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わしジジイ、齢六十を超えてから自らの天賦の才に気付く  作者: しんこせい(『引きこもり』第2巻8/25発売!!)


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用途

 彼女を見た貴族達の反応は、それほど良くなかった。

 性奴隷として使うには、その瞳は剣呑に過ぎる。行為でも強要しようものなら即座に命を取られかねない、そう感じてしまうほどに鋭いナイフのような気配を漂わせた少女だった。

 年は十は超えているが、恐らく成人の十五才まではいっていない。

 閨を共にするには年齢が幼すぎるということも、彼らの反応を鈍らせる一因となっていた。


「…………」


 一度生じた沈黙が、誰かが口を開くことを暗黙のうちに咎める。

 皆がちらと向くのは、最初に声を上げこの静けさを生み出した一人の老人の姿である。


「……」


 老人の表情は手を上げたその瞬間から一変していた。

 その顔に張り付いているのは厭らしい笑み、何も言葉にせずともその奴隷の将来を暗示させる暗くうすら寒い表情だった。

 

 ここにはグスラムの内外を問わず、周辺の著名人やあるいはその知古が揃っている。

 幼い少女を愛でそれを育むような人間達がおもむろに手を上げないのは、そんなことをすれば次の日から自分の肩身が狭くなることなどわかりきっているからだ。

 もし誰も入札がなければ自分がその場の尻拭いをするような形で落札してしまおう。いきなり参加してきた老人が真っ先に手を挙げたことで、そんな風に考えていた一部の好事家達は二の足を踏んでしまうような形ができていた。


 ここで自分も競売に参加すれば、そういった風聞がついて回ることは避けられない。

 所詮薄汚い獣人の亜人ごときのために、そこまでのリスクを負う必要はないだろう。

 考えが保身の方向へと帰結した所謂性奴隷目的の人間達は、まず入札することを諦めた。


「……さぁ金貨百枚が出ました、他に入札者はいませんか?」


 明らかに色事目的に使うことが見え見えの老人に、さしもの司会も若干引いている。

 だが流石にプロ、彼は沈黙を破るべく真っ先に口を開いた。

 なるべく平静を装いながら、落札の可能性があると目星をつけていた貴族達へ目を向ける。



 貴族にとって情報は命である。諜報戦が領地、ひいては国家の存亡のためには情報は何よりも必要なものである。

 そんな情報を、未だにほとんど他国へと漏らさずにいる鎖国国家ヤポン。その場所の特殊工作員であるシノビ。確かにそれが本当に有用なのなら、凄まじい価値があるだろう。


 だが……と彼らが声を上げようとしないのは、奴隷の少女の年齢があまりに幼すぎたためだ。

 通常暗殺者や密偵といったものは、予算をつけて何年もかけて育成するものである。

 その容姿の幼さや老いにより相手を欺き殺すというパターンも確かに存在はする。だがそういった場合、育成された暗殺者は大抵の場合下っ端の使い捨てなのだ。そういった者に重要な情報や後進のためのノウハウというものが受け継がれていることは滅多にないことである。

 その雰囲気から殺しに手慣れているであろうことは容易に想像ができた。

 ただそこには幼さが残っている、怒りを隠し主の首を掻き切ろうという意味での専門職としての心構えができていないのは明らかだ。


 ヤポンの奴隷は、滅多なことではこちらにやって来ることはない。ではそういった情報源として期待できるかといえば、それもまた難しい。そこでもまたその幼さが枷となる。

 あくまで重要な情報を渡さぬよう徹底しているヤポンの人間は、ある程度の知識教養があるものを決して奴隷として供出することはない。


 本来熟達している暗殺技術は、恐らく見た目による騙しに特化したどこでもある程度ノウハウの蓄積されている部分に限られる。情報を得られる可能性は皆無。

 そして加速のスキルは無限の速さと引き換えにその身体を壊すというデメリットがある。


 結果として彼女の価値は、決して高くない。

 少なくとも金貨百枚を使うのなら、その金で情報武官でも育成するなり奴隷を一から仕込むなりした方がよほど安上がりで済むだろう。

 そう考えた貴族達もまた、手を上げぬままそっと身を引いた。 


 冒険者達も能力もわからぬ少女を、使い潰し以外の用途で買う気は毛頭ない。


「いませんか? 他にはいませんか?」


 そしてその結果……


「それでは、金貨百枚にて落札です‼」


 ディルは若干肩透かしを食らいながらも、落札することに成功したのだった。

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