第十二話 旧正月とバレンタイン
相も変わらず、俺達ナーガズネストはアットホームに戦っていた。
本日の業務は、天山山脈に出現した大猿の腐海獣退治。
「ふんぬ~! 負けませんわ!」
ベア子をメインにゴルドリュウグウオーで大猿と手四つから
の投げ飛ばし!
「ナイス、ベア子ちゃん♪ チェンジよ♪」
春姉の叫びと同時に分離しグレンリュウグウオーへ変形!
「フォ~~~、アチャ~~ッ!」
グレンリュウグウオーが燃える拳でラッシュを放つ!
空中でボコボコ殴られる大猿の腐海獣。
だが、腐海獣もそう簡単にはやられなかった。
グレンリュウグウオーのラッシュに耐えていた。
「もしかしてこいつ火に強いタイプ? チェンジ!」
敵の反撃が来る前にグレンリュウグウオーは分離。
殴り返そうとして来た大猿型腐海獣の攻撃を避ける。
「俺の出番だ、行くぜ! トレントフォール!」
マーレリュウグウオーにチェンジして相手の頭上から滝の如く
放水し敵を大地に叩きつける。
雪山の渓谷で会った戦場が一瞬にして湖へと変わる。
「凍って砕けろ! フローズンクラッシュ!」
敵ごと湖が凍りガラスが割れるような音が鳴り響き、大猿型
腐海獣は粉砕され消滅した。
腐海獣が消えると共に、マーレリュウグウオーが生み出した湖一つ分
の水も消えた。
「ふう、ようやく戦いに慣れて来た気がする」
俺は少しだけ前よりは進めたかなと思った。
「ええ♪ 守は一歩ずつ順調に歩んでますよ♪」
マーレナーガが優しく語り掛けて来た。
「そうなのかな? まあ皆に迷惑かけるけど頑張るよ」
俺はマーレナーガに答える。
「大丈夫♪ あんたは一人じゃない!」
「そうですわ! 私達が付いております!」
春姉とベア子が叫んだ。
「私達はチーム、共に戦う仲間がいるじゃない♪」
「守君の、その己を省みる事ができるのは美徳です♪」
「でも一人だけで抱えないでよね? 私達も一緒に考えるから♪」
「二人からそう言われると、嬉しいけど恥ずかしいな」
二人の言葉に本音を漏らす。
「守、美女二人から心配されるなんてあんたは果報者よ♪」
春姉が笑いながら言う、自分で美女って言うなよ血縁者。
「基地に帰って、お茶でもしながら楽しく考えましょう♪」
仲間達の明るい言葉が、俺の悩みを飛ばしてくれた。
日本に帰って来た俺達、相も変わらず世間は騒がしい。
俺達だけでなくあちこちでヒーローが悪と戦う世の中だ。
俺達の敵である腐海の奴らもどっかのヒーローが戦った際の
時空の歪みでこの世界と繋がりができたって説が有力だがまだまだ
あいまいなままだ。
「守、暇なら年菜作るの手伝って!」
春姉がインターホン越しに言う、年菜は台湾のお節料理
の事である。
「え? もしかして基地で旧正月の祝いやるの?」
俺は驚いた、日本では旧正月の時期はバレンタインの前程度の意味
だがと思い自分が台湾人の父を持つ事を思い出した。
「そうよ、ベア子ちゃんにも赤家の伝統の味を受け継がせないと!」
春姉が叫ぶ、まあ俺とベアトリスが事実婚みたいな状態で春姉からすれば
義理の姪になるからと理屈はわかる。
「わかった、今行くよ」
俺は部屋を出て春姉について行った。
ついて行った先では黄色い拳法着を着たベアトリスが笑顔で出迎えた。
「お待ちしておりましたわ、ご一緒に伝統の味を継承しましょう♪」
「その意気よベア子ちゃん、守のお母さんに負けない為に修行よ!」
春姉が未来の嫁姑対立を煽るような事を言う。
「煽るなよ、家庭は円満なのが一番だろ!」
俺は家の中まで戦いたくはない。
「ならあんたも奥さんを手伝う! 赤家の血を引く男たるもの夫は
妻を守り助けるべしよ!」
親父から赤家は婿取りの家系で夫が妻を支える習わしらしい。
龍海家も同様に女性が強いとか、俺は女の尻に敷かれる血筋だったのか。
「奥さんだなんて、わかりましたわ伯母様♪」
ベアトリス、ベア子が気合を入れる。
俺はもう、尻にしかれる覚悟を決めて二人を手伝うのであった。
「水餃子を作るのはしばらくやりたくない」
「なら私が作って食べさせて差し上げますわ♪」
「何よ~! 私、お母さんほど厳しくないわ!」
「お祖母ちゃんって、どんだけ鬼なの?」
台湾のお祖母ちゃん、俺には優しかったのに?
そんなことを言い合いながら迎えた旧正月とバレンタイン。
多国籍なナーガズネストではまた地下のスペースを会場に宴が
開催された。
「旧正月&バレンタインパーティーの開催ですわ~♪」
黄色いチャイナドレス姿のベア子の挨拶で盛り上がる一同。
今回も三体の龍神様は小さく鎮座して見守ってもらっていた。
「さ~、盛り上がて行くわよ♪」
赤チャイナの春姉もハイテンションだ。
「まったく、神様にかこつけてはしゃいでるな」
家の組織がこうしてイベントを開くのは、人間だけでなく
マーレナーガ達神様にも福利厚生となるようでお祭り事をして
彼女達に俺達の元気を奉げるとか。
「守君♪ 私からの本命チョコですわ♪」
「あ、ありがとう♪ 早速いただきます♪」
その場で丁寧に包装を解いて俺はハート型のチョコレートを食った。
人生初の本命チョコだからこそ、その場で食って感想を伝えたい。
「まあ♪ 元気な食べっぷりですわ♪」
「……美味しい、ありがとうベアトリス♪」
「こちらこそですわ~♪」
食べ終わって感想を伝えたら、思いきり抱き締められた。
「お返しは、相談させてほしい」
「ええ、勿論ですわ♪」
俺は幸せを味わっていた。
春姉はマイク片手に熱唱、武侠何だかアイドル何だかわからんが
整備スタッフ達には人気だった。
「イエ~~~ス♪」
「ノ~~~~~ウっ!」
等と上手く行く者や残念だった者など悲喜こもごものバレンタイン
パーティーを皆が過ごしていた。
「……うう、守を取られてしまいました!」
「仕方なかろうに、お嬢はめでたい」
「春華はいつ春が来るのやら」
人間達の様子を龍神様達は見ていた。




