第七階層へ
お待たせして申し訳ないです。
次回更新は、10/3(土)になります。
モンスター部屋、というものがどういう原理でできるのかは諸説ある。
ある者は魔物が討伐されずに一カ所に留まり続け、溜まった魔物達が徒党を組むようになってできると言う。
そしてまたある者は、元々魔物がそこに一瞬にして現れるのだと言う。
それらの仮説は、どちらも正解であり、間違ってもいた。
迷宮の中というのは、複雑怪奇である。
魔物が出てくるパターンは、一定ではない。
モンスターが一気に湧き出せばそこはモンスター部屋になるし、モンスターが徐々に溜まっていったとしてもその場所はモンスター部屋になる。
そのどちらにしても、宝箱は出てくる可能性がある。
ならば部屋のでき方などというものは、学者なり好事家なりが考えていればいい。
ディル達冒険者は、ただそこにいる魔物を倒すだけでよいのだ――――。
「この先だな、曲がってしばらくしたところにモン部屋がある」
「了解です」
「了解じゃ」
ディル達は一日休養日を取り、再度迷宮へと潜っている。
今彼らは第六層の土を踏んでおり、イナリの魔法の力に飽かせてモンスター部屋を探し回っていた。
一応第六階層からも、宝自体は出現する。
新たな宝が欲しいから、という理由付けをすることは簡単だった。
まぁ、多分信じてないじゃろうけど。
なんとなく、自分の思惑が察されているような気がするおじいちゃん。
イナリが直接言ってこない限りは、こちらも彼女の意図については知らんぷりを決め込もうという、腹づもりであった。
「一応の確認ですが、出てくる魔物はゴブリンとオーガの混成隊です。最低限の連携は取ってくるので、私たちも気は抜きすぎないほうがいいでしょう」
ディルに話しかけるシアの態度は、どこか肩の力が抜けている。
もう何日もイナリのことを見てきたからこそ、その力に信頼を置いているのだろう。
下手したら魔法や毒についてあまり造形が深くないディルと比べても、その信頼は篤いかもしれない。
イナリがなんでもないように、前へ出て行く。
そして角を曲がり数歩ほど歩いたところで、足音が止まった。
そのまましばし時間が経過し、その間ディル達はほどよい緊張を保ったままジッとし続ける。
イナリがもういいぞと言うまで、彼らはそこにいなければならない。
そしていつものように彼女のぶっきらぼうな声が届いたところで、二人はゆっくりと歩き始めた。
「そこから前に出るなよ、まだ残ってるからな」
地面にビッと引かれている線が、見えない毒がどこまで広がっているのかを教えてくれる、唯一の目印だ。
ディル達から少し離れたところには、死屍累々となっている魔物達の姿がある。
部屋の大きさは、ディルが泊まっている宿の部屋よりも大きい。
人がある程度の距離を離して整列しても、二十人は並べるくらいだろうか。
そんなわりかし広めな場所に、ゴブリンとオーガ達があわれにも倒れている。
痙攣していたり既に死んでいたりと状態は様々だったが、どうやら第六階層にも毒の効かないオーガ等はいないようだった。
もし毒が効かなかったら声を出すよう言っとったから、いないのは当たり前なんじゃけどね。
自分で答えつつ、ディルはとりあえず腰を気持ち真っ直ぐにする。
戦闘態勢を弛めた形だ。
その少し後ろで、シアは水筒に入れた水を飲んでいた。
随分と慣れたものだ。
ディルは気を抜いてるうちに、もしかしたら誰かが攻めてくるかもとか考えてしまう、心配性である。
だがどうやらシアは平然としている。
図太いというか、なんというか。
おじいちゃんとしては判断に困るところだった。
「これ、宝箱もう出とる?」
「いえ、基本宝箱が出るのは魔物が全て死んだあとなので。まだ息があるのも数体居ますし」
とりあえずそこから更に数分ほど待つと、モンスター部屋で生きていた最後のオーガの息が絶えた。
じっと見続けていたため、すぐにわかったのだ。
だが全ての魔物が死んでも、結局宝箱は出てこなかった。
「こんなものですよ。下に行けば行くほど、出やすくなります。気落ちせずに行きましょう」
シアの言葉に頷くディル。
彼の初めてのモンスター部屋は、どういうものなのかを理解しただけのチュートリアル的な戦いで終わった。
きっと本当の意味でモンスター部屋の恐ろしさを味わうのは、イナリの毒の効きが悪くなってからになるだろう。
気を引き締め直し、三人で第六階層の地図を埋めていく。
そして二日ほどかけてから、第七階層へ足を踏み入れた。
第七階層に出てくる魔物は、ポイズンリザード。
ディルはイナリの毒が効かぬ、新たな階層へ辿り着いたのだ。




