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わしジジイ、齢六十を超えてから自らの天賦の才に気付く  作者: しんこせい(『引きこもり』第2巻8/25発売!!)


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まだ見ぬ強敵



 第七階層は、第五・第六階層とは異なり再び洞穴のような造りになっていた。


 天井の高さは大人二人分ほどもなく、少しの間感じていなかった閉塞感や圧迫感のような物を感じさせる。

 ただ道幅自体はかなり広かったので、三人パーティーなら戦闘に支障を来すことはなさそうだ。


 基本的には薄暗く、道行く途中に光石が配置されている。

 匂いはほとんど無臭に近く、前方から音は聞こえてこない。


 ディル達が立っていたのは、三方を丸っこい壁に包まれた袋小路だった。

 転移水晶から手を離し、とりあえず道なりに進んでいく。


 ディルは剣に手を掛け、イナリの後をついていった。

 湿度が一気に上がったせいか、じっとりとした汗が全身を薄く覆っていく。

 握った黄泉還りから手が滑らぬよう、何度も鎧下で手汗を拭いては前を見る。


 後ろにシアの足音を感じながら進んでいくと、先ほどから代わり映えしなかった景色に変化が生じる。


 片道通行だった道が、三叉に分かれたのだ。


 ディルは耳を澄ましてみたが、相変わらず戦闘音のような物は聞こえない。

 細かな物まで集音できるだけの聴力はないので、大人しくイナリが動き出すのを待った。


「少し待て」


 イナリが罠を警戒しながら、索敵を行うために一時この場を離れる。

 彼女は躊躇なく、真ん中の道を進んでいった。


 ディルとシアは、残り二つの入り口を警戒する。

 少し経つと、イナリが帰還。


 どうやら真ん中の道にはポイズンリザードがいるらしい。


 戦ってみるのもなくはないが、無駄に体力を使う意味もない。

 戦わねばならない事態に陥るまでは、なるべく戦闘は避ける方針にして進んでいくことに。


 二つ小道、三叉路、十字路にT字路。


 高さや横幅が一定で、景色も変わりづらいために、同じ道を何度も繰り返し歩いているような気分になっている。


 イナリのマッピング能力は確かなので今更疑ってはいない。

 だがもしも彼女ほど有能な地図作成能力がない者しかいなかった場合、この階層は恐ろしく人間の精神を摩耗させるだろう。


 いつどこから敵が出てくるかもわからず、延々と同じにしか見えない道を歩かされる。

 それはあまり想像力たくましくないディルであっても、苦行に思えた。


 ただポイズンリザードの数自体は、それほど多くない。

 居るにはいるのだが、分岐点によって遭遇しなくとも大丈夫というパターンが多いのだ。


 もしかするとこの迷宮は、わざとポイズンリザードの数を減らしているのかもしれない。

 そんな風に邪推してしまいそうな、意地の悪さのような物があった。


 似た道を歩かされ、肉体的にも精神的にも疲労が溜まり、注意力が散漫になったところで、今まで出遭ってこなかったポイズンリザードがいきなり現れ、突如として戦闘が始まる。


 人間という物の弱さを、この階層は試しているのかもしれん。


 ディルが畏れを抱きながらイナリの背中を追っていると、今度は広い空間に出てきた。


 それは今までとは趣向の違う、開けた場所だった。


 天井はかなり高く、まるでモンスター部屋のような違和感を感じさせる広がりがある。


 三人の目の前には、三角形上に拡がっている幾つもの洞穴が並んでいた。

 穴の数は下から、5・4・3・2・1と上がるに連れて減っている。

 一つ一つの入り口は大人が入れるほどの大きさがあり、横にある段差からどこからでも入れるようになっている。


 突如として現れた、合計十五個に増えた先へ続く道。

 今まで最大で三つしか進路がなかったのと比べるとあまりにも大きな変化だ。


 これは第八階層が近いという意味なんじゃろうか。

 それともただの嫌がらせなんじゃろうか。


 ディルが首を捻っている間に、イナリは一番下の右端の穴へと向かっていた。

 そして入り口付近で首を入れて中をのぞき込み、何かを確かめてから、また別の穴に行くという行程を全ての穴において行っていく。


 そして一番上の穴のある場所を確認してから、階段を使わずに飛び降り、音もなく着地。


 骨とか折れてませんよね? と小声で聞いてきたシアの質問に、ディルが答えを返すよりも早く、


「全部にポイズンリザードがいるな。ただ何個か、モンスター部屋に繋がってる場所がある。あと一つだけ、ポイズンリザード以外の何かがいるのがあるな。そこが当たりか外れかはわからんが」


 どうやらここが、ポイズンリザードとの戦いが避けられなくなる場所であるらしい。


 ディル達は話し合ってから、先へ進むのではなく来た道を戻るという結論を出した。


 幸運なことに、既に赤い転移水晶は発見できている。

 それならば徒に、わざわざこんな怪しい場所で戦わずとも、水晶に近く、何かあればすぐに迷宮の外へと出れる場所の方が適切だ。


 ディル達はイナリが作った地図を頼りに、迷宮を戻ることにした。


 去り際、ディルは思わず後ろを振り返る。


 五段ある洞穴の、その一番上。

 そこに居る生き物の気配を感じ取ったのだ。

 強い生命の波動、気配察知のできぬディルですら感じ取れるとなると、恐らくはそこがポイズンリザード以外の何かが居る場所。


 迷宮には十階層ごとにボス部屋が存在する。

 だが普通のボス部屋とは異なり、ランダムに配置されているとされる特殊な物もあるという。


 もしかするとあの場所が――――とすると、戦うことになるかもしれんの。


 ディルは顔を上に向けながら、洞穴を見つめた。

 彼の視線の先には、一寸先すらも見えぬほどの闇が広がっている。

 あの先にいるボスを倒せば、もしや―――。


 ディルは期待と不安を同時に感じながら、止まっていた足を動かした。

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