表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
わしジジイ、齢六十を超えてから自らの天賦の才に気付く  作者: しんこせい(『引きこもり』第2巻8/25発売!!)


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

75/228

転移水晶

日間70位まで上がることができました!

好評に応え、投稿いたします!


 ディルとイナリは丸一日かけて、衛兵や冒険者、薬師、食堂の店員等、色々な者達から情報を集めた。

 

 二人が情報収集にかけた時間は同じだったが、有益な情報を持ってくるのは、決まってイナリの方だった。


 ディルはイナリの優秀さを改めて実感しながら、彼女がもたらした情報を精査し、次の日に備えて買い物をしてから、宿で夜を明かした。







 そして翌日の朝、まだ冒険者達が寝ている早い時間から、二人は迷宮へと潜ることにした。 


 ディルにとっては初めての迷宮行であり、イナリにとっても、久方ぶりのダンジョン攻略となる。

 だからこそまず初日である今日は、第一階層で肩慣らしをしようと、二人は昨日のうちに決めていた。




 これは考えれば当たり前のことだが、迷宮で最も人通りが多いのは、第一階層である。

 だから最も人が少なくなる、早朝を選ぶことにした。



 このサガン迷宮は一階層あたりがかなり広く、冒険者同士がかち合う可能性は、それほど高くはないらしい。

 しかし万が一を考え、念を入れて早い時間を選んだのだ。





 そして潜るパーティーメンバーは、ディル、そしてイナリ。

 以上の二人である。


 仲間を入れることも、当然考えはした。

 しかしながら、二人は見た目の面から、非常に舐められやすい。



 六十越えのジジイと、明らかに子供にしか見えない女など、実力がわからなければまともに取り合う奴は少ないだろう。


 だから二人は、ある程度深くに潜るまでは、パーティーメンバーを追加しないことで、意見の一致をみたのだった。






 ディルはイナリの分も合わせて銀貨二枚を払い、迷宮へと入っていく。

 昨日話をさせてもらった衛兵に挨拶をして、中へと歩を進めた。


 迷宮がどのようなものなのか、話にしか聞いていないために、彼の内心はドキドキである。




 特に会話をすることもなく、奥へと進んでいく。


 すると前方に、人の列が見えた。

 その人数は二十人はいない程度、若干開いている距離から察するに、恐らく五つのパーティーが先客であるようだった。



 人気が少ない時間を選んだというのに、これだ。

 もし昼にでも来ていたら、もっと長い時間待たされていたことだろう。




 二人は一番後ろに並び、大人しく順番を待つことにした。

 ディルは目を凝らし、前方にいるパーティー達を観察しようとしたが、最近ひどくなっている老眼のせいで、まともに姿を捉えるのも難しかった。



「あそこに転移水晶がある。今、一番前のパーティーがそれを握っているところだ」

「……ありがとの」




 ディルが何をしようとしているのかを察し、イナリが状況を説明してくれる。

 相変わらずかゆいところに手が届くのう、とディルはしっかりと礼を言っておくことにした。




 転移水晶というのは、迷宮にしかない、特殊な水晶のことである。

 この水晶は、今ディル達が居る、いわゆる迷宮の第零階層から、各階層へと転移する際に使用できる、アーティファクトのようなものらしい。



 水晶の使い方は、非常に簡単だ。

 まず最初に、同行するパーティーのメンバー全員で、水晶を握る。

 その後、行きたい階層を頭に思い浮かべる。

 すると、水晶を握った者達の脳内に、合言葉が浮かび上がる。

 浮かんできたその言葉を、同時に発することで、転移を行う……ということらしい。

 ちなみに、行ったことのない階層に飛ぶことはできず。新たな階層へ飛べるようになるためには、ある特殊な行程を踏まなければならない。



「「「「ザンテフ!」」」」



 先頭にいた冒険者達が合言葉を叫ぶと、一瞬のうちに彼らの姿が消える。

 実際に目の当たりにしても、ディルにはどうも信じがたい光景に見えた。


「迷宮は、わかっていないことの方が多い。こういうものなのだと納得しろ」

「……そうじゃね」



 イナリが言うことも尤もである。 

 迷宮とは古代時代、つまり歴史が途絶えてしまった暗黒時代よりも更に前の文明が残した遺物の一つだ。

 まともに理解しようとすることなど、今の人間達には不可能なのだろう。


 魔物が勝手に湧いたり、武器やポーションが出たりするのだから、考えるだけ無駄なことはわかりきっている。



 とりあえず、迷宮では何が起きても驚かないようにしよう。

 ディルはそう、心に決めた。










「ほら、次は私たちの番だぞ」




 イナリに言われて、ディルは自分達が最前列に来ていることに気付いた。

 ここまで近づくと、流石の彼でも転移水晶をしっかりと見ることができる。




 その大きさは、ディルが持つ魔剣、黄泉還し(トータル・リコール)よりも小さかった。



 この水晶の小ささが、迷宮を大人数で攻略することが不可能な理由である。

 同時に転移するには水晶を同時に握る必要がある。

 水晶の大きさから考えると、恐らくは、十人を超えるパーティーを組むことは不可能だろう。




 転移水晶は色は血のように赤く、放つ光の強さが、刻々と変化している。

 ディルにはそれが、まるで脈動をしているように見えた。

 もしかしたら、迷宮という施設は、生きているのかもしれない。

 なんの根拠もなく、そんな風に思った。





「ほら、握れ」





 ディルはイナリに促されるがまま、転移水晶を握る。

 そして目を瞑る。

 すると本当に聞いていた通りに、頭の中に転移できる場所の候補が出てきた。

 選べる候補は第一階層だけだったが、恐らく踏破していく度に、選べる選択肢が増えていくのだろう。

 第一階層を選択すると、面白いことに頭に合言葉が浮かんでくる。

 次にすることは、イナリと声を揃えて、合言葉を叫ぶことだ。




「それじゃあ、行くぞ。3、2、1……」




 イナリがカウントダウンをする最中、思わず唾を飲み込む。

 自分は、これから迷宮に入るのだ。

 ディルは今、本当の意味で、それを理解した気がした。




「「ディングル!!」」




 そして二人の姿も、他の冒険者パーティー達と同様、一瞬にして消えた。

読んでくださりありがとうございます!



【神虎からのお願い】

もしこの小説を読んで

「面白い」

「続き書いて、早く!」

と少しでも感じてくれたなら、↓の★★★★★を押してくれると、やる気が出ます!

お手数ではございますが、よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 推敲 >ディルは目を凝らし、前方にいるパーティー達を観察しようとしたが、最近ひどくなっている老眼のせいで、まともに姿を捉えるのも難しかった。 ↓ ただの老眼は本など近くのものがぼやけるもの…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ