2話
「結局、今回の仕事も大した儲けにならなかったか」
依頼主から報酬を受け取ってきたフォルが、長くもない赤茶色の髪を掻き乱して唸っていた。横を並んで歩いていたルピスが、不思議そうに彼を横から見上げている。
「儲からなかったって、結構お金もらえるって話じゃなかったの?」
「ああ、まあな」
フォルは、自分の外套を身に纏っている少女に短く返した。すると、彼女は怒りを露わにした。
「それって契約違反じゃない! 酷い!」
「ちょ、ちょっと待てルピス。あの人はちゃんと金を払ってくれたって」
「ふえ?」
自分の考えが突然くつがえされ、ルピスはどういうことなのかと瞼を瞬かさせた。フォルは彼女の反応を当然だと思い、頷く。
「問題は硬化弾なんだ」
彼女の反応を確かめつつ先を続けた。
ちなみに今のルピスは、一言も聞き漏らすまいと、ジッとフォルのことを見つめている。
「本当は二個でしとめるはずだったんだ。けど使ったのはちょうど五つ。……やっぱり、下手に楽しようと思うと痛い目にあうな」
自虐じみたフォルの言葉を聞いていたルピスが不意に手を叩いた。
「そっか、硬化弾だけに高価だったのね!」
「……」
「あ、あはっ」
フォルがなんといっていいのかわからず戸惑っていると、ルピスがどうにかその場を取り繕うと笑った。だが彼女も、そうしたところでなにがどうにかなるわけでもないことを察したらしい。
「ごめんなさい……」
シュンとうなだれたルピスを見たフォルは、彼女の頭にポンと軽く手を乗せて笑った。
「いつもお前の明るさには助けられてるよ」
「それだけがとりえだからね」
頭をグリグリと撫でると、少女はくすぐったそうな微笑みを浮かべた。
「でもそうなると、ボクはいいけどフォルくんは大変だね」
「俺?」
心配されるようなことがなにかあったかとフォルが聞き返してみると、ルピスがいいよどんだ。
「だって……。フォルくんって、この仕事のお金で生活してるんでしょ?」
「まあな」
「ボクなにもしてないのに、いつもお金半分貰ってる」
どうやらルピスは、環境の違いとやっていることの違いに負い目を抱いていたらしい。フォルはそれにクスリと笑った。
「なにいってるんだ。今日あの魔獣を捕まられたのはルピスの協力があってだろ?」
「でも」
「いいんだよ。俺が勝手に選んだ道だ」
フォルは、違法取締員の父と同じ道を行くのを拒み、十六の時に家を出た。
本当は冒険者として街を出たかったのだが、ある人との約束もあり、今は手頃な仕事を探しそれを解決するなんでも屋まがいのことをしている。
ルピスも彼の事情については理解しているので、ただコクリと頷いた。
「うん……」
「それより、お前の服は大丈夫なのか?」
重苦しくなりそうな流れに、フォルはどうにか他の話題にしようと、思っていたことをそのまま口にした。よく考えれば、フォルのせいでボロボロになったのだから、どこか安易な言葉に思える。だがルピスは、にこやかに頷いた。
「うん、それは大丈夫。お母さんの服もらうから」
「そうか? なんだか悪いな」
「そう思うんだったら、プレゼントして?」
「残念ながら、金がな……」
フォルが困って頭を掻いた。ルピスはそれを見てフッと息を吐いて、笑った。
「わかってる。ちょっと、フォルくんをからかってみたの」
「そうなのか?」
「ん。いってみただけだよ」
喜んでいいのか困っていいのかわからないような表情を浮かべるフォルに、ルピスは小さな笑みを作った。そして、見知った別れ道を見つけてフォルの数歩先へいき、くるりと振り返る。
「これ、借りてくね」
「あ、ああ」
自分の外套を抱きしめるように身に纏ったルピスに微笑みかけられ、フォルはドキッとした。夕陽を背にしていた彼女が、いつになく美しく艶やかにみえた。