表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
わしジジイ、齢六十を超えてから自らの天賦の才に気付く  作者: しんこせい(『引きこもり』第2巻8/25発売!!)


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

77/228

第二階層へ

42位まで上がることができました!

ということで、更新です!



 サガン迷宮の第一階層に出てくる魔物は、ゴブリンとノールのみというのは、調べるとすぐにわかったことだった。


 だがディルは、今までにノールという魔物と戦ったことはない。

 ゴブリンならば何度も相手をしたことがあったが、ノールという魔物が一体どのようなものなのか、というのはあくまでも伝聞でしか聞いたことがなかった。



 ディル自身、おっかなびっくりで戦うことになったのだが、結果だけを言うのなら、それほど困難な相手ではなかった。

 ノールは、要はゴブリンに似通った魔物である。

 ゴブリンよりも身体が一回り大きく、紫色の皮膚をしていて、錆びた鉄製の武器を使う。


 違いはそれくらいなもので、知能も似たようなものだった。

 群れを形成していても、連携などというものはまるでない。

 精々が一緒に攻撃を仕掛けてくるくらいで、後ろから遠距離攻撃で援護をしてくるような個体などはいなかった。



 盗賊の方がもっと狡猾に戦うし、サイクロプスの方が戦っていてキツかった。

 以前の経験から考えると、ゴブリンもノールも、ディルにとってそう大した敵とは思えなかったのだ。

 ディルにとって一番の敵は、むしろ自分自身と言っていい。





「ここに落とし穴がある。避けていくぞ」

「わ、わかった……」

「……」





 この迷宮の第一階層には、落とし穴の罠が存在している。

 その深さは人間の背よりも深く、鋭利な鉄杭が敷き詰められているせいで、一度嵌まれば怪我をすることは免れない。

 鉄杭は迷宮の不思議な力で抜いたりすることはできないため、罠に嵌まる意味はほとんどないと言ってよかった。



 冒険者達は通常、自分達が歩く場所に槍や剣を当てて、感触を頼りに罠を発見する。

 そのために迷宮を進むスピード自体は、非常にゆったりとしたものになる。

 だがイナリは、罠を探知できる魔法持ちである。

 彼女のおかげで、行進するスピードは普通では考えられないほどに速かった。



 おまけに罠の大きさも把握できるらしく、ディルはイナリの後をついていくだけで、罠にかからずに済んでいた。




「……ふぅ」




 落とし穴の脇を通り過ぎ、ディルは安堵しながら歩く速度を上げる。



 迷宮行自体は、非常に順調だ。


 だが順調過ぎるがゆえに、ディルには厳しいところがあった。

 主に体力の面での問題である。

 ディルには若者のような、昼夜ぶっ続けで迷宮を巡れるだけの体力はないのである。


 適宜休みを入れない限り、肉体のパフォーマンスを維持するのは難しかった。





「少し休むか」

「……すまんね」




 イナリは罠が周囲にないかどうかを確認してから、地べたへと座った。

 ディルも、彼女に倣い胡座で地面に座る。

 休憩自体も、既に二回目だった。





(これは……わしが全部の戦いを引き受けるというのは、厳しいかもしれんの)




 戦闘面に関しては、自分一人でなんとかできるという自信が、ディルにはあった。

 だが、やはり体力的な問題は、どうしてもつきまとう。

 ディルは、六十を超えたジジイが迷宮に入ろうとするのを馬鹿にする、冒険者達の気持ちがわかるような気がした。





 だが別に、うちひしがれたりはしない。

 そもそも命を削り夢を追うような冒険者稼業を、老い先短いジジイがするのが厳しいなどということは、とうにわかっているからだ。





「イナリ、疲れとらんか?」

「その言葉、そっくりそのまま返すぞ。次からは、私も戦おう」

「でもそれだと……」

「流石に進むのが遅すぎる。こんなペースで休憩を挟んでいては、まともに迷宮探索もできん。戦闘の負担さえなければ、もう少し頑張れるだろう?」

「それは……もちろん」




 今はイナリもいる。

 戦闘時の負担が半分になれば、休憩の頻度ももっと少なくて済むだろう。



 ディルは少しだけ意地を張って、すぐに休憩を終えることにした。

 おじいちゃんであろうと男なのだ、舐められてばかりではいられないのである。


 二人は立ち上がると、再び洞穴を進み始めた。









 戦闘を二人でするようになると、ディルの負担は大きく減ることとなった。

 というか、ディルはほとんど何もしなくてもよくなってしまった。

 その原因は、イナリが使う毒にあった。





「今そっち側に行くなよ。こいつを吸われると、解毒するのが面倒だからな」





 ディルに背中を向けているイナリの向こう側には、地面でもがき苦しんでいる六体のノールの姿がある。

 息も絶え絶えな様子で、既にまともに戦えそうな様子ではない。




 イナリは自身の体内にある毒を、自由自在に使いこなすことができる。

 その力を使った迷宮攻略は、楽勝と言ってしまってよかった。




 彼女は魔物を発見すると、それが風下なら、麻痺毒を吸引させて、動きが鈍くしてから殺す。

 そして、そうでない場合は、直接毒を口から噴き出して毒殺した。



 今はもう戦闘ごとにディルが前に出ることはないので、イナリは常に先頭に立っている。



 そのため、ディルが彼女に追い付いて戦闘に混ざろうとした時には、既に戦闘自体が終わるか、終わりかけているというパターンがほとんどだった。



 今もまた、ディルが追いついた時には、既にノール達は動くこともままならぬほどに弱ってしまっている。




 イナリは手で来るなとだけジェスチャーをしてから、動きの鈍いノール達を次々と殺していく。

 本当ならディルも手伝いたいのだが、撒いた毒がまだ散りきっていないため、それもできない。




 正直なところ、ディルの想像を遙かに超えて、イナリは有能だった。

 こと第一階層においては、彼女はほぼ無敵に近い。 





 だが、圧倒的な強さで魔物を倒していくイナリをそれを見ても、ディルは苦虫をかみつぶしたような顔をすることしか、できなかった。




 毒という彼女の持つ力は、その命を削って手に入れたものだ。

 その強さの代償を、彼女は己の命をという対価で支払っている。

 その事実をまざまざと見せつけられているようで、ディルの胸中は複雑だった。




 毒などなくともこれほど有能で、人のことを案じられる人間が、そう簡単に死んでいい道理などない。

 ディルは、今は彼女に頼ってでも、先へ進もうと思った。

 迷宮の奥深くにしか、可能性はないのだから。



「よし、行くぞ」

「了解じゃ」




 ディルは言われるがままに、イナリの後をついていく。

 少なくともこの第一階層において、ディルが戦闘をする必要はない。

 戦わないのならかなり体力も残るので、休憩なしでもかなり先まで進むことができるだろう。

 二人は戦闘とも言えぬ一方的な戦いをしながら、先へと進んでいった。




 マッピングをしたり、糸を継ぎ足したりしながらではあったが、イナリの罠感知と毒のおかげで、すさまじい速度で第一階層の地図を埋めることに成功するディル達。



 二人は夜ご飯を食べるよりも早く、第一階層に置かれている、次層へ行ける転移水晶へとたどり着いた。


読んでくださりありがとうございます!



【神虎からのお願い】


もしこの小説を読んで

「面白い」

「続き書いて、早く!」

と少しでも感じてくれたなら、↓の★★★★★を押してくれると、やる気が出ます!

お手数ではございますが、よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言]  ディルはに若者のように、昼夜ぶっ続けで迷宮を巡れるだけの体力はないの。 →ないのだ。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ