シャ○漬け勇者と謎の街②
俺達はしばらく歩いていたが、どうもこの街は色々と不自然だった。
まず、ところどころに魔物(だと思われるもの)が歩いている。絶対に幻覚だろうが不自然なものは不自然なのだから仕方ない。
しかし斬りかかったりしたら実はそこらを歩いてる一般人である可能性もある。だから入口で武器を取られたんだろうか。
ちなみにあまりに久しぶり過ぎるのでだいたいの人は忘れていると思うので、自己紹介的なものをしておくことにする。
まず俺は勇者。前世は多分地球にいたらしいが今はそんなことは全部記憶の彼方に追いやった、ただの勇者である。こう見えても素手・片手縛りで四天王の一角を落とす程度は出来る。どうやって落としたかという記憶は定かではない。
そして隣を歩いているのは僧侶。女である。こんなでも蘇生に近い超回復を片手間で出来る人材だ。俺と会ったときは妖精さんと話していたような気もするが、記憶は定かではない。
先陣切って前を歩いているのは戦士だ。こんなんでも欠伸をしながらヘルドラゴンを一撃で殺せる人材だ。カルシスのエキスを巡って血で血を洗う激闘を繰り広げ、殺し合った末に互いを認め合ったのは記憶に新しいが、定かではない。
そして後ろについてきているのは魔導師だ。女である。こんなんでも洗脳レベルの暗示と魔術を寝ながらでも出来る人材だ。確か最初に出会った時は〇ルヒネのドラッグパーティを開いていたような気がする。気付いたら一緒についてきていたのだが、どういう経緯があったのかという記憶は定かではない。
こんな感じでだいたい非常にあやふやなのだが、三人も多分同じようなものなのでいいだろう。
そんな俺達は魔王を斃しクスリを買う金を得る、いや世界に平和を取り戻すべく旅をしていた。この街に来たのはその道中、なるべく早くクスリを、いや食料などの生活必需品を手に入れる必要があるからだ。
「っていう前提の元なんだけども」と、僧侶はどこか遠い場所を見ながら誰かに向かって喋っている。いったいどこを見ているというのだろう。
「この街に入ったら急に武器とか取り上げられてんだけど。そもそもなんなわけここ」
「その前に街の名前が読めなかったからな。覚えているか勇者。ああ悪い覚えているわけがないか。お前の記憶三分も持たないからな」
「失礼な。五分は持つぞ。この間どのくらい覚えていられるか実験してみたからな。その内容とか全然覚えてないけどな!」
「俺との出会い忘れてたのにか。まあ俺もよく覚えてないけど」
この通り、だいたい誰も覚えていないので安心だ。
「戦士さんも勇者さんも、遊んでる場合じゃないですよ?」
背後にいた魔導士が話しかけてくる。
「もう日が暮れかけてるし、そろそろ宿でも見つけないと」
「この世界時間の概念あったんだな」
「全部適当に回ってるからその辺も全部適当なんだと思ってた」
「黙りなさいヤク中ども」との魔導師の一声で、俺達は宿について考えることにする。
宿といっても俺達には金がない。入口からここまでの道中で所持金のほとんどを失っているからだった。盗られたとかではなく気付いたらなくなっていたのだ。そして代わりに白い粉末状のものが握られていた。
「もういいんじゃないか? 野宿で。僧侶はどう思う」
「野宿だけは絶対嫌」
何があっても絶対にそれだけは認めないぞ――と、とにかくその気持ちだけは伝わって来た。
一応説得を試みたが無駄そうだった。これはもう僧侶を放置して野宿するしかない――と思ったそのとき。
「ん? あれはなんだ」
先陣を切っている戦士の一声に、俺達は前方に注目する。
そこには、オークのような見た目の豚男に鎖で繋がれ、散歩させられている四つん這いの少女の姿があった。
少女は部外者の俺達から見てもボロボロの身なりをしていて、しかも膝が擦れているので大変痛そうだ。
「あれオークか? 前から思ってたがオークの趣味って歪んでて理解できないな」
「いやあれ普通の人間だから。オークっぽいけど。多分」
僧侶は心底どうでもよさそうにそう言った。
しかし――と、俺達は彼等が行っている行為を見る。そして少なくとも「その行為」に、俺と戦士と僧侶は全員ドン引きだった。
引いたままの僧侶が露骨に嫌そうに顔を歪める。
「つーかさ……あれ何のプレイ? 公共の場でやることぉ? そりゃ野外好きの人もいるかもだけど」
「夜に近付いてるとはいえ、人目のある中でやることじゃないな」
「そりゃ性癖は個人の自由だけど、見えないとこでやってほしいんだよね」
僧侶と戦士の言葉に、俺は非常に同感だ。
街の人間も同じように思っているのか、遠巻きに見ている。誰も声をかけないあたり、ひょっとしたらいつものことなのかもしれない。
他所の文化(?)に口出しするほど俺達も無粋ではない。さっさと立ち去ろうとしたとき、
「あの、――けてください!!」
との言葉に振り返る。
鎖を引かれている少女が何か言っていた。何か口をパクパクさせていた。
だが俺は残念ながらその言葉がまったく聞こえなかった。何故ならちょうど同じときに、空の声が聞こえたからである。沈みかけていたはずの太陽が再び復活し、真っ赤な空に浮かぶたったひとつの光源は、空そのものを覆うかのように大きく輝いていて、ああこれが終わりなのかと思うと――
「助けてください!!」
「助けてください?」
今度は聞こえた。助けてくださいと言っているのだ。少女が。
少女をよく見ればなんだか涙が浮いているような気がした。
これはただならぬ事態かもしれないと思った俺は、珍しく素面に戻ってオーク人間に近付いてみた。




