第一話フランス人形のゴールドマリーさんはいつも全力投球
わたくしはアンティークショップに置かれているフランス人形。
もう幾世紀またいでこんな田舎臭い世界の果てまで来てしまった。
そうそう、ゴールドマリー。それが昔のご主人様から命名されたわたくしの存在を確定させる名称よ。
レジの隣の棚がわたくしの指定席。
わたくしだけに許されたクイーンポジション。
またの名を玉座。
当然ですわ。当たり前ですわ。あたぼうですわ。
大貴族のオダーメイドで造られた超特注品。
そんじょそこらのガラクタと一緒にしないでくださる。
価値が違う。
ほほほ。頭が高いですわよ。
ガラス越しに愚民どもが通り過ぎていくのを観察するのが日課ですわ。
わたくしには意思がある。
……いや、物にはすべからず意志がある。
ただ、意思疎通が出来ないだけですわ。
わたくしは最近、喋る事も出来るようにもなった。
きっと全能なる神様に選ばれた存在なのですわ。
なんまいだ~。
ここの店主にはこうたくんというお孫さんがいる。
今日も主の代わりにお留守番。
わたくしはいつの間にか好きになっていた。
初恋よ。
なので遂に決意する。
告白ですわ。
日本語は来客の接待とかテレビを観察して、簡単なものならマスターしたわ。
いける、わたくしいけますわ!
さて、何て話しかけましょうか?
今は夜なので、確か挨拶は……こんばんはかしら?
グッドアフタヌーン、意表をついて、おばんです、なんてどうでしょうか?
おばんですおばんですおばんですおばんです。
よし!
ゴールドマリーファイト!
こうた君が丁度、わたくしの方へ目があった今がチャンスですわぁ!
さあ、受け取ってわたくしのマイハートォォ!
「――おぱんつ!」
はれ? 何かが違うような――この時、「……………」こうたくんは無言でわたくしを鷲掴み、次の瞬間、宙を舞った。
ひゅぅぅぅぅと空気を切る音。
わたくし自慢のたてがみロールが揺れ、お気に入りのがスカートが乱れる。
オー、モーレツ!
そのまま窓を越えて外へ、更に偶然通りかかった収拾車にゴォォォォル!
「イヤァァァァ、今日は生ゴミの日よぉぉぉ、わたくしは粗大ごみの日なのよぉぉぉぉぉぉ。臭さいわぁぁぁぁ」
数日後――
店主がわたくしを発見した時はカラスの巣の一部だった。
「イヤァァァわたくしをつつっかないでぇぇ!」