プロローグ…薔薇の指輪
夢を見た。
静かな夢だった。
とにかく辺りはほのかに桃色で、
他には何も目に入らない。
開いて、訴えかける唇。
それもやはり、桃色である。
いや、もう少し濃いだろうか?
淡い薔薇色?
そう、唇は薔薇色なんだ。
そこからこぼれる言葉は、
唇と同じように優しい薔薇だった。
生まれたばかりの小さな薔薇の花は、
薄い乳白色の柔らかな手に受け取られ、
こちらに向けて捧げられる。
それを受け取り、
初めて目の前の人物の目を見る。
声もない言葉と同じ、薔薇色の瞳。
そこには、幼い頃の自分が映っていて、
それを当然のように見返していた。
「……い」
目が訴えかける。
それは徐々に、
薔薇色から、
淡い空色へと、
変化していった。
その様はまるで、春霞に煙る空のようだ。
「お……がい」
声を伴わなかった薔薇が、はっきりと耳に届き始める。
息を殺して、見返した。
「おねがい、……て。こ……までは……」
薔薇のそれに、雫が浮かぶ。
胸が痛んだ。
そして、頷く。大きな声で答える。
「必ず、必ず叶えてあげるから!」
薔薇が小さく、微笑んだ気がした…………