証
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転移水晶には、大きく分けると三つの種類がある。
元居た場所へ帰るためのものと、元居た場所に帰るか新しい階層へ行くか選べるもの、そして握っても何の意味もないものの三種類だ。
第零階層から転移してきた時に、握っていた水晶は、一度離してから再度握れば、第零階層へ戻ることが可能となっている。
ただ、あくまでもできるのは戻ることだけであり、その水晶から直に他の階層へと行くことはできない。
もしそうしたいのなら、一度第零階層へ戻り、再度そこから転移する必要がある。
そして二つ目の新しい階層へ行くか元の階層へ戻るかを選べる水晶。
その特徴は、第零階層のものと同じように、赤く光っていることである。
赤い水晶を握り、証と唱えると、その階層に到達したという証明がなされたことになる。
そして次回の第零階層での転移からは、新たに証を唱えた場所よりも、一つ下の階層を転移対象に選択することができるようになる。
そして三つ目は、握っても何も起こらないものだ。
これは自分達が第零階層から飛んできた以外の、青い転移水晶のことを指す。
どういう仕組みなのかはわからないが、自分達が転移した水晶以外の青い転移水晶は、転移を行うことができないのである。
ちなみに、第零階層から転移する場合は、ランダムでどこかの青い転移水晶へと飛ばされる。
ディルとイナリは幾つか青い転移水晶を見つけ、落胆しながらも進んだのだが、次に第一階層に来る時のヒントになるため、場所はしっかりと覚えておくことにした。
彼らは今、赤い転移水晶の前へと立っていた。
赤い転移水晶は、まるで大樹の切り株のような形の広場の中心部にぽつんと立っている。
この周囲の空間にも、実は意味がある。
迷宮には、安全区域と呼ばれる場所が存在する。
そこは魔物が決して現れず、安心して休める不思議な空間なのだ。
その場所こそが、この転移水晶周辺の広場なのである。
「誰も人がおらんの」
「わざわざここで休もうとしないんだろ。普通に帰って宿で休むつもりなんじゃないか?」
ディル達が調べたところによると、迷宮に潜る冒険者達の長時間休む場合は、二つの選択肢があるようだった。
まず一つ目は、転移水晶周辺の安全区域で、休みを取るパターン。
そしてもう一つは、第零階層へ転移し、迷宮から出てのびのびと羽根を休めるという選択だ。
どちらかを選ぶのは、パーティーによってまちまちらしい。
ディルはかなり疲れていたので、とりあえず安全区域で一休みすることにした。
周囲に人もいないので、警戒する必要もないのはありがたかった。
「どうするんだ、このまま第二階層へ行くのか?」
「それは避けたいかのぅ。第二階層に出てくるジャイアントスパイダーは、毒が効かんことで有名らしいし」
第二階層に出てくる魔物のジャイアントスパイダーには、毒が効かない。
つまりこの階層のように、イナリが無双することはほぼ不可能に近いということだ。
ということは、ディルの戦闘での負担が大きくなるということでもある。
疲れているこの状況で、第二階層へ行くのは、ディルにはとても危険に思えた。
「じゃあ今日は休んで明日から行けばいいか。だがどうするんだ? 私の毒なしで進むとなると、お前の体力が持たなそうだが」
イナリの懸念は、ディルも気にしているところだった。
ディルは自分達がパーティーを組むのは、難しいと考えている。
彼の腹案では、ある程度の深い階層まで二人で進み、証を進めてから、同じ階層に挑む仲間を募るつもりだったのだ。
だがディルは、自分が思っていたよりも体力がなかった。
冒険者生活をして少しは体力をつけたつもりだったが、所詮は六十歳の付け焼き刃でしかなかったようだ。
迷宮の探索というのは、冒険者ギルドで受ける依頼とは、また別の緊張感がある。
もしかしたら罠にかかるかもという不安。
閉塞的な場所に長い時間居続けることによる、妙な圧迫感。
そういったものが積もり積もって、ディルの体力をガリガリと削ってしまったらしい。
このままだと、二人で奥深くの階層へ行くことは、かなり厳しいと言わざるをえなかった。
ディルは少し悩んでから、イナリに対し、自分の考えを伝える。
「早速前言を翻すようじゃけど、明日からは仲間を募ってもいいかの? わし、疲れてぽっくり逝ってしまいそうで」
「確かに、二人で進むのは厳しそうだな。だが、まともな奴らが、私たちと組んでくれるか……」
臨時で組む冒険者パーティーには、問題もつきまとう。
報酬の問題や、裏切りなど、色々なことについて考えておかなければならないからだ。
とりあえずその辺りを、一度地上に出てから決めることにしよう。
ディルとイナリは互いに納得しあうと、立ち上がった。
相変わらず、周囲に人影はない。
特に並ぶこともなく、二人は転移水晶を握った。
まず証と唱えると、頭の中に第二階層か第零階層かどちらかを選ぶようにという指示が浮かんできた。
二人はもちろん第零階層を、頭の中に思い浮かべる。
そして同時に合言葉を口にして、第零階層へと戻っていった。
この日の二人の迷宮探索は、成功とも失敗とも言いがたい微妙なものだった。
ただ、得たものも、経験してわかったことも多い。
明日からは、今日の経験をしっかりと活かしていこう。
ディルはそう心に決めて、迷宮探検の初日を終えた。
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