#01【出題編】
謎とき小説、ブッキャット先生。初出:twitter(2017年10月)
問題作成:Lop(転載許可済み)
ブッキャット先生は、小路の奥に住んでいる。
もとは旅館の離れだったとかで、なかなか端正な佇まいの――しかし、古びた感は否めない小さな家だ。先生はそこで、本と暮らしている。
そして、猫にとり憑かれている。
「正確には、猫ではないと思うのですがね」
「では、なんなんのですか」
「なんでしょうね」
本と猫にとり憑かれた先生だから、ブックとキャットでブッキャット。そう呼びだしたのは学生だろうが、それが誰なのか、いつ頃からなのかは判然としない。英文学の先生だからブッキャットらしいが、国文なら本猫先生にでもなっていたのだろうか。
昔のことですからね、と先生は語る。
「もともと、わたしは猫が好きなのですが、本を荒らされても困るのでねぇ……知人が家を留守にしたら、怒った猫が頁をひきむしった上に粗相をしたと話していて、そんなおそろしいことには耐えられないと。それで、空想で猫を飼うことにしたんですね」
「空想で飼っているという話から、先生には猫がとり憑いてるという噂になったんですか」
「はは、そんなところでしょうね」
猫の気配は、いたるところに感じられた。目の端で、黒い――どうやら黒猫らしい――尻尾が揺れることもあるし、しなやかな身体が足下をすり抜けていくような感覚を覚えることもある。かと思えば、静かに注視を受けている気分がすることも。
「綺麗な猫なんでしょうね」
「それはどうでしょう……我が家は本と埃にまみれてますからね。意外にあいつも埃だらけなのでは」
「幻も、埃にまみれるのですか?」
うーん、と先生は唸った。
「そうですね、関係ないかもしれない。わたしが猫の姿を思い描きつづけるあいだは、毛艶のみごとな美しい猫でいられるのかも。現実の影響など受けずに」
「猫はオスなのですか、メスなのですか」
「メスです。オスだと縄張りのしるしをつけようとして、粗相をすると聞きましたから」
幻の猫なのに、そんなところまで律儀に心配しているらしい。
「それは大丈夫なんじゃないですか。餌は与えているのですか?」
「食べないなら出さないということですか。そうですね、キャットフードは置いてませんよ。ですが、幻想の猫ですからね。わたしの考えが、食料のようなものではないですか」
そういわれると否定はできない。
「危険はおかせない、ということですね」
「そうです。わたしはメスだと思ってますが、オスなのかもしれませんし、そもそもオスとかメスとかいった性別がなくても不思議はありません」
「猫ではないかもしれないですしね」
「そう、あれは――雰囲気ですね。猫がいる、いてほしいという願望にもとづいて醸成された、雰囲気です」
「なるほど」
「あれを信じている人が来ると、雰囲気が強まりますよ。ほら、今も我々を見ているでしょう」
「どこからでしょうね」
「積み上がった本の隙間からか、それとも上に乗っているのか……崩さないでくれれば、どちらでもかまいませんがね」
先生がそう口にした、まさにそのとき。
積み上がった本の山から、ひらり。さだまらない軌道を経て、一枚の紙がわたしの膝の上に落ち着いた。
手に取ってみると、そこには文字が並んでいた。
「……これは?」
「猫じゃないかもしれない猫っぽいものからの、メッセージですよ」
先生の発音は、メッセージのところだけ妙に発音が英語っぽかった。
謎の答えは英単語になります。
正解は、連載の続きで公開します。