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魔王陛下はお怒りのようです


 魔王軍の新卒一年以内辞職率が、とうとう五割を超えた月。

 魔王軍幹部数名が魔王の執務室に集まっていた。その中心、ひとりの魔王が座しているデスクの周囲に、魔王の直属の配下がどんよりと佇んでいる。

 黒髪に黒眼、限りなく人間に近い姿をした魔王は、デスクに座り腕を組み、眉間に皺を寄せて大きく溜息を吐いた。


「もう……限界だ……」


 そのため息に合わせ、魔王軍幹部も一斉にそれぞれ暗い表情をする。

 そして。


「……それもこれも全てこの世界の文化が悪い!」

「魔王陛下!?」


 デスクをドンッと殴り、魔王が急に怒鳴った。


「確かにこの世界は我々が元いた世界とよく似ている!だが、それだけだ!!本質はまったく違う!!」


 立ち上がり、なにかを吐き出すように叫ぶ魔王に、辺りの配下はあわてふためく。この魔王がこんな風に感情的になるのは初めてのことだった。


「是正せねばならん……この世界も!住民も!文化も!すべてだ!」

「し、しかし陛下、支配に当たり文化風習は出来るだけ尊重しようと……」

「尊重!?何を尊重すると!」


 魔王の、ほとんど泣き叫ぶような声に、配下は何も言えず黙った。


「幼い頃より違法薬物を常飲するのが当然で!住民の平均寿命は驚異の三十二歳!すべての元凶は薬物文化だ!……いや何が文化だ!?文化扱いしたくない!!その何を尊重しろと!!」

「……確かに……」

「せめて子供たちだけでも守らねばならん……その思いだけでわたしは、する必要もない戦闘を行なってきた……」

「陛下……」


 頭を抱え、肩を落とす魔王に、声をかけられる者はいない。


 そもそも魔王軍は本来、勇者と戦闘などする必要はない。

 魔王軍とこの世界の住民では、魔法も防具も戦闘技術もレベルが違いすぎるのだ。

 片や組織化された軍隊、片や部隊とすらいえぬ四・五人のパーティ。しかもだいたいはヤク中で、ごく一部の勇者れいがいはあるもののほとんど使い物にならない。本当なら戦闘などせずともあっさり支配できてしまうのだが、そうしないのは理由があった。

 それは、クスリの流通を操作コントロールするためだ。

 勇者の魔王討伐の道のりは過酷で、戦闘の傷を誤魔化すためにどうしても薬物(痛みを治すものでなく、感じなくさせるものを指す)が必要になることもある。

 勇者一行にクスリを集中させることで、一般の村や街に行き渡らなくするのが狙いだった。


「陛下、もういっそのこと……」


「失礼します!」


 魔王の執務室の扉がバンッと開き、若い魔族が入ってきた。


「なんだ!会議中だぞ!?」


 幹部の様子にも怯まず、若い魔族は魔王をじっと見つめる。


「どうした。何があった?」

「あ……いえ、その……」


 若い魔族は気まずそうに目を逸らし、遠くの方ーー執務室の窓の外にある、魔王城の入口辺りに視線を向ける。

 幹部も揃ってそちらに視線を向けた。


「な……!?」

「あれは……!」


 カラフルな光景が広がっていた。さまざまな魔法が無節操に飛び交い、空を染めている。

 若い魔族が言いにくそうに続けた。


「また新たなヤク中が……」


 執務室の温度がまた一段と下がる。稀にだが、魔王城に到達する強力なヤク中は存在した。

 ヤク中が来たなら行かねばならぬ。それが薬物取締官……いや、魔王の仕事だ。

 執務室を出る直前、全てを吐き出す様に魔王は呟いた。


「……魔王(わたし)にも労基が欲しい!!」


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[一言] 魔王様頑張って
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