第十一話 ナーガズネストの新年会
クリスマスが過ぎて新年、ナーガズネストはお正月だった。
地下の巨大倉庫では新年会が催されていた。
グレンナーガ、ゴルドナーガ、マーレナーガの三体には小さい姿で
顕現してもらい正月飾りを付けて祀った。
「新年明けましておめでとうございます、本年も宜しくお願いいたします」
三体の前に立ち、組織の代表であるベア子ことベアトリスが挨拶をする。
逞しい体付きがどうやって収納されたのか黄色の晴れ着姿が似合っていた。
将来を誓った恋人の晴れ着姿は美しい。
「「おめでとうございます♪」」
紋付き袴や着物姿のスタッフ一同がレスポンスを返す。
「二月は旧正月もお祝いしましょう♪ 月餅焼くわよ♪」
台湾出身の春姉には馴染みがないようだがベアトリスから贈られた
赤い着物姿で喜んでいた、父の姉に当たる人とは思えなかった。
「守君、似合ってますわ♪」
「守、落語家の人みたい♪」
ベア子が褒めて春姉がからかう、俺の服装は水色の着物に灰色袴
という確かに上だけはお笑い番組の落語家の人の着物と同じ色だった。
「それにしても大人組はさっそく出来上がってるのが何人かいるな」
成人しているスタッフ達は、お屠蘇で酔っ払いヒャッハーしていた。
「守君、酔った女性スタッフは気になさらなくて結構ですわ♪」
ベア子が俺の前に現れて視界を遮る、嫉妬だろうか?
恋人に嫉妬されるなど初めての事でドキドキしていた。
「ああ、わかった♪ ベアトリスも晴れ着姿が素敵だよ」
俺はベア子を褒めた、ベア子が頬を染め上げる。
「あ、ありがとうございますわ♪ 守君、お屠蘇は如何です♪」
ベア子が近くのテーブルからお屠蘇が入った赤い入れ物と杯を取る。
「えっと、固めの杯にならないかな?」
男女のカップルで酒を酌み交わすって結納の固めの杯みたいじゃねえか?
「そういう意味もありますわ♪ 挙式は洋式の予定ですが」
ベア子が俺に微笑むと、飲んだくれていたスタッフ達が居住まいを正す。
皆に見守られる中、俺とベア子が向き合い互いに屠蘇器で盃に酒を注ぎ
飲み干す。
正式なのは違うが、これはもう事実上の仮祝言だよ龍神様達が見てる。
「弟にも甥っ子にも先を越されたわ」
春姉がぼやく、そんな春姉にもベア子が盃を用意する。
「今度は春華さんと守君と私の三人、パイロット同士で交わしますわ♪」
ベア子が告げる。
「ああ、桃園の誓いね♪ 我ら、生まれた時は違えども」
三国志を真似て春姉が言う。
俺はベア子と春姉と三人で盃を交わした。
こうして俺達は新年を迎えて決意を新たにしたのだが、真面目な事の後は
おちゃらけると言う緩急が激しい組織であるナーガズネスト。
「「お嬢、お年玉を下さい♪」」
スタッフ達が男女そろって声を上げる。
「ええ、新年一発目の大盤振る舞いですわ♪」
ベア子が指を鳴らすと床の一部がせり上がりなにやら大量の白い熨斗袋が
入った箱が出て来た。
「お金持ちは違うわね♪」
春姉がうっとりする。
「皆様一律十万円のお年玉ですわ、税金の心配はありませんわ♪」
箱が出てくると、ベア子は熨斗袋を一人一人配って行く。
受け取ったスタッフ達は一人一人ベア子に頭を下げていた。
俺と春姉にも熨斗袋が渡される。
「ありがとう♪」
喜ぶ春姉。
「えっと、ありがとう♪」
俺もきちんとお礼を言う。
「いえいえ、経営者として当然の福利厚生ですわ♪」
微笑むベア子、俺は休みの日にベア子とのデートの代金で使い
彼女に還元しようと思った。
こうして、お年玉やら新年の儀式が済んだら後は普通のパーティーだ。
皆でお節や豪華な食事を楽しんだりした後は余興の時間。
女性スタッフの歌や男性スタッフのコントやら手品やらのかくし芸。
俺達パイロットは、餅つきを披露する事になった。
「炊くのは任せて♪」
実は料理が得意な春姉がもち米を炊いて臼に入れる係。
「搗くのは頼むぜベア子!」
俺がベア子の搗いた餅をこねて出す係。
「お任せですわ♪」
晴れ着の袖をめくりあげたすきを巻いて杵を構えるベア子。
俺達は息を合わせた動作で餅つきを行った。
「守とベア子ちゃん、お似合いね♪」
春姉がからかう。
「うふふ♪ ありがとうございますわ♪」
ベア子が明るく笑う、その笑顔は美しかった。
「ごちそうさま♪ さあ、お雑煮作りましょう♪」
春姉が叫ぶとスタッフが大きい鍋を持ってきた。
組織の長が搗いた餅をその場で雑煮にして振舞う。
俺はこのアットホームなナーガズネストの暮らしを守ろうと誓った。
正月休みの間敵襲がなかったのは、龍神様からのご褒美だと思った。




