がっつり
ディード達からはとりあえずの持ち合わせということで、幾つかの魔石を譲り受けた。
歩いている途中で女性の方は意識を取り戻したので、実際途中から護衛するのもあまり大変ではなかった。
ディル達は誰一人欠けることなく転移水晶までたどり着き、今日の探索を終えることにした。
「今日は助かった! 何かあれば、力になるぜ!」
「ありがとう、本当に」
意識を失っていた彼女の名は、セリアというらしい。
セリアとディード、そしてポーションを使わずにいた女魔法使いのメリアの三人でパーティーを組んでいるようだった。
彼らは主に、第五階層をメインの探索層にしていて、オーガの魔石を手に入れて生計を立てているらしい。
恐らく彼らと一緒に冒険をすることはもうないだろうが、そこは旅のというか、冒険の情けというやつである。
ディル達はディード達と別れてから、洞穴を抜けてサガンの街へと戻る。
今日は少し早めに探索を終えたので、まだ空の色は明るい。
「今日もお疲れさまでした」
「また明日もよろしくの」
軽く挨拶を交わし、シアと別れる。
彼女は迷宮探索が終わると、すぐに二人と別れてどこかへ行ってしまう。
ビジネスライクというか、仕事を仕事と割り切っているタイプなのだろう。
いつまで続くパーティーなのかもわからないし、今度機会があれば飲みにでも誘おう。
めちゃくちゃ酒には弱いにもかかわらず、ディルは無謀にも飲み会を開く決意を固めた。
「じゃあ、また後で」
「了解じゃ」
イナリもまた、特にどこへ行くとも言わずにさっさとどこかへ行ってしまう。
これもまた、迷宮探索を始めてからの彼女の生活様式である。
泊まる宿も部屋も同じなのだから、放っておいても互いに捕捉できないということはあり得ない。
それならば自分も彼女も、好きなように行動すべきである。
お小遣いもしっかりと渡しているし、下手なこともしないだろう。
ディルはとりあえず、イナリから渡された袋を持って魔道具店へと向かうことにした。
迷宮の魔物は、魔石と呼ばれる結晶を持っている。
魔石は魔道具と呼ばれるものを使うのに用いられるために、いつだって需要が供給を上回っている。
火を起こしたり、水を出したりといった生活に必要なものもあれば、物を冷蔵したり加熱して調理したりするものもある。
魔道具というのには二種類ある。
魔道技師と呼ばれる技術者が作るものと、迷宮から出土する古代由来のものである。
どちらかといえば後者の方が性能がいいらしいが、現在一般市民が使う火起こしの魔道具等のポピュラーな魔道具達は、魔道技師達の汗と努力の結晶だ。
魔石には、しっかりとした使い道がある。だからこそ冒険者という職種は、しっかりと魔石が取れるのなら、やっていける職なのである。
魔石の大きさや等級は魔物の強さにより区々で、正確に分類するのなら色々な区分けが存在しているらしい。
だがディルは、買い取り価格以外のそういった知識は、あまり気にしないようにしていた
年を取れば物覚えも悪くなるし、昔のこと以外は何を言われてもすぐに忘れてしまう。
基本的に魔石の買い取り価格はほとんど同じらしいので、ディルは魔道具を取り扱う店舗の中で、最も売り上げがしょっぱそうな店に魔石を下ろすようにしていた。
潰れそうな店に、少しでも貢献ができたら。
ディルがそんな風に思っているとは知らずに、このダンナー魔道具店の店主は、今日もぶっきらぼうな接客をしてくるのだった。
「らっしゃい」
「買い取りを」
「おうともよ」
今日は調子が良かったね!
明日も頑張ってくれよ!
そんなおためごかしなど一切言わぬ、事務的なだけのやりとり。
魔石の価値を測定している間も、この店主のダンナーは一言も話さない。
鑑定が終わると、終わったとだけ伝えて金を渡してきて、おしまいだ。
これだけ愛想がなければ、そりゃあ冒険者達は寄りつかないだろう。
色々な規定があるせいで魔石の買い取り価格はどこでも一緒だ。
それならば少しでも売って気分が良いところに行こうと考えるのが人情というやつだろう。
だがディルは、それでもこの店を選び続ける。
こういった職人気質の世渡りの下手な人間が、おじいちゃんは大好きなのである。
「終わった」
「そうかい、また来るよ」
「おう」
渡された袋には、金貨が四枚と銀貨と銅貨が数枚ずつ入っていた。
シアに支払う金や消耗品のことを考えても、十分ペイができている勘定だ。
もう何回か探索をして、更にお金の余裕ができたなら。
この店の魔道具の一つでも、買ってやろうかの。
ディルはその時ダンナーがどんな顔をするだろうか、と少しだけ愉快な気分になった。
だがすぐに買っても絶対今のままだと気付き、上がった気分がフラットに戻った。
明日からもまた頑張ろう。
夕暮れに染まり始めた空の下で、ディルは明日への鋭気を養うべく、がっつりとした夕食を食べに行くことにした。
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