表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
風月佳人・前編  作者: 斎木伯彦
幕間
40/40

エピローグ

 セントリフティア皇国、夜半過ぎの王宮。しんと静まり返った王宮の一室、皇王の寝室に一つの影が滲み出るように出現した。

「起きろ、皇王」

 影の命令に従うように、寝台の中の男性が目を覚ます。

「ん、アルフォードか?」

 目を覚ました皇王は眼前の男性に気付くと共に、傍らで眠る女性の寝息に違和感を覚えた。

「起きたのは余だけか?」

「ああ、眠りの魔法と、部屋全体には遮音の魔法を掛けた。室内の会話が外に漏れることはない」

「そうか、相変わらず便利なものだな」

 アルフォードの非常識さに慣れてしまった皇王は欠伸を噛み殺して、上体を起こした。 

「それで、何かあったのか?」

 皇王に問われて、アルフォードは事態を説明する。話が進むにつれて、皇王の顔色は悪くなった。

「シェラは無事なのか?」

「ああ、命に別状はない。しかし長期の治療が必要になった為、しばらく身を隠す」

「そうか、ならば領地はそのまま、オースティンたちに委ねておいて問題ないな」

「そうしてくれ」

 皇王は妹が無事でいるのを聞かされて安堵していた。皇妹の身分を返上した彼女を伯爵に叙爵したとは言え、血肉を分けた肉親の安否は彼の懸念事でもある。

「それと、近々カインがここに来るぞ」

「カインが?」

 皇王の表情が明るくなった。

「村に帰ったのではなかったのか?」

「村には帰って来た。騎士叙勲も私が済ませた」

 アルフォードの淡々とした報告に、皇王は気分が高揚する。

「そうか、騎士叙勲も済ませたか。できれば余が直接に叙勲したかったが、王族以外への叙勲が軽々しくできない以上、カインの雄姿を見られないのが口惜しかったのだ」

「浮かれてばかりもいられないぞ」

「どういうことだ?」

 アルフォードの水を差すような言葉に、皇王はムッとした表情になった。

「北のサルードゥン侯が、蛮族討伐の兵を起こす」

「その話は知っている」

「その討伐軍にカインは参加の予定だ」

 寝耳に水のような事柄を聞いて、皇王は色めき立つ。

「何だと。ならば余自らが親征して……」

「落ち着け」

 アルフォードが渋面で制止を掛ける。

「皇王が蛮族討伐など、侯爵の面子を潰すつもりか?」

「ぐぬぬ」

「心配なのはお互いに同じだ」

 歯軋りする皇王に、アルフォードは共感めいた言葉を返した。

「そこで、強力な監視役を派遣するのに、同意を求めに来たのだ」

「断れない話だな、良かろう」

 皇王は即答する。

「それで、どのような者を寄越すつもりだ」

「学院の私の研究室で助手を勤めている者だ」

「なるほど、カインにとっては兄弟弟子だな」

 うんうんと頷く皇王の表情は明るくなった。

「そうなるが、そういう関係性は伏せてくれ。カインは以外と嫉妬深いのでな」

「そうか、ならば宮廷魔術師の推薦で部隊に随伴する者としておこう」

 アルフォードの提案に、皇王は少し考える。

「役職は比較的自由が多いと助かる」

「ならば、独立混成部隊の隊長にしておこう。急な編制だから通常の大隊規模ではなく中隊ぐらいになるぞ」

「それよりも、小隊ぐらいの特務隊が小回りが効いて良いと思うが?」

 アルフォードからの要望にも、皇王は反対しなかった。むしろカインの好きにさせてやりたいとの思いが強い。

「ふむ、正規軍とは別行動する部隊か」

「敵後方の撹乱や潜入しての破壊活動など、軍にはできない作戦の遂行を主任務とすれば、カインは喜ぶぞ」

「乗った」

 皇王はカインが喜ぶことに弱い。

 こうして当事者不在のまま、北方への派遣に向けた下準備は着々と進むのであった。

 運命の歯車は回り続ける。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ