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わしジジイ、齢六十を超えてから自らの天賦の才に気付く  作者: しんこせい(『引きこもり』第2巻8/25発売!!)


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皆打

「というわけで、メンバー選定がまたふりだしに戻ったわけじゃが……」


「私たちは既に十階層を踏破している。身代わりにできそうな奴らなら、さほど困らずに雇えるだろう」


 ディル達はシアのいた冒険者ギルドを後にして、サガン迷宮へとやって来ていた。


 二人が入り口の近くで立ち往生したまま迷宮へ入ろうとしないのは、自分たちの新たなパーティーメンバーを探すためにやってきているからである。


 現状、シアは父親の看病で忙しく、ディル達のように高頻度で迷宮に潜り続けることはできない。

 アーディの病状が安定するまでは、なるべく目を離さずに経過を観察する必要があるからだ。


 彼女がまたディル達と組んでくれるかはわからないが、今しばらくはシアの手を借りることは難しい。

 二人で迷宮に潜ればいいかと思うかもしれないが、それはあまり現実的な話ではない。


 対人、対魔物戦闘においてディル達の能力は抜きん出てはいるが、彼らには四本の腕も第三の目も存在していない。


 これから先、中層以降は魔物が上層と比べるとまとまりを持つようになってくる。

 魔物の中には連携を取り、前衛後衛に分かれて攻撃をしてくるような者も出てくるようになるのだ。


 近接戦闘で相手を誅することに特化しているディルと、オールラウンダーであるイナリだけでは手が足りなくなってしまう。


 以前シアを雇った時と同じように、冒険者ギルドから直接斡旋してもらうことも視野には入っている。


 しかし上層の同伴と中層の同伴では、随行の料金体系がかなり違う。

 まだ出てくる全ての魔物達を網羅したわけではないが、恐らくは魔石や魔物の素材だけだと足が出てくるような金額になっているのだ。


 出土する魔道具や金属類で補うことは可能な額ではある。

 しかしながら、ディルは新たにギルド公認の冒険者を雇うつもりはなかった。



 まず一つ目に、シア以外の誰かを雇うことに心理的な抵抗があったという理由が挙げられる。

 どうせなら彼女と再び迷宮を共にする時に、席が別の人間で埋まっているという事態を避けたかったのである。


 エゴと言われればその通りだろう。

 そこまで金に困っていないのだから、大人しくギルドが認めた冒険者達と、ギルド経由で契約を結べばそう悪いことにはならないはずだ。


 そして二つ目の理由は、ディル達が望んでいるのは中層を攻略するためのパーティーではなく、下層まで潜りアーティファクトだけを狙いにいけるようなパーティーを組むことだという点である。


 ギルド経由で契約を行う冒険者は、今までの依頼の達成率が高く、信頼が置けるベテランであることが多い。

 そういった人間は、何よりも自分の身や安定した稼ぎというものを求める傾向がある。


 命を賭けてまでアーティファクトを取りに行くような、冒険心を持っているものは少ないのである。

 ディルは強い野心や金銭欲を持つ人間でなければ、自分達と行動を共にすることはできないだろうと考えていた。


 トップクラス、準トップクラスの冒険者達の中にギルド経由でパーティーを組んでいる者はいない。

 彼らは時に自らの命すら省みず、無謀を通してしまえるだけの強い意志の力を持ち、冒険者という職を全うしているのだ。


 つまりディル達は野良で下層に通用するような冒険者を探さなくてはいけないわけだが……これがまた難しい。


 当たり前だが、能力が高い冒険者は既に誰かから唾をつけられている。

 引き抜かれたり、吸収合併されたりと形は様々だが、目に止まる人間というのはそう在野にはいない。


 かといって、既にある一流パーティーに加入するというのもよろしくない。


 ディルはイナリに使うためのアーティファクトを必要としている以上、自分がパーティーのリーダーを務める必要があると考えている。


 もしディルとイナリがどこかのパーティーへ入り、そこで彼女の身体から毒を抜き取れるようなアーティファクトが出たとする。


 その場合、ディルに決定権がなければ、遺物はパーティーのリーダー権限で売り飛ばされ、均等に配分された金貨へと変わってしまう可能性が高い。


 ディルが所有権を主張するためには、あくまでもパーティーはディル主体ではなくてはならない。

 彼の目的はあくまでも、イナリの身体を正常な状態に戻すことなのだから。


 とするとディル達に今許されているパーティーを編成する方法は二つ。

 一つは、未開拓のうら若き冒険者達の中からダイヤの原石を探すこと。

 そしてもう一つは、わけあってパーティーを組んでいない変人をなんとかして説得することだ。


 ディル達がサガン迷宮から出てくる者達を見つめているのは、後者の手段を取るためである。

 彼らは今、とある女の子がやってくるのを待っているところなのだ。


「お、居たぞ。あれが皆打ラッキーストライクのウェンディ」


 ディルの返答も聞かぬうち、イナリはすいすいと先へ進みウェンディの方へと走って行ってしまった。


 ディルとイナリがまず最初に目をつけたのは、ウェンディ=アースレイ。

 攻撃魔法を狙った獲物へ放つことができず、魔力に飽かせて全方向へ魔法を放つという噂の魔法使いである。


 味方も敵もまとめて攻撃してしまうことから、ついたあだ名が皆打ウェンディ。


 冒険者達のランクがはっきりと固定されているサガン迷宮では、彼女のようなピーキーな人員しか残ってはいないのだ。


 ディル達の迷宮中層攻略には、早くも暗雲が立ちこめ始めていた。

次回の更新は12/12日になります

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