プロローグ
登場するものはすべてフィクションであり、実在の人物薬物キャラクターとはなんの関係もないということを絶対に念頭に置いていただければと思います。
朧げながらも前世の記憶があるために、当然のような顔をして店頭に並んでいるそれを、当時五歳の自分は受け入れることが出来なかった。
出来なかったから、立ち止まって、聞いてみる。意を決し勇気を奮い立たせて。
「あ、あの……」
声をかけた相手は、アリゲーターみたいな顔をした道具屋の店員だ。
というか、アリゲーターだ。
そうここは異世界。異世界なのである。
どこの世界に鰐が店員をやってる店があるものか。この世界だ。ならば仕方がないと、まあ割り切るしかない。俺はこの異世界に転生してしまったのだから。
いくら異世界転生者とはいえ、精神年齢的には三十五歳とはいえ、アリゲーターに話しかけるのはなかなか勇気が必要だった。
まあそんな自分ですら声をかけざるを得なかったきっかけのそれは、カラフルで、キャラクターを模していて、ラムネみたいで。
「それ……なんですか?」
「ああこれ?NDNAだよ」
「…………………………」
知らない人のために言っておこう。合成麻○である。
「そうだ、坊やも一粒やってみるかい?オマケしと……」
「い! いいですいいです!! え!? 今えええ!?」
五歳に合成○薬を進める店員の顔をまじまじと見た。アリゲーターだ。
「ありゃ。いいのかい?気持ちよくなれるよ?」
そんな美味しいよ?みたいなノリで言わないで欲しいし、その発言がどれだけアウトかこのアリゲーターおっさんは分かっているのだろうか。
「というか君、ひとりか?親はどこにいるんだい?」
「親は……」
いない、とはこの世界でも言いづらいものだ。
転生後、自分はどこかの大貴族の家にも王族の元にも産まれられなかった。残念なことに捨て子だった俺は、現在孤児院暮らしだ。
1000人くらい暮らしてる化け物級の孤児院で、俺はそこのただの一人だ。ワンオブゼムだ。見事に成り下がった。前世は一応一人っ子だったことを考えると、転生してワンオブゼムに成り下がった例は稀有なんじゃないだろうか。
そんなことはいい。孤児院ときいてアリゲーターはすぐにピンときたようだった。
「ああ、孤児院っていったらあのスピード孤児院か」
……そうだけど、なんでそんな名前なんだろうな。
「じゃあこいつ持ってってやってくれよ。あそこの院長はこいつに目がないからさ、ほら」
「……はあ……」
おっかなびっくりそいつを受け取る。二足歩行の猫みたいな姿をしていた。けど口がない。
「……」
俺はこいつを確実に知っているが、身の危険を感じたので何も見なかったことにした。
これが俺と「それ」の最初の出逢いである。当時の俺はよくわかっていなかったが、「それ」とはなんと十年以上も付き合うことになるのだ。
……言うまでもないが、こんなのと出遭うべきではなかった。
当たり前だ。