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わしジジイ、齢六十を超えてから自らの天賦の才に気付く  作者: しんこせい(『引きこもり』第2巻8/25発売!!)


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なんで

 ディルのスキル見切りの冴えは、ここ最近上り調子なきらいがあった。

 彼は動きの本質を掴み、攻撃の予兆を捉え、それを戦闘に組み込めるようになってきていたのである。このスキルの汎用性の高さは、戦闘用に限ったものではないのかもしれない。

 そんな風に思い始めてしまうのにも無理はない。


 ディルはサイクロプス討伐が始まってからというもの、可能な限り見切りを使うように心がけていた。以前と比べればずいぶん軽くなった副作用のおかげで、長時間使うのでなければ見切りをある程度は連続使用しても問題ないくらいには彼のスキルとの親和性も上昇していたのである。

 

 ムーサ達が目配せをし合い、ディルになんの合図もせずに飛び出していったその瞬間、ディルが使用していた見切りが彼へと何か漠然とした警鐘のようなものを鳴らした。

 それは未来予知よりずっと不確かで曖昧な、ある種の推測のようなものでしかない。

 だがディルは自分をおいていこうとする三人の背中に、危うさのようなものを見て取った。

 理由はわからんが、このままだと少しまずいことになるかもしれん。

 

 そんな風に考えたディルは彼女達に追い付くことよりも先に、周囲にいる冒険者達を応援に駆けつけさせることを選んだ。

 見切りを使い強引に進めば、恐らく三人に追い付くことはできるだろう。だが追い付いたところできっと自分の言うことは聞かないだろうし、そんな状況では忠告など聞き入れてくるはずもないだろう。

 それならば彼女達の先輩にあたる冒険者達を連れていけば問題はないだろう。

 

 ディルはあちらにサイクロプスの大群がいた。それを見て成果を焦った三人が飛び出していってしまったという偽の情報を流した。

 あちこちに散らばり始めていたサイクロプス達の手がかりなど、あってないようなものだ。もちろん胡散臭い爺の言うことなど聞かんという者も一定数いたが、信憑性はともかくとして行く宛もないしとりあえず行ってみるかという層もこれまた一定数がいたのである。

 そんな彼らの後を追うようにそこそこのスピードで駆けていたディルは、自分が吐いた嘘が誠になってしまっていることを知っていく。

 明らかに待ち伏せ、偵察をしているようなサイクロプスの個体を見るにつれ、彼らの顔には喜色が浮かぶようになる。

 だが反面、ディルは眉をしかめていた。


 もしかしたらサイクロプスの上位種や異常種といった、例外的な魔物が統率を取っているのかもしれない。そんな彼の予測を裏付けるように、周囲の先輩冒険者達もその可能性について語り出す。


 だとすればそれに釣られ先へ進んでしまったムーサ達は……そう考えると自然、足が動き始めていた。

 見切りをフルで使用し、自分の限界いっぱいの速度で前へ前へと駆けていく。

 間に合え、間に合え、間に合え‼ 

 ディルは彼女達を助けるというその一心で隘路を進んでいった。

 そしてその努力は報われた。

 トリガーサイクロプスの必死の一撃を、彼は受け止めることに成功したのだから。



 周囲からは既に戦いの音が聞こえ始めていた。

 魔物の悲鳴、そしてその大声に隠れて籠って聞こえる人間の悲鳴。

 断続的に音が響く空間で、ディルは周囲の雑音の全てを意識の外へと飛ばしていく。

 

「グーアッ」


 今の自分ではかなり厳しい、恐らくは格上。

 一撃の衝撃を地面に受け流すことでなんとか防御に成功していたディルは、目の前にいる異様な風体の敵の姿を見つめる。

 やって来る途中、横目で見ていたサイクロプスと比べると、身長は少し低い。

 大きさはそれほどではない、だが一撃は信じられないほどに重かった。


(一体どれだけ筋肉が詰まっとるんじゃ……腕の痺れが取れんわい)


 一旦距離を取るが、急に接近してくるような気配はない。

 振り返ることはせずに、後ろに声をかける。

 

「大丈夫かの?」

「……ああ」

「そうか、それならいいんじゃ」

「なんで……どうして、来た?」

 

 こちらなど歯牙にもかけぬと言いたげな魔物を前にしては、流石に髭をもしゃもしゃする余裕はない。

 ディルは相手を見据えたまま、頭を考えずに思ったところを口にする。


「そりゃあ、危なそうだったからの。四人で動くんだから、助け合いは重要じゃろう」

「だからって……っつぅ……‼」


 戦闘のせいで痛めたのか、苦痛の漏れる声が聞こえてくる。


「おいジジ……いや、ディル」

「なんじゃね」

「お前……死ぬぞ」

「ほっほっほっ」

「何がおかしい‼」


 冒険者達よりも少し突出している形になる現状、ディルとムーサ達は浮いた駒だ。

 ちょうど隠れた位置になっているこの場所では、冒険者達に気づかれるまでには少しばかり時間がかかるだろう。

 誰かに見つけてもらえるまで時間を稼ぐことなどできない。

 彼女は相手の強さを見て、そう確信したのである。 


「安心せい、ムーサ」


 トリガーサイクロプスが痺れを切らし、風切り音を鳴らしながら突進してくる。

 その手に持っているのは他の一つ目達とは違う、大振りのバスタードソードだ。


 振り下ろしを受け流すため、腰を更に曲げて左右にしなを作る。

 インパクトの瞬間にスッと重心を動かし、上にかちあげるように黄泉還しを振った。

 流石に相手の攻撃を跳ね返すには至らないが、攻撃を最低限のダメージで受け流すことはできている。

 相手の攻撃は基本的には大振りだ。気を張って、気力が持ちさえすれば防御自体はなんとかなりそうに思える。


「わしね……結構強いんじゃよ」


 目標は時間稼ぎだ。

 機会があれば痛打を与え、あわよくば殺してしまおう。

 こいつを倒したら一体いくらになるじゃろうか。そうやって倒せるヴィジョンを明確に作り上げていきながら、ディルは見切りを発動させた。

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― 新着の感想 ―
[一言] ほーん、ジジイかっこいいじゃん。
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