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わしジジイ、齢六十を超えてから自らの天賦の才に気付く  作者: しんこせい(『引きこもり』第2巻8/25発売!!)


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出品

 明らかに地声よりも大きな声を出す司会者の人間の勧めに従い、ディルは建物の中へと入っていった。

 恐らく拡声の魔道具なのだろうが、そんなものを持ってくるあたりかなり気合いが入っていそうな気配がある。

 中に入ると、室内の様子はディルのその予想を更に超えていた。

 

 天井から釣り下がっているシャンデリア、赤と青が複雑に混じり合ったステンドグラス、下に敷かれている毛羽立ち一つない真っ赤な絨毯。

 歩くことすら畏れ多くなりそうな場所で、ディルは係員の指示に従い出展者用の裏口へと向かう。

 行きがけに立食形式になっている食事処を視界に入れながら、おじいちゃんは唾を飲み込みただ黙々と歩いていく。


 もちろんそこにも手を抜いている様子はなく、裏にも軽食を摘まめる部分と休憩スペースは用意されていた。

 

 主な出品者が冒険者であるからか、流石に個人的な席を用意しているわけではなかった。


「それでは出品が近付いた際に連絡をしますので、それまではどうぞおくつろぎください」


 丁寧に礼をしてくる男と別れ、ディルはそわそわしながら適当に歩くことにした。

 

 他の冒険者達を見ていると、彼らの中に何人か自分よりも更に挙動不審になっている者がいた。

 自分よりも取り乱す人間をみると急に落ち着きを取り戻すあれで、ディルは大分心の平静を保てるようになってくる。


 ここは舞台裏になっていて、右側の方にステージがある。

 そこでは一際一目を引くような司会者の青年が、良く通る声で観衆達をあおっていた。


「金貨三十枚が出ました‼ これはもう決まりでしょうか⁉」

「三十一枚」

「三十一枚、三十一枚が出ました‼ 誰かいますか…………はい、九十七番様が金貨三十一枚で落札です‼」


 カンカンと槌を叩くと、示し合わせて際どい格好をした女性達が舞台へと飛び出していく。

 商品を渡すのが美人であれば、高い買い物であってもなんとなく得した気になる。古典的だが有効な手である。

 ディルは少し離れた場所で聞こえている喧騒をどこか他人事のように聞いていると、人の気配を感じる。

 敵意はなかったので何もしないでいると、背中側からポンポンと肩を叩かれる。


「ディル様、出品の用意が調いました。控え席にどうぞ」

「了解じゃ」


 自分がどこに行くかはよくわかっていた。

 舞台の袖にある、暗いカーテンの向かい側。

 向こう側からは見えぬように光量の調節された場所で、皆の盛り上がる様子を近くから見れるようになっているのだ。


「では以後、声を出すのは禁止にてお願いします」

 

 声は出さずに首を一つ振り、少しだけくぼんだ位置にある椅子に腰かける。

 とうとう自分の番が回ってきたと、どこか落ち着かないように足の上の手を動かすおじいちゃん。

 ディルは以前息子のトールが彼女のシセリアを連れた時のことを思い出していた。

 あまりにテンパりすぎて

『お前には息子はやらん‼』と訳のわからない台詞を口走った時のことを思い出す。

 あの時は地獄だった。本来なら逆じゃろうとか、村の中のお見合いでほぼほぼ婚約内定してるのに何を言ってるんだろうといった考えが一瞬のうちに脳内に浮かび危うく気絶しかけた時のあの記憶を、ディルはいつまで経っても忘れることはないだろう。


(……あの時のことを思い出すと、なんか現状が大したものじゃなくなって来た感じがするの)


 握って開いてを繰り返していたくらいには動揺していたのだが、急に気分が落ち着いてくる。

 一度深呼吸をすると、手汗の冷たさを感じ取れるくらいには緊張が取れてくる。

 少なくともこの売却においては、わしが緊張しても結果変わらんしの。


 しっかりと気を持ち直すのと同時、司会の金髪イケメンが声を張り上げる。


「それでは次の出品に行きたいと思います‼」


 彼がパチンと指を鳴らすのと同時、更に際どい格好をしたブロンズの三人がローラーのついた荷台を持ってくる。全体を覆うように布がかけられており、中の剣が見えないようになっている。

 なんでまた急に露出が上がったんじゃろうか、それにわざわざ隠したりするほどのもんじゃないと思うんじゃが。

 流石に枯れているディルは特に興奮を覚えるようなこともなく、この原因は何にあるのだろうかと考える。


「これから皆様にお見せするのは商品番号no.21、『高い城の巨人(キャッスルタイタン)』です‼」


 バッと布を取ると、あの巨人が使用していたバスタードソードが現れる。

 巨人にとっては片手でも両手でも扱えるというだけで、人間から見ると明らかに極大サイズの大剣である。あれを使えるのは全身に筋肉を張り付けた巨漢の大男か、剛力スキルを持つような人間だけだろう。


「この武器は今回のサイクロプスの討伐で発見された、唯一の魔法の武器(マジックウェポン)です‼」


 うーん、やっぱりそれだけ今回の討伐に意味を持たせたいってことなんじゃろうかね。

 こんだけ力を入れてるとなると、思っていたよりも更に高値になるかもしれんのぉ。

 ディルはサイクロプス討伐の一部始終を臨場感たっぷりに話している男の話に耳を澄ませた。話は自分が聴取で話したトリガーサイクロプスの概要に移り、最後には自分が鑑定士の人間から聞いたこの武器の性能に話題が変わる。

 剣の名前までは知らなかったが、恐らく今日初出しにして期待感を煽るような感じにしたかったと考えればまぁ不思議ではない。

 聞いたところでは鑑定結果は剣の速度が振れば振るほど早くなる剣速上昇の能力があるという話じゃったな。ディルが聞いていた通りの性能の説明が終わりさて落札が始まるかのと肩に力を入れると、何故か司会の男は口を閉じた。

 そして大きく深呼吸をしてから、更に声量をあげる。 

 

「なんとこの剣の能力は、実はこれだけではございません‼」


「……え? わし聞いてないんじゃけど」


 出品者に能力が明かされないとか、そんなことってあるの? 驚きから喋るなと言われていたにもかかわらず、思わず声が出てしまうディル。

 完全に気が抜けた彼にできたのは、ポカンと口を開きながら司会の話に耳を傾けることだけだった。

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