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わしジジイ、齢六十を超えてから自らの天賦の才に気付く  作者: しんこせい(『引きこもり』第2巻8/25発売!!)


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 朝起きてお金を稼いで眠ることの繰り返し、そんな代わり映えのない毎日が続いていく。

 少々危険ではあっても健全な日々がどれほど素晴らしいものか、ディルはそんな風に考えながら今日も朝食を摂り終える。

 昨日の告白をしたあとも、イナリの態度は変わらないままだった。

 まるで彼女自身その運命を受け入れているかのような態度に少しだけ物申したい気分にもなったが、それはあくまでも彼女自身の問題だ。そこに何か口を出すことは、きっと本人からすると邪魔でしかないだろう。

 

 だがイナリの余命、というか残された命がそれほど長くないという話を聞くと、どうにも純粋に二人で狩りをしてのんびり生活をしようという気持ちにはなれなかった。


「ふぅ……」


 とりあえず別行動と言い一人冒険者ギルドへ向かうディル。

 イナリがどうするかは聞いていないから、もしかしたら鉢合わせすることはあるかもしれない。それならそれはアリだと考えながら、少しだけ気落ちしつつも冒険者ギルドへと向かう。

 まだまだお金に余裕があるとはいえ、小心者なおじいちゃんの気質が日々を怠惰に過ごすことを許さない。


 どうせなら今日もまたスライム狩りでもしようかのと少しだけ重い分厚い扉を開いてギルドへと入っていく。

 

「あ、ディルさん。おはようございます」

「おはよう、ミース」


入ると受け付けで座っていたミースがすぐに挨拶をしてくれるが、他の冒険者達も特に怒り出したり嫉妬の炎で燃え尽きたりはしない。


 こういうときにジジイなのは便利じゃ、ああわし年取ってて良かった。

 

 要らない嫉妬を買わない程度にディルはジジイである、この年齢差だと恋愛関係だと邪推されるようなこともない。


 スライムを狩るならわざわざギルドに来る必要はないのだが、そこは人情というやつでディルとしてもミースに挨拶くらいはしておいた方が気分がいい。

 時間に余裕がないわけではないのだし、情報収集の意味もかねて挨拶をすることは決して間違ったことではないとディルは考えている。

 

「あのですね、ディルさん」


 おじいちゃんは目の前にいるミースの嬉しそうな顔を見て、自分がしていることが間違ってはいなかったのと実感する。

 彼女がディルに嬉しそうな顔をするときはあまりいいことがあった試しはないが、何かイベントが起きる場合が多い。

 とりあえずぼうっとしているとイナリのことを考えてしまう今は、他のことを考える暇のないくらいに忙殺される方がいい。


「なんじゃね?」

「実はとある依頼が来てます。サイクロプス討伐で手柄を立てたディルさんに直々に」

「ほう……」


 思っていたよりも早いが、やはりそういうことだろうか。

 もし自分が考えている通りならば思っていたよりも随分フットワークが軽いということになりそうだ。


「ウェッケナー子爵がディルさんに会ってお礼をしたいとおっしゃっています。スライム討伐の功績ととあるお願いのために連絡を取りたいとのことです」

「内容はともかくとりあえずは受けよう、いつ会いに行けばいいんじゃ?」

「今の季節は三つ隣のヴェラの街にいるので、そこに行けばすぐにでもということです」

「なるほど……」


 自分がかねてから会いたいと考えていたこのギアンの街を治める領主のウェッケナー子爵。

 自分の後ろ楯となってくれるかもしれない相手であり、自分が未だ日々の生活費を稼ぐのにいっぱいいっぱいだった頃に買い取り価格を落とさずにスライムの核を買い取ってくれていた相手でもある。


(どうせならイナリも連れて……いや、今回は一人で行こう)


 今、ディルの脳内は二つのことで占められている。

 自分と関わりのある人達に魔の手が迫ってくることはないか、そしてイナリをなんとかすることはできないか。

 前者は、ウェッケナー子爵との交渉如何でどうにかできるだろう。

 そしてもしかすれば……後者も、なんとかなるのではないだろうか。長生きには目がないと噂の貴族であれば、彼女をなんとかするための手段の一つや二つは知っているかもしれない。

 できればイナリがいない状態で、彼女が文句をつけてくる前に問題解決の糸口を掴んでしまいたい。

 ディルは基本的に相手のことを慮かり、相手の態度を尊重する。

 だがこと命となれば、少しばかり話は変わる。

 彼女が死にたいと考えているのなら話は別だが、少なくとも自分から死を望んでいるような態度を取っているようには思えない。

 それならば問答無用で解毒薬なりなんなりを用意して、多少強引に問題を解決してやればいい。

 彼女が抱えている問題の一端に違いないその寿命の問題をなんとかするのは、主である自分の義務だ。

 都合良く自分の立場を変えたり利用したりするおじいちゃん、その辺りは流石にしたたかである。


 ディルは何か言われたら個人的な任務で出掛けたとイナリに伝えるよう言ってくれといいながら、急ぎ馬車を確保するために停留所目掛けて走り出した。さっきまでとは比べ物にならないほどの健脚を、全力で発揮させながら。

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