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わしジジイ、齢六十を超えてから自らの天賦の才に気付く  作者: しんこせい(『引きこもり』第2巻8/25発売!!)


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開始

「……ふぅ……」


 季節が夏になり、暑さはまだまだ増していく。

 最近何度も乗っているはずにもかかわらず一向になれない馬車の中で、ディルは小さくため息をこぼしていた。


「おいおいじいさん、これから試験だってのにずいぶん弱気じゃねぇか。暑さにやられちまったか?」

「いや、まぁそういう訳じゃないんじゃけどね……」


 だがグスラムの不快なジメジメ気候になれているディルからすれば、ずいぶんと過ごしやすいなぁというくらいにしか思えない。

 彼が少しばかり不安に思っているのはこれからの依頼、隊商の護衛についての問題である。

 

 ディルは早速、Cランクの昇格試験を受けることにした。

 今回は盗賊の討伐依頼ではなく、隊商を護衛しながらこの近隣に出没するらしい盗賊を殺すことが試験の内容である。

 試験を受けるのはディルを含めて三人、それに監視と観察のためにギルド側から雇われている先輩冒険者が一人の合計四人でパーティーを組み依頼を受けたという形になっている。

 試験という名目のために依頼料は無料で、付き添いのギルドから依頼された実力のある冒険者もついてくるということもあって依頼人の商人さんもこれを快諾、ディルがイナリに話をする前に試験がすぐに始まることとなったのである。

 近場から幾つかの街を往復するために護衛を行う日数は合計で一週間程度になるらしい。

 その一週間のうちに盗賊が出れば、その瞬間からCランク昇格試験が開始ということになっている。

 今はギアンの街を抜けて隣のゼノの街を越え、もう一つ東にあるラールの街へ向かっている最中である。

 日程としては二日目、時刻としては真っ昼間。

 おじいちゃんは基本的に睡眠時間が短くなりがちなので、昨日の夜番の疲れはそれほどのものではない。だが他の二人は流石に若いからか、深夜起きていたせいで少々眠そうな様子だった。


「まぁまぁそう剣呑にならずに、お互い試験が始まるまではリラックスした方がいいですよ」

「……それもそうか、俺もちっとばかし気が立ってたみたいだ。これじゃあ他人のことは笑えん」


 とりあえず自己紹介だけは済ませていたので、互いの名前と戦い方は把握している。

 先ほど突っかかってきたのは斧使いのギル、そして今それをたしなめたのが優男な剣士のハン。

 ギルは筋骨粒々の大男で、実際に並んでみるとディルが小人のように見えるほどサイズ感がおかしい。

 ハンは何故か装備が金ぴかで、少々趣味が悪そうな男だ。

 だが基本的に粗っぽいギルと少しテンションの低いディルの間を取り持ってくれているあたり、人となりは悪くはなさそうである。


「……」


 そして向かいに座って黙ったまま目を瞑っているのが監視役のガスパである。

 彼はコミュニケーションをする気がないようで、ディル達が何か話をしていても一向に混ざってくる気配がない。ずっと黙ったまま目を閉じているのは監視役としてはちょっとどうなのだろうとは思わないでもなかった。だが触らぬ神に祟りなし、ディルは彼から会話をしてっこない限りは関わりを持たないよう気を付けることにしていた。


「すまんの、盗賊討伐をするのは初めてなもんで」

「まぁ俺も三回目だし、似たようなもんだ。気にするな、案外なんとかなるもんだ」

「僕は結構やってますね、溜め込んでいる財宝をもらえるのが結構おいしいんで」


 流石にCランクに上がる冒険者ともなると、最低限度の礼儀作法の心得はあるらしく、既に馬車の旅が一日ほど経過している今でも仲が険悪になるような状況に陥ったことは一度もなかった。

 道中あまりテンションが高くないのは自分の個人的な原因によるものなので、今回はおじいちゃんにも非がある。

 二人は互いに謝り、仲直りの印として握手をした。

 子供っぽいと思うかもしれないが、礼儀というものを重要視する冒険者としては案外普通のことだったりする。                                 


 三人の仲はそれほど悪くない、即席パーティーとしては及第点だとディルには思えた。

 強いて問題をあげればこの中に遠距離攻撃の手段を持つ人間がいないことだろうが、そこに関しては事前にガスパからその対処は行うという旨の発言を聞かされている。ついでに言うと索敵も彼任せなので、ディル達には現状ほとんどすることがない。

 現状は、言ってしまえば盗賊達がやって来るのを待っている状態だった。 

 

「にしても、話ではここら辺で来るという話じゃったが……」                        

「そうだなぁ、確かにさっさと終わらせないと持ち金がちっとばかし……」


 ギルが言葉を言い切る前にガスパの目が開かれた。

 それが何を意味するのかわからぬ三人ではない。

 無駄話は終わり、沈黙が馬車の中を満たす。



「向こう数百歩ほどの位置に盗賊がいる。数は七で弓持ちは二。弓持ちは俺が殺す、お前達は残り五人をやれ。現況よりCランク昇格試験を開始する」


 ガスパの声が途切れるのと同時、三人は馬車を飛び出した。

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