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わしジジイ、齢六十を超えてから自らの天賦の才に気付く  作者: しんこせい(『引きこもり』第2巻8/25発売!!)


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本物の……

 馬車に乗り込み移動を開始してから数時間もすると、目的の場所までやって来ることができた。

 一度連絡を取り合い欠員や体調不良の者がいないことを確認してから、ざっくりと隊伍を組んで先へと進んでいく。

 ディル達はその一向の、最後尾の少し前あたりに陣取ることになった。

 安全の確認がとれている道では馬車の最後尾を行っていた彼らではあったが、どこから攻撃がやってくるかもわからない現状ではそれは難しい。

 実力者をしっかりと殿に据え、彼らはその補助をするような役割を果たすことになっていた。


「……おい、今なんか動かなかったか?」

「風で草がそよいだだけ、ムーサは気にしすぎ」

「そうか、それならいいんだ」


 細い道や荒々しい獣道を抜け、彼らはラルラル山が視認できる位置にまでやってきていた。 

 前方にいる冒険者達と貴族達の連合軍の背中がしっかりと見えているおかげで、緊張はそこまで大きくはない。

 だがやはり明らかに人間のものよりも大きな足跡や、所々に見えている破壊の痕を見ると、恐れというものは湧いてくるものだ。

 ムーサの神経過敏気味な様子とは対照的に、その隣を歩くディルの様子は変わらない。

 大して実力もないように思えるジジイが飄々としていることに、ムーサは驚きや違和感よりも怒りの方が先に来た。


「ハッ、いいよなぁ戦う力のないやつはよ。守られるからって安心してていいのかい?」

「まぁ、こういうのはなるようにしかならんからの」


 何度挑発しても激発しないディルの様子が、ムーサには腹立たしかった。

 冒険者になってから二年目。

 女らしい趣味や身だしなみへの心遣い、そういったものをほとんど全て擲って彼女はこの場に立っていた。

 そろそろC級昇格が見えてくるという段になって、強敵と戦う経験を積もうと考えサイクロプス討伐へとやってきた。

 自分よりも強い魔物と戦う時が近づいてきている。

 そのことに自然脈拍は上がり、全身を恐怖とそれに倍する高揚感が包み込んでいく。

 これでまた自分は、強さの階段をかけ上がることができる。

 そして途中で段を踏み外すつもりなどない。

  

 自分に言い聞かせ、最高のパフォーマンスを発揮し、それを現実へと変える。

 そんな自分の晴れ舞台、今まで苦楽を共にしてきたパーティーの中に入った一人の異物。

 よぼよぼで、豊かな髭を蓄えた老人。

 年を取っているにもかかわらずなぜか冒険者になり、すぐにD級冒険者に上がった期待のルーキー。

 ギルドから一緒に行動をするようにという通達を受けたときは、言葉が出なかった。

 そして実際に馬車で行動を共にするようになって、言葉の代わりにため息が出るようになった。

 確かに持っている武器は普通ではなさそうな感じがする。着けている防具もD級冒険者が着けるにしては上等だ。

 だがそれを着けているのが老人ということになれば、話は変わってくる。

 自分達の同行を観察するように命じられたギルド側の人間という線も疑ったが、そうではないことはすぐにわかった。

 試験も受けず、のうのうと馬車に乗り、腰が痛い痛いとわめいている爺。

 老人を軽視するわけではないが、流石に場違いであるとは感じる。

 自分が、自分達がどんな気持ちをもってこの場に立っているのかをわかっていないその様子は、到底許せるものではない。

 ムーサの態度は自然厳しくなるが、それに堪えた様子もない。


(……はん、まぁこいつを適当に放置して三人でやりゃあいいだけのことだ)


 討伐は基本的に四人単位で、そしてある程度目処がついてからは自由裁量で行われることになっていた。

 恐らく自分達の役目は残党狩り、逃げ散ったサイクロプス達の討伐になるだろう。

 ムーサはディルと時おり話をしているフィロに対し忠言をしつつ、前の冒険者達に従って歩いていった。


 そしてサイクロプス達の部隊と人間達が戦うことになり、彼女達は後詰めの役目を与えられた。

 林の中に隠れ潜み、斥候からの情報を待つ彼女達。

 じりじりと焦がれるように待ってから半日ほどが経過してから、向こうからの連絡がやってくる。

 我ら、勝利せり。

 ムーサはその報に喜び、そして勇んだ。


 よし、ここからが私達の時間だ。

 ムーサはパーティーメンバーの二人と目配せをし合い、待機命令の解除と同時に森の中へと駆け出していった。

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