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わしジジイ、齢六十を超えてから自らの天賦の才に気付く  作者: しんこせい(『引きこもり』第2巻8/25発売!!)


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ここからが本番

次回更新は10/10になります

 第七階層の魔物、ポイズンリザード。

 喉の辺りに付いている腺で毒を作り、口から毒液として吐き出す魔物だ。


 毒の強さ自体はあまり強くはない。

 だが皮膚に触れればジリジリと焼けるような痛みが走るし、粘膜や傷口から体内に入れば身体が重くなり動きが鈍くなってしまう。

 そうして弱ったところをかぎ爪で裂くというのが攻撃の基本パターンのようだ。


 事前に調べてあるために、ポイズンリザードという魔物に関しての理解はばっちりだった。

「ほら、これを使え」


 転移水晶前に並び順番待ちをしていると、イナリがディルとシアに手渡しで小瓶を渡してくる。

 事前に話に聞いていた、イナリ特製の解毒薬だ。


 ディルは普通にもらい、シアは少し申し訳なさそうな顔をしてもらった。



 この程度の解毒薬なら、わざわざ買うまでもない。


 第七階層へ行こうという話になったときに、イナリは二人にそう口にした。


 彼女は毒を自らの体内で生成することができる。

 そしてその応用で、解毒薬のような物も作ることができるらしい。


 毒に対してそれと相殺できるような毒を作って云々という説明は受けたのだが、ディルは既に半分くらいは話の内容を忘れている。


 解毒薬として使えて、飲んでも塗っても大丈夫。

 それさえわかっていれば、細かい理屈などどうでもいいのである。


 ギルドの人間に勧められた薬屋には、ポイズンリザードの毒用の解毒薬も売っていた。


 シアが少し申し訳なさそうな顔をしていたのは、もしかしたら彼女が念のために、そちらも買っているからかもしれない。


 既に迷宮行で彼女の毒のエキスパートっぷりは散々見ているので、シアも不信を抱いたりはしていない。

 だがそれとこれとは話が別なのだろう。


 シアから視線を逸らし、第七階層での戦い方について考える。


(事前に話はしてあったので、恐らく問題はないじゃろう)


 髭をしごこうとして、自分の右手にいつもとは違う重さがかかっていることに気付く。


 今、ディルの右手には木の軽い盾が装備されている。

 毒液を食らうための、軽くて幅のあるタイプの盾だ。


 ポイズンリザードの一般的な倒し方は、遠くから魔法や弓等で弱らせてから、近距離職が致命の一撃を与えるというものである。


 この魔物は毒を持ってはいるが、それを十全に活用できるだけの知能がない。

 ポイズンリザードは敵の姿を見つけると、とりあえずやたらめったら毒を吐いてくるのだ。

 毒で弱らせてから爪の攻撃、という行動がすり込まれているのか、毒がしっかり当たるまでは爪より毒液攻撃の比重の方が高くなるらしい。


 分類としてはゴリゴリの前衛職であるディル。

 見切りのスキルを使えば毒を避けることはできるかもしれないが、毒と相手の攻撃を全て避けるとなると運動量が増える。


 おじいちゃんであり激しく運動をすると噎せるくらいの体力しかないので、あまり無理はしたくない。


 というわけで話し合いの結果、毒を盾で食らってタンクのような役目を引き受けることにしたのだ。

 最小限の動きで、毒は食らい、爪やかみつき攻撃だけはしっかりと避けられるようにするというのが今回のディルの目標だった。


「とりあえずは魔法で弱らせて、って感じでええんじゃよね?」


「ああ、事前に話していた通りだ」


 今回、ディル達は二つに分かれて行動をする。

 ディル、シアのペアとイナリ一人という形で。


 その理由は簡単で、イナリには毒が効かないからである。

 これまた小難しい理由を述べられたが、彼女は毒に対してあり得ないくらいの耐久を持っている。

 ドラゴン等のごく一部の例外を除けば、ほぼ全ての毒を無効化できるとはイナリの談。


 そのため普通ならあり得ないのだが、ポイズンリザードにそのまま突っ込み、毒を吐かれようが戦い続けるという自爆特攻のようなことができてしまうのだ。


 イナリがポイズンリザードを倒しきるまで、彼女が戦っている以外のポイズンリザードを引き付けるのが今回のディル達ペアの役目である。


 とりあえずディルが攻撃を防ぎつつ牽制をして、その間にシアが魔法なり弓なりで相手の注意を引く。

 そのまま倒せれば良し、倒せなければイナリが毒を食らいながら倒す。


 倒すのではなく耐えるというやり方が上手くいくかどうかは、ぶっつけ本番なところがある。

 別の魔物で試し、慣らしてはいたが、ポイズンリザードとの実践は初なのだ。


(……いかん、なんだか緊張してきた)


 考えてみれば、第七階層に来るまではイナリに力を使わせればほぼ戦闘をせずに先へ進むことができた。


 しかしここからは、連携の確認や練習といった理由でイナリの力を制限していた今までとは違う。

 彼女の毒ではなく、自分達の腕で魔物を戦う必要があるのだ。


 冒険者としてはこれが普通だし、今までが楽してただけじゃ。

 イナリの索敵や罠探知は相変わらず使えるし、これでも普通の冒険者達よりずーっと楽をしとる。


 頭を振り、到来してきていた緊張感を頭の中から振り落とす。


 基本的に自分は、イナリにおんぶにだっこだ。

 ここからは自分とシアもしっかりと戦って、彼女の負担を減らしてやる必要がある。


 毒を受けるだけじゃなく、しっかりと攻撃も加えよう。


 ディルはそう決意してから転移水晶に触れ、三人で第七階層へと飛んだ。

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― 新着の感想 ―
イリアは複数の毒を調合したりできるんだから1種類だけじゃないだろうからそう簡単に完全に毒が効かないモンスターは出てこないと思う。
[一言] イナリエキス、、だとぅ?
[気になる点] 毒液を食らうための盾じゃなくて、毒液を防ぐ為の盾じゃないですか。
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