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第二話ゴールドマリーさんは今日も一生懸命。 

 

 わたくしはお茶目なフランス人形。

 アンティークショップの売れっ子スターよ! 


(売れたらここにいないって)


 ほほほ、この前は失敗しましたわ。

 ご主人様が探しに来なかったらどうなっていたか……。きっと、カラスの巣の一部になっていたに違いありませんわ。


 まあ、いいわ、わたくしは慈愛溢れるお人形。このぐらいで愛しのこうた君を恨んだりしないわ、しないわ~~。

 きっと偶然、豪快に手が滑っただけよ。 ――で、偶然、回収車にストライクしただけよ。そうよ、そうに違いない。


 それにご主人様のお陰で、わたくしはカウンターの棚の一番上に置いてもらえたわ。

 テッペンこそが貴族のオーダーメイドであるわたくしに相応しい。

 まさに神っているクイーンポジションよ。

 ほほほ。

 ここならお子様のこうた君がわたくしを間違って投げる事もない筈ですわ。


 まだ若干ゴミ臭いのが鼻につくのですが。


(人形に匂いわかるの?)


 まぁ、このお店のマスコット兼看板娘としどっしり構えようではありませんか。


(元々動けないという突っ込みは無しで)

 

 今はお昼時、時計の針が1時を指しているわ。


(正確には13時ね)


 鳩時計なので律儀に鳩が出てくる。

 

「ぽっぽー『ナンやワレ!』ぽっぽー『ワシは見世物やないど!』」


 いやいや、完全に見世物ですのよ。

 相変わらず柄の悪い鳩さんですこと。

 きっと刑務所生まれなんですわね。

 

 あの方を見習って欲しいものだわ。

 奥の絵画コーナーにあるのはゴッホのひまわり様。

 王者の風格がありまくりですわ。

 コピーでも値はズバ抜けて高い。

 

 それよりも――


『何でわたくしの隣が鉄の塊なんですの?』


 品性が疑われますわ。


『はは、鉄の塊とはひどいなぁ。元々ここは僕の場所だよ』


 イビツなジャパニーズブリキロボは不平の声をあげる。


(ちなみにこれは聖霊同士にしか聞こえない)


『これでも売れば1万にはなるんだよ』


『ほほほ、たったの1万? ゴミね。わたくしは100万よ』


 骨董の世界は値段が全て、価値が絶対的な力なの。

 わたくしが動けたら、鼻高々に間違えなくふんぞり返っているでしょう。


(フランス人を模した人形なのに鼻が低いのは何故?)


『ちょっとあなた、先程からわたくしの心の声に妙なナレーション入れるの止めてくださらない!?』


『ツッコミ処満載でついね~~』


「――こうた君いつもりんこと遊んでくれてありがとうよ」


「お兄ちゃんありがとう」


 今日もご主人が買い付けの為こうた君はお留守。

 でも、ちゃんとお客様の接待が出来る偉い子。

 然り気無くお茶を出す気さくさもある。

 基本、無口なこうた君はにっこり微笑んで返す。

 あー! 可愛いですわぁ! はぁはぁ。


(お巡りさーん)


 お相手は近所のおじい様と幼いお嬢さん。

 旅行のお土産物を持ってきてくれたみたいね。

 でも、ノウリョウってなんだろう? 

 暑さを避けるという意味かしら?


「こうたくんや、この絵はなんだい?」

「?」


 おや?

 気づかれないように、首を少し動かすと(動けるんかい!)、おじい様はヨボヨボの老体を動かしと指を差す。

 奥に展示してある絵画に興味を示したようですわね。

 ゼンマイ仕掛けの人形の様におててが震えていますわ。

 

「……?」


 困っているみたいですわね。

 おろおろしている姿がまた愛らしいですわぁ。

 

 ほほほっ、ここはわたくしの出番かしら。

 今度は覚えたてのニホン語でこうた君を助けてみせるわ。

 

 この絵はゴッホ、ゴッホ、ゴッホ。

 こうた君弱気だから、強く言った方がいいわね。

 『オイ!』 何てどうかしら? 

 この後すぐ謝れば良いですわね。

 すいませんとかで。

 ……いやいや、うーん、若者らしく、『しゃあせん!』が良いわね。

 おい、しゃあせん、ゴッホなら通じるわ。


「処でこうたくんや、話は変わるが普段うちの孫とは何して遊んでいるのかな?」


「――オイ、シャサン、ゴッコォォ!」


 天を劈く轟音。


「可愛い孫になにするんじゃい!! ワレ!」


 いつの間にか手に持っていた猟銃が火を吹く。


 あれ? あれ? また日本語間違ったかしら? 呂律が上手く回らないわ。


(人形に舌なんてないって)


 御老人はチビったこうたくんを引きずって外へ出ていった。


『頭がスウスウする……イヤァァァ!! 今の銃弾であたくしの頭が砕けたわぁぁぁ!』


『ははは、これで君は価値ゼロだね。このゴミめ』


『ノォォォォォ!』


 



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