迷宮都市
日刊ランキング100位まで上がることができました!
あと少しで二桁なので、頑張ります!
ということで、投稿です!
ディルはウェッケナーへ、自分がやってしまったことを思い切りぶちまけた。
子爵、つまり貴族というのは、治める土地で起きたあらゆる物事に対する警察権や裁判権を持っている。
そんな人間に対し、下手に隠し事をしても意味がない。
自分がどう思い、どんな行動をしたのか。
ミルヒがどんな嫌がらせを受けており、ガルシアがどのような悪行を働いたのか。
その全てをあらいざらい、話してしまうことにしたのだ。
ウェッケナーがしっかりとしたアクションを起こしてくれれば、もし借りにディルにお咎めがあったとしても、マリル達家族の身は守られるはずだ。
それに先ほどまで話していた感触から、ウェッケナーという人間がいかにも貴族という感じの、傲慢な人間でないことはすぐにわかった。
そんな子爵ならば、そう悪いことにはならないだろうという打算もあって、ディルはところどころつっかえながらも、事情の全てを話しきったのだ。
ウェッケナーは明言することはしなかったが、数日もしないうちに何らかの形で決着を付けると約束してくれた。
それならばディルにできることは、子爵を信じ、待つことだけである。
ディルは自分達が迷宮都市サガンへと向かうことをウェッケナーへ伝え、しごき終えて帰ってきたイナリと一緒にヴェラの街を出ることにした。
イナリはなぜ、ディルが急にダンジョンへと入ろうとするのかを不思議がっていたので、自分のための若返りのアーティファクトを求めている、と彼は嘘をついた。
彼女は話を聞いても納得してはいない様子だったが、ディルはそれ以上何も言いはしなかった。
何も、全てを正直に話す必要はない。
変に期待させるくらいなら伝えない方がいいというのが、彼の持論だった。
二人は馬車を使い、ヴェラの東にある迷宮都市、サガンへと向かっていく。
幸いなことに、サガンまでそれほど時間はかからなかった。
ディルもイナリも冒険者として登録をしているために、街への通用門で足止めを食らうようなこともなく、スムーズに入ることもできた。
宿を探したりするのもいいが、どうせならまず最初に迷宮というものを体験しておきたい。
そう考えたディルは、イナリと自分の分の食料と、それを入れるためのリュックを購入し、迷宮へと歩き出した。
「槍使いは居ないか? こちら三人グループ、報酬は頭割りだ。入場税は各自自腹!」
「魔法使いを募集している。活躍にかかわらず、魔石のうちの1割を出す!」
迷宮の入り口と繋がっている入場ゲートの脇には、大量の人間がいた。
彼らは何かの条件を叫びながら、入場ゲートへ入ろうとする人間達へ、何かのアピールをしている。
それは今まで迷宮を見たこともないディルからすると、ひどく奇妙な光景だった。
「あんな勧誘に引っかかる奴が、いるのかのぅ? すっごく怪しく見えるんじゃが」
「いるさ。ダンジョンを攻略するには、どうしても人数が必要だ。大量のゴブリンやノールなんかを、少人数で相手取り続けるのは難しいしな」
「イナリは、入った経験があるのか?」
「何度かな。罠探知の魔法なんかは使えるし、敵が居る大体の場所もわかるぞ」
「めちゃくちゃ有能じゃね?」
「若者言葉を無理に使おうとするな。お前は私が疲れて魔法を使えなくなることがないよう、適宜魔物を殺してくれればそれでいい」
話を終えるとディルは早速迷宮に入ろうとしたが、さすがに下調べをしようと思い直した。
いくらなんでも裸一貫で突貫するには、危険すぎるように思えたからだ。
客引きをしている奴らは、ディルの目からすると随分とうさんくさく見えたが、彼らは何度もこの迷宮に潜っているはずである。
つまり自分からすれば、彼らは先達にあたるということ。
変な先入観は取り払おうと、ディルはイナリと一緒に、前衛職を募集しているらしいパーティーの所へと歩いていった。
「のぉ、少し聞きたいことがあるんじゃが……」
「ん、なんだ、パーティー希望の――――って、じいさんかよ。冷やかしは帰れ」
「わし達、今から迷宮に入るつもりなんじゃが、少し聞いておきたいことがあっての……」
今にもディルを突き飛ばそうとしている男の手を取り、その中にそっと1枚の銀貨を握らせた。
すると男は手のひらをそっと開き中身を確認してから、非常に饒舌に話をしてくれた。
なんとも現金なことだが、変に意固地になられるよりはずっといいと、ディルは質問をしていくことにした。
質問をしてわかったことをまとめると、以下のようになる。
・この迷宮は、地名そのままのサガン迷宮という
・迷宮には入場税があり、一回入るのに一人あたり銀貨1枚かかる
・基本的に迷宮の中で獲得したものは手に入れた者の所有物となるが、高価な物が出た場合は贅沢税と呼ばれる追加の税金を払う必要がある
・サガン迷宮の深さは全三十層となっており、出てくる魔物は各階層ごとに変わる
・ポーションやアーティファクトを手に入れたいのなら、二十階層よりも深い所へ潜る必要がある
・その他の特徴は、他のダンジョンと基本的には変わらない
・迷宮の魔物からは、魔石と呼ばれる魔力が結晶化した物体が取れる。無論ピンキリではあるが、ゴブリンの魔石でもはした金程度にはなるので、取っておいたほうがいい
これらはあくまでも基本的なものらしかったが、何もかもが初めてなディルからすると、驚くような情報ばかりであった。
中でもディルが重要だと感じたのは、二つだ。
まず一つ目は、イナリを助けられるような物を発見した場合、税金を支払わなくてはならないということ。
もし見つかったとするのなら、そのアーティファクトは恐らくかなりの高値になるだろう。見つかった時のために、アーティファクトの相場や税金の額などについて一度調べる必要がありそうだ。
そして二つ目は、ディルの目当てであるポーションやアーティファクトを手に入れるのなら、二十階層よりも深いところに潜らなくてはいけないということだった。
基本的に、ダンジョンというのは下に進めば進むほど難易度が高くなる、というのは有名な話だ。
とすれば二十階層以降は、その難易度もかなり高くなっているはずである。
攻略をするにはどれくらいの人手が必要で、どのような魔物が出てくるのか。
その辺りについても、色々と調べる必要がありそうだった。
ちなみにディルは魔石の採取はできる分だけでいいと考えていた。
それで動きが鈍って怪我をしては、本末転倒な気がしたからだ。
ディルは男から話を聞き終えて、特に何も考えずに迷宮に入らなくてよかった、と心底安堵した。
もし一生懸命に呼びかけている彼らのことを、変に怪しんだままだったら、自分とイナリが危険に陥っていた可能性は高い。
ディルは少し落ち着いて考え、そして自分が焦っていることに気付いた。
一刻も早く深くまで潜らなくては、という焦りがどこかにあったのだ。
考えを改めなくてはならない。
もちろん急ぐ必要はある。
だが急いで命を危険にさらすよりは、万全に準備を調えて、その上でできる最高速度で攻略をしていけばいい。
結果としてその方が、時間を短縮できるはずだ。
「というわけで、まずは情報収集じゃ」
「そうか、ならば私も働こう」
ディルは迷宮に入る予定を取りやめて、色々な人達から話を聞いて回ることを決めた。
それならまず話を聞くべきは、迷宮の入場を管理している衛兵達だろう。
そう考えたディルは、恐らく賄賂など受け取らないであろう彼らから、どうすれば話を聞くことができるだろうかと考えた。
そして思慮の結果、努めてにこやかに、衛兵達へと話しかけることにした。
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