#01【解答編】
謎とき小説、ブッキャット先生。初出:twitter(2017年10月)
問題作成:Lop(転載許可済み)
「メッセージ、ですか」
「あれにも伝えたいことがあるらしいですね」
「しかし、これは読めません」
「僕らとは違う存在ですからね。ふつうの言葉では伝えられないのか、伝える気がないのか……しかし、伝わるとは思っているのでしょう」
先生は、そういってうなずいた。
「でも、僕には読めませんよ」
「おやおや、でもこれは君へのメッセージですよ。君の膝の上に落ちたのだから」
あらためて、紙片に並んだ文字を眺める。どう見ても英語アルファベットだが、英語の体を為していない。
「しかし……これは何語なんです?」
「何語でしょうね」
「先生はもうおわかりなんですか」
「そりゃあ、わかりますよ。わたしが考えた猫ですからね」
「そういうものですか」
「そういうものではないですか?」
ああ、でも、と先生はちょっと上の方を見て、思いついたというように口にした。
「今日は、違うかもしれないですね。君という要素も含んでいるかもしれない。いつもより、気配が強いですからね」
「でも、先生にはわかって、僕にはわからない」
先生はこちらを見て微笑んだ。
「わかりますよ、君にも」
仕方がない。僕は紙片を睨んでつぶやいた。
「Whatはともかく……次のrisで切っていいのかわからないけど、うーん、What ris it か? いや、r を消すのか。What is it he gword……?」
まったく意味をなさない。
「いいですね。問題とは、しっかり向き合う。最初から、順番に。いくつかの単語が見えてきているようですね?」
「そうですね。なぜ『r』を消さねばならないかはわかりませんが」
「だが、消さないと単語にならない」
その通りだ。『g』がなければ『gword』は『word』になるから、『g』を消してもいい。だが、なぜ消すのかという疑問は残る。
「それっぽい単語だけ抜き出すにしても、is it he では意味がわかりません」
「意味がわからないなら、伝わりませんね。つまり、それはまだ正解に至っていないということでしょう」
消さねばならない文字。
いくつかの単語。
じっと紙片に並ぶアルファベットをみつめ、『hyout』の意味について考える――これは『h』と『t』を消すんじゃないか?
ここで、ようやくひらめいた。
「単語のあいだの文字を消すんですか。一文字ずつ」
「いいですね。やってみてください」
これは『isit』ではないのだ。『is』をとったら、次の『i』は消さねばならない。そういうルールだ。
「What is the word you removed?」
「そう。君が取り除いた文字は、なんですか?」
「……right」
満足げに先生はうなずいた。
「伝わりましたね」
「しかし、どういう意味なんです?」
「それは君の解釈次第でしょう。どこから見ているかの話をしていたところだったから、右から見てるよと伝えたかったのかもしれない。見ているということに対して、正しいよ、そうだよ見ているよという意味かもしれない。あるいは――自分は存在している、ということだけを漠然と伝えたかった可能性もあります。どこまでを、どのように解釈するかは、受け手次第です」
「なるほど」
「どんな情報も同じです。送り手は、どのように受け止められるかを選ぶことはできない。だからこそ、受け手の権利は尊重されるべきなのですし、そこには大きな責任も生じるのです。誤解をしないということ、正しく受け止めるということなのです。まさに――」
先生は、静かに告げた。
「――right」
謎の解法は、twitterに掲載した動画がわかりやすいかもしれません。
https://twitter.com/usagi_ya/status/918083904124235777