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わしジジイ、齢六十を超えてから自らの天賦の才に気付く  作者: しんこせい(『引きこもり』第2巻8/25発売!!)


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初手

 今回出品される奴隷の数は合わせると十を超える。その中でディルのお眼鏡に叶う、屋敷の警備をすり抜けたり裏の情報を集められそうに思える存在は三人。

 まず第三志望は、ひょろっとしなやかな体格を持つ元冒険者の男だった。

 何か特筆すべきスキルを持っていたり抜きん出た何かを持っているわけではないが、色々とできそうな男だと考え目星をつけたのである。

 だが小間使いとして使えても、実際密偵のようなことができるかどうかは微妙な所である。

 ディルとしては基本的に一度きりの付き合いになるのだし構わないと思っていたのだが、実際に彼の姿を見てその態度は改めざるを得なくなった。

 何かあれば、間違いなくあの男はガルシアの側につく。

 そう思えるくらいに、その瞳は欲と憎悪に濁っていた。

 自分の主であるというだけで、やつはわしを裏切るじゃろう。


 そう確信できたので、彼は入札に参加するのを止めて観戦に徹することにいした。

 とりあえず今回は金貨が想定以上にある、第二希望であってもある程度余裕は持てるだろう。


「それではno27.剛健のライオルは金貨50枚にて落札です‼」


 さっきの出品時と比べるとずいぶん近くなった声を聞きながら、ディルは思ってた通りだったらかなりまずかったのと内心で肝を冷やしていた。

 彼がほっと息を吐いている場所は、さきほどよりも一段高く、そして座り心地のよい豪奢な椅子の上である。

 おじいちゃんは出品を終えたために、今は貴族や冒険者達の混在している落札側の人間の側に立っていた。


 先ほどは細かくは見ていなかったが、この場所も中に入る前と同様に大きく分けて二つのグループに別れているようだった。

 冒険者グループと金持ちグループ、その両者が横に並ぶような形になっている。

 もちろんそこまで整然と並んでいるわけではないが、ある程度は固まっているのは見れば明らかだった。

 そしてディルは自分の願い通りに、冒険者側の席に座ることになった。

 後からの入場だったので案内に任せなければならなかったが、どうにかここでは運を掴んだ形である。


「……」

「……」


 どうやら金持ち達と冒険者は無言で張り合っているようで、商品の用意をするまでの間はピリッとした空気が流れる。 

 だがトリガーサイクロプスとの経験によりひりつきに慣れたディルは、笑みを崩すことなく待ち時間を過ごすことができた。



 商品が出ては、落札されていく。

 本当に必要なのかわからない昔の王のデスマスクから、超高級品の回復薬、明らかに尋常でない効果を宿している金色の剣等、色々な物が現れては誰かの手へと渡っていく。


 金貨数枚で落札される物もあったが、大抵の商品は超高価格での落札価格だった。

 あらゆる肉体欠損を治す回復薬が金貨五千枚超えで売れたのを見たときは、正直お金足りないじゃんと焦ったりもした。

 とりあえず自分に関係ない商品達が続いたので、比較的リラックスして周囲を眺めることができた。

 その中で明らかに釣り上げ目的で値段を上げている人間もいたし、本当に必要としてもいないものを熱狂により落として落胆している人間もいた。

 買うもん決めとくのが、秘訣なんじゃろうの。

 周囲を観察しながら時間が経つのを待っていると、とうとう彼が求めていたとある奴隷が壇上に上がる。


「ではno.51、隠れ里レンブのシノビ……イナリの登場です‼」


 第二希望よりも、第一希望が先に来おったわ。

 ディルは表情筋を必死に維持し、神経を総動員して自分が落札に本気であることを悟られまいとする。


 説明を流し聞きしながら、首輪を着けられた一人の少女に目をやる。

 キッとした鋭い眦、死してでも屈辱には紛れぬとそう訴えているしかつめらしい顔。

 短く切り揃えられた黒髪と、青と赤のオッドアイ。

 何より一番目につくのは、髪の間にピョコンと立っている猫のような耳だ。

 

「東の国はヤポンにある伝説のアサシン、シノビの一員である彼女は、特殊な訓練を受けておりその能力は折り紙つき‼ 加速と呼ばれる理論上無限に速度の上がるスキルを持っており、諜報員として以外にも使えることは疑いようがありません‼」


 正しくディルが求めていた逸材。

 情報戦や諜報戦ではまともに戦えない自分が有力者達とやり合うために、これ以上の人材はいないだろう。

 ディルは笑みを崩さぬまま、周囲の喧騒にそっと耳を傾けた。

 さて、大事なのはここからじゃ。

 ディルは自らの耳が捉えた情報を咀嚼して………浮かべていた笑みを変えぬまま素知らぬ顔を続ける。


 落札開始の合図を示す槌の音が、一帯に響き渡った。

 金貨五枚という価格から競札が開始するのと同時、彼は誰よりも速く手を上げる。

 そして良く通る声で、はっきりとこう口にした。



「金貨、百枚じゃ」

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― 新着の感想 ―
オークションで一番やっちゃいけない価格提示ですね。 最終的にどこまで上がるかよりも競わせるのが目的なので、これをやると一瞬驚きはあるけど盛り下がってしまう。
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