#02【解答編】
謎とき小説、ブッキャット先生。初出:twitter(2018年5月)
問題作成:Lop(転載許可済み)
「君なら解いてくれると見込んでるんでしょうから、頑張ってくださいよ」
「しかし……」
当惑するわたしに、先生は説いた。
「コミュニケーションというものは信頼の上になりたっているものなんです」
「信頼ですか」
「そうでしょう。わたしは君に言葉が通じると思っているから、語りかけています。君もそうですよね?」
「そうですね……同じ言語で喋っているわけですし」
「しかし残念ながら、日本語は表記が複雑で、彼女には扱えないのではないでしょうか」
「そうなんですか?」
「日本語が扱えるようだったら、最初から使うでしょう。かなに限っても、大雑把にいって五十文字くらいあるのですよ。その上、かな表記だけでは意味がとれない同音異義語が多過ぎて、漢字かな混じりでないと満足なコミュニケーションがとれないとは思いませんか? 複雑に過ぎるでしょう。英語アルファベットでさえ、君にかかれば猫には難しいそうですからね」
日本語表記なんて当然無理でしょう、と先生は語る。これは、そうですねと認めるしかない。
「漢字かな混じりで流暢な日本語を書かれたら、到底、存在を信じられなくなります。先生が事前に準備なさったんだろうとしか思えないでしょうね」
「ふつうの人は、この状況でもそう考えると思いますがね」
「そうでしょうか?」
そうですよ、と先生は真面目な顔でうなずいた。
「先生が準備なさったんですか?」
「そう思わない君だからこそ、猫がコミュニケーションをとろうとしているんですよ。そして猫には日本語表記が難しい以上、次善の策として選ばれるのが英語なんです。英語でしたら、アルファベットの数も少なく、形もシンプルですからね」
それに、わたしが英文学者ですし、と先生の話はつづいた。仏蘭西語やら伊太利亜語やらよりも英語の方が、わたしの猫である彼女には扱いやすいはずです、と。
「なるほど……」
返事をしながら、わたしは升目の数を数えていた。かなに限っても五十という言葉で気がついたのだ。
「アルファベットは二十六文字ですね」
「そうですね」
「わかりました」
「わかりましたか」
「この升目にアルファベットを当てはめて、矢印の指示に従って並び替えればいいんです」
「素晴らしい」
わたしは手帳を取り出し、そこにアルファベットを書いた――ブッキャット先生の猫がくれた紙に直接書くのは、はばかられたからだ。
そこにみちびきだされた答とは。
「……なるほど、図形ですね」
ええ、と先生はうなずいた。そして、厳かに告げた。
「お望み通り――SQUARE」