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#03【解答編】

謎とき小説、ブッキャット先生。初出:twitter(2018年8月)

問題作成:Lop(転載許可済み)

 手渡された紙を見て、わたしは苦笑した。


「いや、ちゃんとアルファベットもあるじゃないですか。図形より多いですよ」

「そりゃあ、英文学者の想念上の飼い猫ですからね。彼女にも、それなりの矜持があるでしょう」


 猫がなにをどう考えているかなど、誰にわかるだろう。なんといっても、猫だ。それも、想念上の猫だ。


「そのへんは、よくわかりませんが。ただ、今回も回答はアルファベットということになるのでしょうね。英単語だ」

「可能性は、限りなく高いですね」


 太陽をあらわしているとしか思えない記号を、わたしはしげしげと眺めた。

 まず思いついたことを、口にしてみる。


「なんだか、カレンダーみたいですね」

「日曜始まりの」

「ええ。ただ、それにしては数が……」

「一週間に、おさまらないですね」


 太陽のマークが日、次の M は Monday に調子よくあてはまるが、その次がいきなり V である。


「先生は、もうおわかりですか?」

「わたしの猫ですからね」

「そうですか」

「理不尽なことを、という顔をしていますね」


 訪ねて来ないから猫が家出したとまでいわれた身としては、そういう感覚を覚えても無理からぬところではある。しかし、今はそういう話をしているのではない。


「いやまぁ……たとえば M を Monday ではなく Moon と考えるにしても……全然わかりませんね」


 氷がとけてしまった麦茶を飲み干したわたしを見て、先生は立ち上がった。


「もう一杯、いれてきましょう」


 先生が戻って来たときにも、わたしはまだ頭を悩ませていた。

 硝子の湯のみの中で氷が鳴る、からんという音に誘われて、さっそく口をつける。


「隠れた法則さえみつけられれば、すぐですよ」


 法則をみつけてしまった人の意見である。

 こちらは、まったくみつかっていない。


「いつもそうですからね。ひらめいてしまえば、あっ、となる……そのひらめきが、なかなか来ないんですが」

「法則の候補として、カレンダーは、そこまで遠くないんですけどねぇ」

「遠くないですか」

「そう。ただ、先ほどの衛星の話と同じ、太陽系だから近いけど見えるかどうかでいえば見えない、のような……」


 先生の喩えは、わかるようでわからない。近いが遠い、遠いが近いということだろうが、直感が降りてくるまでは通じない、そういう代物だ。

 直感よ来れと念じながら、わたしは猫の書き置きを凝視した。それこそ、天王星の衛星までも届きそうな眼力で――。


「あっ」

「ひらめきましたか」

「惑星だ。これは、太陽系なんですね」


 太陽、水星、金星、地球、火星、木星、土星、天王星、海王星……そして、冥王星。


「元太陽系、というべきかもしれませんね。冥王星は、太陽系の惑星たる資格なしということで、何年か前から数えられなくなっていますし」

「そこは、英文学者でいらっしゃる先生の猫だからでしょう。人間の都合で惑星として数えられ、同じく人間の都合で、やはり惑星ではないと退けられた。けれど、科学上の分類で惑星の資格を失ったとしても、ですよ。長い歴史の上で名前を持ち、語られてきた事実は消えないのではないですか? だから冥王星は、まだ太陽系の一画をなしているのでしょう……先生の猫にとっては」

「なるほど。君、それは慧眼です。人間による分類や名付けなど、天体にとっては意味などない。しかし、文化の上では名付けや言葉、その繋がりこそが重要。……と、いうことですね」


 Mercury, Venus, Earth, Mars, Jupiter, Saturn, Neptune, Uranus, and Pluto.

 頭文字を数字の順に並べ替えれば、猫のメッセージが浮かび上がる。


挿絵(By みてみん)


「しかし先生、『JUMP』とはどういう意味なのでしょうか」


 暫しの沈黙の後。


「猫は、遠くへ行きたかったのでしょうかね」


 ぽつりと、先生がつぶやいた。

 わたしは――おそらく先生も、猫の不在を痛切に感じていた。消えた気配は、戻って来ない。

 さようならでも、どこかへ行くよでもなく、跳ぶよ、という挨拶が、猫らしいといえば猫らしいかもしれない。

 あるいは、跳べといわれているのだろうか。飛躍せよ、と。

 誰に、猫の考えることがわかるだろう。


「わかりませんね」

「わかりませんよねぇ」


 想念上の猫も、この縁側から夜空を見上げていたのだろうか。

 ひょっとすると、猫は、本の圧力から逃れたくなったのかもしれない。

 なんといっても、ブッキャット先生は猫より本の方が好きなのだ。現実の猫を飼うのを諦めてしまう程度には。

 日はすっかり暮れ、わたしたちは夏の夜に押し包まれようとしていた。


「ちょっと行ってきます、夜空へジャンプ……といった、気軽な感じの挨拶ですかね」

「いなくなってしまったんですね」

「満足したら、戻って来るかもしれないですよ」


 先生は答えず、わたしたちは縁側に座ったまま、空を見上げつづけていた。


ひょっとすると続きを書くことがあるかもしれませんが、とりあえずは完結です。

お読みくださり、ありがとうございました。

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