ポーション
迷宮での冒険を生業とする者達には、幾つかの不文律のようなものがある。
例えば、魔物を倒して得た素材は、討伐した者に所有権が渡るといった暗黙のルールが存在している。
その中で最も有名なものに、冒険は自己責任というものがある。
迷宮は一つ間違えれば命がなくなるような、危険極まりない場所だ。
罠は様々なところに仕掛けられているし、一階層移動すれば出てくる魔物は変わる。
命の価値が軽い迷宮において、全ての責任はその冒険者自身に帰結する。
もし死んだとしても、それは冒険者自身の危機管理能力がなかっただけ。
死ぬそいつが悪いのだ、と基本的に人を助ける冒険者は存在しない。
ごく僅かな、奇特な例を除けば。
「先に行く、ジジイはゆっくりでいい!」
イナリはそう言い残すと、ディルを抜き、その前にいたシアを抜いて、ぐんぐんと声のする方へと近づいていった。
その速度は、今までディルが見たどんな走行よりも早く見える。
もしかするとあれがスキルを使用した、彼女の全力疾走なのかもしれない。
距離を引き離されるイナリの背中を、ディルはじっと見つめる。
だが、あの声を聞いたまま止まっていることは、ディルにはできなかった。
彼はスキル見切りを使用しながら、前へ前へと進んでいく。
必死に走り出したシアを抜いてからしばらく経つと、ようやくイナリ達の姿が見えてくる。
そこには既に動きの鈍くなっているオーガ達と、声を発したであろう人間達の姿があった。 一人の男と、二人の女は、満身創痍であるように見受けられる。
男の方は劣勢だったせいか、既に右腕があらぬ方向へと曲がってしまっている。
女のうちの片方は地面に倒れており、もう一人の方は比較的元気なように見えた。
イナリはなんでもなさそうな顔をしながら、オーガの動きが鈍くなるのを待ってから、着実にトドメをさしていく。
ディルがオーガ達の元へとたどり着いた時には、既に戦闘は終わりかけていた。
彼にできたのは死に体のオーガにトドメをさすことくらいなものだった。
「遅かったな」
「いや、わし、これでも全力…………」
迷宮に入ってからで考えると、今が一番疲労している。
見切りを連続で使用すると、そのしわ寄せがあとになってからやってくる。
ディルは既にグロッキー気味ではあったが、向き直り怪我をしている男達の方へと歩き出す。
うめき声を上げている男の目は、少し血走っている。
自分達がやられたことに、思ったところがあるのかもしれない。
「大丈夫かの?」
「…………ああ、助かった。オーガの魔石はあんた達のもんだ。俺たちに分け前はいらない」
元々が何かを期待して助けたわけでもない。
ディルは彼の言葉に頷いて、了承の意を示してやる。
ディードと名乗った男は、ディルに感謝の意を示すと、急いで倒れ込んだ女の方へと歩いていった。
何をするのかと思って見ていると、彼は一つの器を取り出した。
チャプチャプという音から察するに、中には液体が入っている。
もしかすると、あれがポーションなのかもしれない。
実際に服用をしているのを見るのは初めてだ。
報酬はもらったが、これくらいは見ていても構わないだろう。
ディルは男が女の口へとポーションを運んでいる様子を、真剣に観察し始めた……。
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