在りし日の
「ふっ」
ディルがオーガの一撃を、身体を少し後ろにそらすことで避ける。
オーガはオツムは相当に弱いが、その戦闘能力はゴブリンやリザードマン達と比べるとずいぶんと高い。
攻撃を避けてから、ディルが二歩ほど前に進む。
オーガは自分と相手の距離を考えてから、棍棒の持ち手をずらし、軽く振れるように調整しているようだった。
オーガが棍棒を石突のように、突き出してくる。
ディルがそれを避け、オーガの胸部を浅く切り裂いた。
そして無理して足や急所を狙おうとはせず、そのまま後ろへと引いていく。
「ギャッ!?」
オーガが目の前にいるディルへ追撃を仕掛けようとするのに合わせて、後ろに伏せていたイナリが足目掛けて一撃を加える。
それに合わせて、ディルは再度前進、注意が後ろに向いているオーガの背中に一撃を入れる。
「グッギャッ!」
ディルに手痛い一撃を食らい、オーガが再び彼の方を向く。
すると今度は、オーガを挟撃している形になる二人の間を縫うように、火の槍が飛び出してきた。
火の槍はオーガの腹部、割れている腹筋へと突き立った。
ジュッと音が鳴り、肉が焼ける香ばしい匂いが漂ってくる。
腹部に火傷を負い動きが鈍くなってきたオーガに対して、二人で攻撃を入れ続ける。
オーガは知能がそこまで高くはなく、イナリとディルから離れて一対一の状況を作ろう、と考えたりすることはない。
故にディルとイナリが二人がかりで削っていくことで、問題なく倒すことができた。
イナリに魔石の回収をお願いしながら、ディルは休憩する。
「凄いのぅ、魔法というのは」
「あまり量が出せるものではありません。威力も刀剣などと比べると、一段劣りますし」
先ほどオーガに痛打を与えたとは思えぬほど、シアの言葉は謙虚だった。
近寄らずに攻撃できるんだから、近距離攻撃よりもずっと有用じゃろう。
ディルとして正しておきたかったが、まだお互いそこまでの信頼があるわけでもないので黙っておいた。
イナリも時折使うことがあるが、こういったしっかりと魔法といった感じの魔法を見ると、改めてその有用さを感じさせる。
火の攻撃を食らい、火傷をしないモンスターは少ない。
一度火傷を負えば、痛みは断続的に続くし、集中力だって途切れるようになる。
そんな攻撃を一方的に、相手からの攻撃が届かないばしょから放つことができる。
ディルは自分に魔法の才能がないのを、少しだけ悔しく思った。
彼はまだ若かった頃、魔法使いになりたいという夢を持っていたことがある。
だが魔力量を調べることのできる水晶とやらに手をかざし、自分の魔力がとても魔法を使えるほどの量がないことを知らされ、夢は諦めることになった。
今となっては懐かしさすら感じる、おじいちゃんのほろ苦い思い出の一ページである。
「どうかしましたか……?」
「いや……そういえば、シアさんはその魔法、何回くらい使えるんじゃ?」
「そうですね、まぁ十回くらい、と言っておきます。休憩を挟めば、もっといけますけど」
ディルはこの後、シアがトイレ休憩をしているうちに、魔法使いに対して保有魔力量を直接尋ねるのはマナー違反だということを聞かされた。
シアが帰ってきてから、ディルが平謝りをしたことは、言うまでもないことだろう。
オーガを相手に連携を確認しおえてからは、イナリの毒を使って攻略を進めていった。
それは軽く夕食を食べ、このまま第六階層への転移水晶へ行くかどうか相談していた時のことだった。
イナリのマッピングもかなりの広範囲に行われ、このまま問題なく転移水晶に向かい、今日の探索は終わりにしようかと話をしていた三人の耳に、叫び声が聞こえてきたのだ。
「だ、誰か、助けてくれ!!」
三人はどうするかと、サッと目を合わせた。
そして小さく頷き合うと、声のする方へと駆けていった。
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