をしていた。
「当たったら全力で勝負ですわ」
ベア子が春姉に告げる。
「当然よ♪」
春姉とベア子が握手を交わす。
俺はと言うと、ベア子の膝の上に乗せられて彼女に弁当を食わせてもらっていた。
親熊と子熊と言うか熊に養われてるシャケの気分である。
周囲の生徒や教師達は、俺達をチラ見するも干渉してこなかった。
ベア子が転校する際にアイゼンバーグ家の財力で俺が通っているこの学校を買ったのだ。
ついでに、俺は全校生徒や教師の前でベア子の婚約者だと公表されてしまったのである。
財力と武力で権力に物言いできるって怖い。
学校には、ナーガズネストの傭兵チームから何人か警備スタッフで入っている。
この学校は事実上、ナーガズネストの第二の基地となっていた。
まあ、変なちょっかいを掛けたりしてくる奴らが遮断されたのは楽だ。
「何はともあれ、腐海獣が出たりしないでくれれば良いな」
俺はこの何気ない日常を楽しみたい。
「そうね、でも奴らが出たら頑張って殴り倒せばいいのよ♪」
春姉が呑気に脳筋に微笑む。
「流石は義伯母様、出たならば私達で倒せば良いのですしね♪」
ベア子も同意する、ちょっと気が緩んでないか?
「結論としてはそうだけど、色々考えようぜ?」
「あんたが考えすぎなのよ♪」
「では、守君に考えていただきましょう♪」
「いや、俺だってそうそう色々思いつくかって言うとな?」
「がんばれ♪ がんばれ♪ あんたが前線の頭脳よ守♪」
な、俺に投げられたよこの脳筋どもっ!
仕方ないが俺が必死こいて脳みそひねるしかないか。
脳筋でも二人の仲間は、愛する彼女と伯母さんだし。
弁当のミートボールは美味かったが、心配事で味を楽しむ気になれなかった
ランチタイムが終わった。
この時はまだ、俺達にとんでもない脅威が迫って来ているとは思いもしなかった。
時は進み球技大会当日、男子は二回戦負けで終了したので俺は女子の応援をしていた。
「ベア子~! 守り抜いてくれ~♪」
ベア子を頑張って応援する俺、案の定対戦相手は隣のクラスで春姉がフォワード。
「行け~~~♪」
春姉の全力のシュートがビーム砲のように突き進む。
「させませんわ!」
ベア子が前に出て取り、相手のシュートの勢いを利用しコーナーの外へと投げる。
「流石、うちの守護神♪」
「外見は剛の者なのにテクニックは柔っ♪」
「剛柔兼ね備えた女子ってありえない♪」
うちのクラスの女子達が盛り上がりベア子を讃える。
何と言うか、無敵の盾と矛の対決で超人サッカーになっていた。
「ベア子ちゃんに背中は預けた、あたしらで点を取ろう!」
「時間切れでどっちも負けは、嫌だ!
「私達が勝つんだ!」
女子達が熱血してる、平和だな。
そう、平和だったのだこの時までは。
『緊急放送、気象庁から腐海獣警報が発令されました直ちに避難して下さい』
スピーカーから放送が流れる。
審判がホイッスルを鳴らして試合が止まり、先生達が生徒や観客達を避難させる。
「ちょっと! 何であいつらはこんな時に!」
春姉が憤る。
「勝負はお預けですわ♪ 体は暖まってます♪」
ベア子も戦闘モードに入る。
俺は二人の所に駆け寄った。
「来たな、行こうぜ二人共!」
「ええ、ゴルちゃん達も来てくれました」
ベア子の言葉に空を見上げると、グレンナーガ、ゴルドナーガ、マーレナーガ
の三頭の龍神がそれぞれの尻尾を噛んで連結して現れた。
俺達は、三頭から発せられた牽引ビームに引き込まれて乗り込んだ。
俺達が乗り込んだタイミングを計ったように空に暗雲が立ち込めて
奴らの異次元のゲートが開き敵が現れた。




